37 / 101
はじめてごはん
しおりを挟むお粥もスープも、ぐつぐつぐつぐつしてる。
焦げないように透夜は水を手から継ぎ足しつつ、くつくつを見守った。
透夜とでっかいお鍋を見守る皆が、ちょっと遠巻きで、期待と不安のないまぜになった顔をしてる。
でも、いい匂いするよ!
ちょこっと食べてみた透夜は、ようやく『おーん?』じゃなく拳を掲げた。
固くない!
噛んだ時『うーん?』ってならない! よし、いける!
「精霊さん、どうよ! 毒もないし、だいじょぶだよな?」
『だいじょぶー!』
すぐ答えてくれる、ありがとう!
「よし、やーらかくなった、毒もない! 喰ってみよう!」
お皿とお匙は鍋と一緒に皆でこのみのを買ったから大丈夫だ。
皆が自分のお気に入りのお皿を持って、一列に並んでくれる。
番号順じゃない。
それだけで、涙が滲んでしまうほど、うれしい。
「よし、皆に注いでくからな。スープとお粥、熱いから気をつけて」
「う、うん!」
いい匂いのする、湯気のたつ料理に、皆の顔から不安が消えてゆく。
「わあ!」
歓声と一緒に、食器と一緒に買った、皆が並んで座れる大きな食卓に着いてゆく。
お匙を持つ、皆の瞳が、きらきらだ。
「召しあがれ!」
スパダリっぽく言ってみた!
おそるおそる皆が匙をスープに入れる。
もぐもぐしたロロァのちいさな顔が、輝いた。
「おいしー! とーや、すごい!」
真っ赤な頬で笑ってくれる。天使だ。
「うめー!」
「食えるよ、トゥヤ!」
仲間の皆も笑ってくれる。
『あったかいご飯』を孤児の皆は、食べたことがなかった。
黴の生えたパンに水、たまに牛乳やチーズ、干し肉が配られるくらいだ。極々稀にもらえる果物はごちそうだった。
ロロァも似たような食事だったのだろう。
皆の弱った胃には、よく煮えた野菜スープとお粥は、ちょうどよかったのかもしれない。
「……おいしー……」
皆の目に、涙が浮かぶ。
見つめたユィルは、噛み締めるようにもぐもぐした。
「野菜と、お肉の味がする」
まるで初めて野菜とお肉を食べたように、不思議そうに瞬いた。
たぶん、こってりソースまみれで、素材本来の味がよく解らないままだったのだろう。
「食べられる?」
ほんのり赤くなったユィルが頷く。
「おいしー。ありがとう、トゥヤ」
宮廷の料理とは比べ物にならないだろうに、笑ってくれた。
ちょっと真面目に料理を勉強しよう。
決意した透夜は、寝台と布団と食卓と鍋とお皿とお匙を完備し、雨漏り対策もした小屋に胸を張る。
「皆で住みやすい家にしよーな!」
「おー!」
拳を掲げて笑ってくれる仲間たちが、天使だ。
「前金を貰ってしまったから、仕事はちゃんとしよう。まずは帝宮の見取り図と偵察だな。事前に警備と、誰が来るのかを把握しておきたい。俺と紅蓮、常葉で行こう」
「了解」
「えー、俺は!?」
ぷくりと膨れる空に笑う。
「声がデカイ」
「あぁうぅうー」
「話せるようになって、ほんとによかった」
空色の髪をなでなでして笑う。
赤くなった空が、ちっちゃな鼻を擦った。
感情を得て、言葉を得た皆は、無個性だった暗殺人形時代が嘘のように、ひとりひとり性格も得意なことも違って、話し方も違う。
当たり前のことが、ものすごく新鮮だ。
いつも無表情だった皆に、性格が生まれてく。
その瞬間に立ち会えたことが、皆が、ほんとうに生きてくれることが、ものすごく、うれしい。
スパダリっぽくないけど
「……泣きそうになっちゃうよ」
ぐすぐす鼻を啜ったら
「いーこいーこ」
ロロァが頭を撫でてくれる。
天使だ。
715
お気に入りに追加
1,678
あなたにおすすめの小説
悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~
紫鶴
BL
早く退職させられたい!!
俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない!
はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!!
なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。
「ベルちゃん、大好き」
「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」
でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。
ーーー
ムーンライトノベルズでも連載中。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
生粋のオメガ嫌いがオメガになったので隠しながら詰んだ人生を歩んでいる
はかまる
BL
オメガ嫌いのアルファの両親に育てられたオメガの高校生、白雪。そんな白雪に執着する問題児で言動がチャラついている都筑にとある出来事をきっかけにオメガだとバレてしまう話。
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる