136 / 194
たったひとつの
しおりを挟むとても離れがたいのだけれど、帰る時間になってしまった。
皆を抱きしめて鼻をすするリトに、もふもふの皆がぎゅうぎゅう抱きついた。
お別れは、いつも、さみしい。
「今度は、甘いお菓子もいっぱい持ってくるね」
名残惜しそうにテデが皆に手を振った。
「また近いうちに伺おう」
やさしく頭をなでてくれるジゼの言葉に、リトは蕩けて笑う。
次がある。
きっと、また逢える。
そう思えることが、どんなに希少でありがたく、あたたかいことなのか、リトはもう知ってる。
「ありあと、ござまし。皆、元気、でね!」
ちっちゃな獣人の皆を抱きしめて、涙の滲む瞳で笑ったときだった。
「リト、俺、成人したんだ。青狼の血を引いてる。獣人のなかでは、かなり強いと思う」
突然のアオの自己紹介にきょとんとしたリトは、こくりと頷いた。
獣人の強さは、何の獣の血が流れているかに因る。
強いのは虎や熊や狼、自然界で強い獣と同じなのだけれど、獣人の場合、自然界の獣にはあまりない色を継ぐ者がいる。
赤虎や青狼だ。
一見しただけで誰もが解るほど、強い。
だからいつも獣人たちの群れの頭になる。
人間でいうなら王族みたいな感じかな?
圧倒的に強いので、皆を護り導く盾と剣になってくれる。
「さぃきょー、一角、でし!」
照れくさそうに頷いたアオが、リトのちっちゃな手を握る。
あんなにちっちゃかったアオが、こんなに大きくなったのか。
包み込まれた手にびっくりするリトに、真っ赤な頬でアオが告げる。
「リトの伴侶に、なりたい」
まっすぐな群青の瞳に見つめられたリトのしっぽが、爆発した。
「………………え………………?」
「リトが成人するまで、ずっと待つから! ずっとリトと一緒にいたい。俺と暮らそう、リト!」
真っ赤な頬と、燃える瞳と、ふるえる、あたたかな手に、つつまれる。
茫然とリトはアオを見あげる。
嘘や冗談を言う目じゃなかった。
耳まで真っ赤になって、ふるえる手で、リトの指を握って、懸命に言葉を紡ぐアオを見あげる。
リトはジゼの従僕だ。
最愛の推しが、最高にしあわせになるために尽力する、ゲームのどこにも出て来ない、モブでさえない存在だ。
リトは、ずっとずっと、ジゼの傍にいたいけれど。
リトにできることは、ジゼを応援することだけ。
ジゼの傍にいられることは、至上のさいわいだけれど。
ジゼと誰かがしあわせになるところを見続けるのは、リトの胸を砕き続けるだろう。
アオと一緒になって、しあわせに暮らして、ジゼを応援する。
それは、最上の道に思えた。
リトがしあわせになれる、唯一の道にさえ、思えた。
ぎゅ、とリトは唇を噛む。
「……ごめなしぁ」
ふるえる、ちいさな、ちいさな声に、アオの顔が歪む。
「……僕、ジゼしゃま、従僕、終生、ぉ仕え」
リトは顔をあげる。
「僕、いちばん、だぃじ、ジゼしゃま、でし」
一番大事にできないなら、絶対に、傷つけてしまうから。
ジゼが誰を選んで、誰としあわせになろうと
僕は、ジゼのものだから
「……ごめなしぁ」
あふれる涙と、頭をさげた。
1,091
お気に入りに追加
3,604
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
光と闇の子
時雨
BL
テオは生まれる前から愛されていた。精霊族はめったに自分で身籠らない、魔族は自分の子供には名前を付けない。しかしテオは違った。精霊族の女王である母が自らの体で産んだ子供、魔族の父が知恵を絞ってつけた名前。だがある日、「テオ」は消えた。
レイは生まれた瞬間から嫌われていた。最初は魔族の象徴である黒髪だからと精霊族に忌み嫌われ、森の中に捨てられた。そしてそれは、彼が魔界に行っても変わらなかった。半魔族だから、純血種ではないからと、蔑まれ続けた。だから、彼は目立たずに強くなっていった。
人々は知らない、「テオ」が「レイ」であると。自ら親との縁の糸を絶ったテオは、誰も信じない「レイ」になった。
だが、それでも、レイはただ一人を信じ続けた。信じてみようと思ったのだ。
BL展開は多分だいぶ後になると思います。主人公はレイ(テオ)、攻めは従者のカイルです。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。
N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い)
×
期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい)
Special thanks
illustration by 白鯨堂こち
※ご都合主義です。
※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる