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がんばったのです
しおりを挟む皆が通れないことを理解したロロァが、ちっちゃな手を組み、透明な壁の前で膝をついた。
「精霊さん、おねがい! 皆を通して!」
キュアァアァ──!
祈るロロァの身体から、やさしい緑の魔力があふれてく。
応えようと精霊さんが輝くのが見えた気がした、瞬間
「──っ、ぁ……!」
壊れそうにガリガリのちっちゃな身体が、くずおれた。
「わがきみ──!」
抱きとめる透夜の腕のなかで、ぼんやり瞬くロロァの焦点が、さまよった。
「魔力枯渇──!? 俺の魔力を──!」
透夜から溢れる魔力が、ロロァの身体を包み込む。
真っ青なロロァを見つめたユィルは目を伏せた。
「魔力枯渇は、今まで身体を巡り、強化してくれていた魔力が消え失せることを意味する。ロロァのこの身体では、魔力が枯渇すると死に至るやもしれぬ」
「わがきみ──!」
涙と鼻水でダラダラになりながら、必死でロロァを抱きしめる透夜を、ユィルのちっちゃな手がぽんぽんする。
「トゥヤの魔力が、今はロロァを補完している。何とか持つだろう」
「……ふぇ、とーや、僕……」
「お話しになってはいけません!
大丈夫ですロロァさま、俺の魔力をすべてお渡ししますから──!」
『それ過剰供給で逆に死ぬから!』
『僕らが調整するから、何もするな!』
精霊さんたちに怒られた。
「無理をすると、トゥヤも私も皆も心配する。
できないことに挑む勇気は素晴らしいが、自らの限界を知るのも大切なことだ」
やさしくロロァの髪を撫でるユィルに、細い息のロロァはしょんぼりしたように目を伏せる。
「……ごめん、なさい……めぃわく……」
「そんなこと、絶対絶対絶対ないから!
我が主は、至高だから──!」
絶叫する透夜に、孤児の仲間たちが生温かい目になってる。
透夜の精霊さんたちがロロァを守ってくれる。
それでも倒れたロロァが落ち着くまで、しばらくかかった。
透明な硬い壁は、相も変わらず聳え立つ。
忌々しい壁を、ぽこんとぱんちする透夜の隣で、ユィルが吐息した。
「ロロァがもっとふっくらして、健康になって、更にもっと精霊さんと仲良くなって魔力が強くなった暁には結界を皆で通れるやもしれんが、今は無理だな」
ユィルの言葉に、透夜も頷く。
「無理をして、わがきみがまたお倒れになったら大変だ。……となると、帝都にいるしかない訳だが……」
透夜の頭のなかにある帰る場所は、孤児院しかない。
「……孤児院に戻るのは悪手だな。帝家の庭だ」
心配する透夜に抱っこされたままのロロァが、そうっと手をあげた。
「あ、あの……とーや……」
「何でしょう、わがきみ」
無自覚なとろけた顔で微笑んで、抱っこの腕をやさしく強くしたら、ロロァが赤い頬で囁いた。
「僕、僕ね、お話、読んだことあるの。
あの、とーやみたぃに、かっこよくて、いーなって思って……」
今、すてきな幻聴が聞こえた気がするな!
こーゆー時に、スパダリなら、キリっとした顔で頷くはずだ。
……ふつーにありえない芸当じゃないか……?
しかし今世の俺はスパダリのはずだ、やってやる!
にやけ下がる頬を叱咤して微笑む透夜の腕のなかで、ロロァのきらきらの目が、透夜を見あげる。
「僕、ぼーけんしゃ、なりたい!」
かわいい。
天使だ。
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