上 下
4 / 102

わがきみ

しおりを挟む



「……あ、あのあの、で、でも僕、な、何にもしてあげられない、けど……」

 すんすん鼻を啜って、しょぼんと肩を落とすロロァに、透夜は笑った。

「きみをたすけ、きみを生かす。BLケームマスターとしての使命を全うする!」

 自称した!

「げ、げーむ?」

「あぁ、うん、たまに変なことを口走るが、気にしないでくれ。ちょっとした前世の記憶だ」

 にこりと笑った透夜は、ゲームやアニメや映画で見たみたいに、颯爽とロロァの前に膝をつく。

「我が忠誠を、きみに」

 ちいさな手をとり、その指に額を押しあてた。


 耳まで真っ赤になったロロァが

「はわわわわ!」

 ぷるぷるしてる。

 かわいー。
 天使だ。


「俺をあなたの従者にしてくれますか?」

 微笑んだら、ロロァのちっちゃな指が、透夜の手を握った。


「……ぼ、僕の、傍に、いて、くれ、る……の……?」

「この命、尽きるまで」

 唇から零れた言葉に、透夜が一番びっくりした。


 ロロァを見ていたら、自然と口にしてた。

 このちいさな幼子こそが、我が主だと。
 仕えるのは王族でも他の誰でもなく、ロロァなのだと。

 まるで当たり前のことのように、唇が紡ぐ。


「わがきみ」


 ……あぁ、そうだ。
 ロロァが救ってくれなければ、死んでいた。


 ならこの命は、きみのために。


 胸に手をあて、こうべを垂れる透夜に、ロロァの藍の瞳が、まるくなる。

 ちいさな指が、透夜の手を、ぎゅっと握った。



「……僕の、傍に、いて、くださぃ……とーや」

 幼い高い声が、名を呼んでくれる。



「はい、わがきみ」

 前世でもしたことのないような、とろけた顔で、笑った気がした。










 ててれってってってー!

 悪役令息の従者に、転職した!



 ふふん、我ながら素晴らしい転職だ。
 自画自賛する透夜がロロァの従者になって一番にしたいのは、主を風呂に入れることだ。

「とりあえず、風呂に入りましょう、わがきみ」

 きょとんとしたロロァが、ぷるぷる首を振る。

「おふろ、ない」

 腐り果ててるうえに、風呂までないとかふざけるのも大概にしろ!
 ぷりぷりした透夜は、隙間風びゅーびゅーの邸内を探索、埃に塗れて物置と化している風呂を発見した。

「ありました、わがきみ。ちょっと掃除するので、お待ちください」

「だ、だめ、傷まだ、塞がったところ、だから!」

「内臓ぶちまけながら走ったことあるので、へーきです」

 親指を立ててみた。
 ちっちゃな主の顔が、真っ青になった。

「ま、また傷開く、から、だめ──!」

 きゅう、と抱きついてくれるロロァが、髪がべったりでも、めちゃくちゃ天使だ。

 ずっと一緒にいるおかげで、鼻も麻痺していてくちゃくない。ありがたい。

 しかし、主がお風呂にずっと入れなくてくちゃいというのは、従者としてだめだろう!

「うーん、じゃあ傷が開いたら治癒魔法かけてください」

「だ、だめ!」

 ぷるぷるロロァが首を振る。

「そんなに従者を大切にしてくれなくていいんですよ?」


「とーや、大事なの!」

 真っ赤な頬で、うるうるの目で、見あげてくれる。


 こんな天使が悪役令息とか、このゲームどうなってんだ、ごるァアア──!


 絶叫したい気持ちを押しこめた。





しおりを挟む
感想 110

あなたにおすすめの小説

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです

魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。 ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。 そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。 このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。 前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。 ※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

処理中です...