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スライディング!

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「あガ、ががガァガ──!」

 口を氷塊に刺された人々を睨みつけ、溢れる凍気の渦とともに馬車から降りたジゼが、レォンの前に膝をつく。

「ご下命あれば、即刻首を落とします」

 馬車止めを取り囲んでいた人々が、凍りつく。
 氷塊の刺さった人々が、真っ青になって内股になった。
 大勢の人がいるのに、ショロショロお漏らしの音が聞こえるほど、静かだった。
 嗤う声もしないほど、張り詰める緊張さえ凌駕するジゼの凍気がすべてを覆う。

 ぴょこんと跳びあがったレォンのお背なのちっちゃな翼が、揺れた。

「……あ、あの……あの……違う、種族は……きもち、わるく……思える、ことも……ある、と思、う……」

 レォンがそうっと、ちいさなかんばせをあげる。


「皆は、僕が……きもち……わる、い……?」

 泣きだしそうに揺れる闇の瞳に、リトはふるえるちいさな身体を抱きしめた。


「めちゃくちゃ、かわぃー! でし!」

 ぽふぽふ揺れるしっぽに抱っこされたレォンの頬が、ほんのり赤くなる。


 馬車から降りたセバが、銀縁眼鏡の向こうで微笑んだ。

「大変大変大変大変愛らしくていらっしゃいます、レォンさま」

 うやうやしく差しだされたセバの手を借りて馬車から降りたゲォルグが、うむうむしてる。

「セバが私以外の誰かを褒めるのは面白くないのですが、レォンさまほど愛らしいと、仕方ありません」

 ふうわりゲォルグが笑って、顔をあげたジゼも頷いた。

「めちゃくちゃかわいーです」

 拳を握ってる。


「……ふぇ……!」

 泣きだす瞳を、リトのちっちゃな腕が、抱きしめる。


「レォンしゃま、とびきり、かぁいーのでし!」

「リト──!」

 ぎゅうぎゅう抱きあうリトとレォンに、ちょっとジゼが唇を尖らせて、ゲォルグは集まった人々を睥睨した。


「我らはレォンさまのご温情で生きている。理解できぬ者は、死ね」

 ゴオォァアァアオォオオオオ────!

 ゲォルグの周りに異次元の凍気があふれ出す。

「ひぃイイイ──!」

 泣き叫ぶ人々の悲鳴が天を裂き、ぱたぱた駆けてきた小柄な男の子が

 ズザァアァアァア──!

 スライディング土下座を放った。

「誠に誠に誠に誠に誠に誠に申し訳ございません、レォンさま──! 僕が平伏してお迎えすべきだったのに、捧げるお菓子の最終点検を行っていたら思ったより早くジェディス家の馬車が到着したとの報が! お出迎えも間に合わず、あるまじき暴言に、お心を害されたと思います。ここは責任者たる僕の首を以て、どうか、どうかこの国を滅ぼすことだけは、お思い留まっていただけますよう、伏して! 伏してお願い申しあげます──!」

 地面に額を擦りつけて謝る男の子の頭には、ちっちゃな冠がのっていた。
 その後ろから猛然と駆けてきたルァルも、その子の隣でスライディング土下座を放つ。

「レォンさまにご不快な思いをさせてしまうなど、断腸の思いにございます。誠に誠に申し訳ございません──! 母帝とわたくしの首で、どうか、どうか憤激をお治めいただけたらと、伏してお願い申しあげます──!」

「誠に、誠に申し訳ございません──!」

 後ろから駆けてきた侍従たちも、ルァルの後ろで一斉にスライディング土下座だ。

 ことの重大さをようやく認識した人々が、一斉に額を地面に擦りつけるようにうずくまった。




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