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帰る場所
しおりを挟む華麗に屋根裏から飛び降りた(はず! の)透夜は、うずくまるちっちゃな子どもを覗き込む。
「どした? どっか痛い?」
「ひ──!」
涙の溜まった緑の瞳が、驚愕と恐怖に見開かれた。
陽の光のような髪が、ふるえてる。
「……あ」
慰めようと思って降りてきたけど、突然天井から降ってきた、暗殺者みたいな闇衣の不審者だった──!
自らの立ち位置をようやく自覚した透夜が引き攣る。
「あ、ご、ごめん、びっくりさせたな。危害を加えるつもりじゃないんだ。ただ、泣いてる声が聞こえたから、痛いのかなって……心配になって……」
もごもごした透夜は、怯える子どもをそうっと覗き込む。
「怪我してないか?」
怖がらせないよう、そうっと聞いた透夜に、子どもはこくりと頷いた。
虐待される子どもは怪我を隠したりするけれど、見たところ痛むところを庇うおかしな動き方はしていない。
精霊さんに
『だいじょぶそう?』
声を出さずに聞いてみた。
『身体は無事だよ。心はしょげてるみたいだけど』
さすが精霊さん、状態把握もばっちりだ。
『ありがとー!』
ぶたれてないなら、ひとまずよかったと胸を撫でおろした透夜は、微笑む。
「ひでーこと言ったり、殴る輩が、サイテーだから。元気だせ!」
わしゃわしゃ、ちっちゃい頭をなでなでして、手を挙げた。
「じゃあな!」
天井裏へと跳ぼうとした透夜の闇衣の裾を、ちっちゃな指がちょこんと摘む。
「……お?」
振り返る透夜を、緑の瞳が見あげた。
「……あの、あの……ありが、とぅ」
ちっちゃな声だった。
真っ赤な頬で、見あげてくれる。
天使か。
「おう。元気出たか?」
わしゃわしゃ陽の髪を撫でたら、少年は恥ずかしそうにこくりと頷く。
「僕、泣いてたの、内緒ね」
「おう! 約束だ!」
笑った透夜は、ふわりと天井裏までひと跳びで舞いあがる。
「──っ!」
目を瞠る少年に、手を振った。
「あ、あの、あの、僕、ミィっていうの。名前──!」
きょとんとした透夜は、微笑む。
「透夜。おやすみ、ミィ、いい夢を」
屋根までひと跳びで上がった透夜は、にやりと笑う。
「今の俺、ちょこっとスパダリぽかったんじゃね?」
合流しようと来てくれた紅蓮と常葉が、生温かい目になってた。
何かあった時のために後方で待機していてくれた皆と合流し、追手がいないか確認、いたとしても追いつけないだろう速度で帰ってきた皆は、眠るロロァとユィルと、微笑んで迎えてくれた空と藤、柳に笑顔になった。
帰る場所があるって、すばらしい。
前の孤児院では、床でボロ切れみたいな毛布にくるまって寝てた。
おかえりも、いってきますも、何にもなかった。
あんなの、帰る場所じゃない。絶対違う。
皆の笑顔にまた泣きそうになった透夜は、目を擦った。
描き直した地図を、皆が見られるように大きな食卓に広げる。
帝宮の地図は殆ど記憶と一致していたが、新たに隠し通路が作られていたり、隠し扉の奥に部屋が造られていた。
「衛士の巡回経路が変わってたんだな」
透夜の確認に、紅蓮と常葉が頷いた。
「前は、この辺、いなかった」
「今、ぐるぐる」
「なるほど」
紅蓮と常葉が指し示すのは、透夜が泣いている少年を慰めた辺りだ。
「……ユィルがいなくなって、重要性が増した?」
ということは……
浮かんだ可能性を否定した。
自分から突っ込んでいったなんて、サイアクだ。
失態が多過ぎる──!
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