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がんば!
しおりを挟むリトはちっちゃな拳を握る。
通訳の使命は頑張って果たすのです!
今ひとつ通じないとか聞こえない!
うなれ、僕の滑舌──!
「歯、抜く、槍、撃つ、攻撃、しなぃ、くだしあ! 歯、冷え冷え、いたい、いたぃ、よぼー、しゅりゅ!」
噛んだ!
レォンのおっきな目が、生温かくなった。
『……わ、わかた……』
悲壮な決意をしたのだろうレォンの、巨大な鉤爪を、リトのちっちゃな指が握る。
「お手々、握てる、でし!」
「ぁう……っ」
おっきなレォンの、おっきな瞳が、うるうるした。
ばっしゃーん!
涙を被ったリトが、びしょびしょに濡れそぼる。
「リト!」
飛んできたジゼと一緒にやって来てくれたノァが、風魔法でリトを乾かそうとして、ぺしょぺしょに垂れた耳としっぽに、止まった。
「いや、このぺしょぺしょ、萌えじゃない?」
「ぐぅ──!」
ノァの突っ込みに、ジゼが胸を押さえてうずくまる。
「待て、リトが風邪をひくのを心配する者こそ、本物だろう!」
ルァルに突っ込まれたジゼが、反省するように項垂れた。
「す、すまない、リト、その、めちゃくちゃ……」
もごもごジゼの口のなかで消えた言葉は、獣人の耳を以てしても聞こえなかった。
『あぅあ、ご、ごめ、ね……!』
ぽろぽろ涙をこぼすレォンを見あげたリトは、ぶんぶん首を振る。
「歯、抜く、こぁい、でし! 僕、お手々、にぎゆ!」
噛んだ!
ルァルの目が、ちいさきものを見る目になってる。
反応してくれるのは、ルァルとレォンだけだよ、ありがとう!
「リト、それでついさっき、大変な目に──!」
強制覚醒の時のことを心配してくれるやさしいジゼの言いたいことは解る。
フラグだ。
旗とは、へし折るために、あるのでし!
ここでカィトが間違ってリトの頭を貫くとか、そういう展開はBLゲームにはなかった!
いや元々リトいないとか、龍さん虫歯になってないとか聞こえない!
期待の目で見つめられたカィトの無表情でクールなかんばせから、ダラダラ汗が滴り落ちてる。
……だ、だいじょぶかな……
よし、励まそう!
「カィトしゃま、がんば!」
ぽふぽふしっぽと一緒に拳を握ってみた。
引き攣った頬で、頷いてくれた。
「よし、歯の周囲を冷却、血管が収縮した。今だ、カィト!」
ジゼの掌からあふれた氷魔法が、レォンの歯と歯茎を冷やしてくれてる。
ブルブルしたカィトは、むんと槍を振りかぶった。
「いきます!」
カィトの隆々たる力こぶが盛りあがる。
ドォン──!
放たれた槍は寸分違わず、虫歯のまだ残存しているエナメル質を貫いた。
『ぎゃー!』
虫歯に槍を撃ち込まれるとか、拷問だよね!
レォンと一緒に飛びあがったリトは、ぎゅうぎゅう震える鉤爪を握る。
テデの掌が緑に輝き、ジゼの掌が蒼にきらめき、ふたりの魔法が痛みを抑えた。
『あがあが』
口に槍が刺さると、口が閉じられない。
切ない瞳のレォンを励ますように、鉤爪をぽふぽふする。
「歯、抜く、いたぃ、いたい、ぴゅー!」
こくこく頷くレォンの鉤爪をしっかり握ったリトは、お願いする。
「歯、抜く、くだしぁ!」
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