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報告はスパダリで

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 とん

 冒険者同盟の3階建ての邸の前に降り立った透夜は、爽やかに両開きの扉を開けた。

「やあ、戻ったよ」

 爽やかに髪を掻きあげてみた!

 今度こそ決まったぜ──!
 ふふん、俺のスパダリ振りに平伏すがいい──!

 鼻高々で、胸を反らした。


 受付に、おじちゃんは、いなかった。

『現在、仮眠中。緊急のご用の方は、呼び鈴を鳴らしてください』
 札が立ってた。

 ……誰も見てなかったよ。


「うぷぷぷぷぷ!」

 楽し気な声に振り返る。

「トゥヤ、おかえり」
「ユィル、ロロァ、ぶじ」

 孤児仲間が胸を張った。

「……皆のほうがスパダリだよ」

 項垂れる透夜の肩を、やさしい手がぽふぽふ慰めてくれた。


 孤児仲間と交代で見張りをしつつ少し眠ったら夜が明けた。
 ほんの僅かな睡眠で48時間連続で働ける技能を、暗殺人形だった皆は習得している。
 勿論、透夜も。
 こきりと首を鳴らして起きあがったら、いつもどおり起動だ。

 受付にゆくと眠そうな瞼を擦りながら、おじちゃんが手を挙げる。

「おー、おあよー、ぼっちゃん。眠れたか?」

「ああ、皆に寝床をありがとう。これが証拠だ」

 仮眠明けのおじちゃんに、透夜は書類を差しだした。

 いちおう、髪も掻きあげてみた。

 おじちゃん、書類を見てた。

 ──くっ!


「金庫のなかに色々あったから、纏めて持ってきた。こっちが映像記録」

 透夜は魔道具を起動する。

『げへへへへ!』

 笑うぷるぷる腹と髭のおじちゃんがお金をやり取りし、書類をやり取りしているところがばっちり映っていた。

「ほへ?」

 受付のおじちゃんが、あんぐり口を開ける。

「依頼完了! 家をくれ!」

 どーん!

 農家の小屋の見取り図の羊皮紙を叩きつける俺って、スパダリ!

『そこって豪邸を要求するところなんじゃ?』とか
『農家の小屋って……』とか
『荒れ放題なんだろ』とか
『ないわー』とか
 全く全然微塵も聞こえないんだからな!

 ちょっと涙目になった透夜の後ろで、起きてきたらしいユィルが、恥ずかしそうに目を擦った。
 その後ろで、ちっちゃな主の藍の髪が、ぽわぽわ揺れる。

「……とーや? おかえり!」

 ぎゅう

 抱きついてくれるロロァが、天使だ。

「けが、しなかった?」

「大丈夫です、わがきみ。よくお眠りになられましたか?」

「うん!」

 真っ赤なほっぺで頷いてくれる主が、天使だ。


 後ろで透夜が提出した書類をめくったおじちゃんが

「えぇ!? はぁ!? こ、これ、この情報全部……うぎゃあ!」

 たるたるのお腹と一緒に跳びあがる。
 チョビ髭まで、ちょっとバサバサしてる。

「これは商業同盟案件を越えて、帝都警護団案件だぞ!」

 おじちゃんの手の中で『お隣のお兄さんの下着の色』が輝いてる。

 透夜はいかめしく頷いた。

「そう思って持ってきたんだよ」

 持ってたらだめ!

「お、おそらく、商業同盟と、被害に遭った商家から謝礼金が届くだろうな、帝都警護団からの感謝状も」

 謝礼金、うれしい!
 今回の報酬は家を購入で使い果たす予定だからな。皆のご飯が買えるぞ!

「おお! 悪役の初仕事としては華々しいな!」

 ふふんと透夜は胸を張る。


「……悪役なの……?」

 おじちゃんが引き攣ってる。





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