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天の声も聞こえるスパダリ

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「とーや、すごぃ!」

 拍手してくれたのはロロァだ。期待のきらきらの目で見あげてくれる。天使だ。

 他の皆は期待のキラキラから一転、物凄く不安そうになってた。
 わかる。
 俺も不安だ。
 しかし、今世の俺はスパダリな、はず──!


 拳を握る透夜は、鍋を覗き込む。

「なんか、煮えてきた。精霊さん、ありがとう! いー匂いする。あ、塩! 塩買うの忘れた!」

「お、俺、買ってくるよ!」

 空が走っていってくれた。やさしい。

「はい、トゥヤ!」

 爆速だ。空、すごい。

 塩を入れて、お玉で掻き回してみる。スープを掬って味見しようとしたら、天の声が降ってきた!

『じゃがいもの芽はとったのかな? 毒だよ!』

 おおお! ご感想で、とうかなな様が指摘してくださった!
 聞こえるなんて、俺ってやっぱスパダリ──!
 そうだよ、俺の料理がびみょーなのは、絶対俺のせいじゃない!!!!!

 のはいいんだけど
 目の前にあるのは、じゃがいもの芽入りすーぷ……?


 …………え、もう煮えてる。

 じゃがいもの芽の毒って、加熱しても6割生きてるらしい、やばい──!

 それに異世界の野菜は調理法がなんか違ったりするのかも!

『あ、人参見っけ! じゃがいも見っけ! 米あったー!(喜)』で何の確認もしなかったァア──!


「精霊さん、精霊さん、人間に毒なものが入ってたら、消してください!」

 困った時の精霊さん(ほんもののスパダリ)頼み!

『んん? だいじょぶそうだよ?』
『市場で、毒な野菜は売ってないよ』

 異世界、意外に安全設計だった!

 精霊さんの大丈夫を聞いて、おそるおそる味見してみる。

「うーん?」

 塩を入れ過ぎると死ぬと聞いた! 控えめでいいだろう。うん、減塩減塩。


「異世界の米って、研いでから炊くの?」

 これもご指摘が天の声で聞こえたよ! ありがとうございます!

『とぐってなに?』

 精霊さん、米食べないからな。

「なんかこう、水に入れて、しゃっしゃって力を入れて擦り洗いする?」

『この米は、洗わないほうが栄養とれるよ』
『さっと水に流してゴミだけとれば?』
『洗う人もいるみたい?』
『このみ!』

 すごい!
 情報収集もできる風の精霊さんが、人間の暮らしを検索してくれたらしい。さすがスパダリ!

「なるほど! ロロァさまには栄養をとって戴きたいので、洗わない!」

 が、ゴミはとろう。
 しゃーっと軽く洗い流してみたよ。

「米は、はじめチョロチョロ中パッパ? 赤子泣いても蓋とるな? 呪文か──!」

 不安しかない。どれくらい炊くんだろう?
 蓋とるなって、ひどくない?

 ぐつぐつしてる。

 焦げたらお終いじゃねえ?
 不安だ──!

 蓋、とってみた。

 お粥みたいになってた。
 ぐつぐつしてる。


「ま、まあ、粥をつくったってことで!」

 焦げてなかった、よしとしよう!

 ちょこっと食べてみた。なんか、中が硬い。これ、芯があるっていうのかな? 塩も入れたほうがいいかも。ちょこっとね。


「もちょっと煮よう」

「ほ、ほんとにご飯ができるのか?」

 ユィルが不安を口にした。

「頑張ってる」

「う、うん、ご、ごめんなさい」

 俯いて謝ってくれるユィルが天使だ!




 ちょこっと食べてみて

「うーん?」

 ちょこっと食べてみて

「おーん?」

 繰り返してたら、皆の顔が、どんどん不安になってる!


 頑張れ、今世の俺のスパダリ──!




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