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たすけに
しおりを挟むマゥムの暴言にジゼとテデが眉を跳ねあげるより早く、ルァルが吐息する。
「すぐ動ける治癒士、尚且つ山登りの体力のある治癒士として連れてきたが……」
睥睨が、マゥムを刺した。
顎をあげてテデを見下していたマゥムの顔が、青くなる。
「すまないな、テデ。自らを才なき者と定める者に、才あると謳われるまでに成された尋常ならざる努力も、痛みも、苦しみも、解らない」
ルァルの言葉に跳びあがったのは、テデだ。
「そ、そそそそんな! ルァル殿下が謝罪なさることなど、なにもございません!」
「そ、そうです、殿下! わ、私は事実を言っただけで──!」
ルァルが鼻を鳴らす。
それだけで、マゥムは黙った。
「テデは素晴らしい治癒士だ。勧誘を断られ、ジェディス侯爵家に仕えるようになったことを、母帝は今も残念に思っておられる」
ルァルの言葉に、マゥムは屈辱にだろう歪んだ顔を真っ赤にし、テデは目を伏せた。
「捨て子の僕を拾ってくださったのも、教育を受けさせてくださったのも、治癒士としての才能があると学究院に推薦してくださったのも、学費をすべて賄ってくださったのもジェディス家です」
ちいさな手を握ったテデが、顔をあげる。
「僕は、ジゼさまにお仕えし、ジゼさまのお力となるために、生まれたんです」
息を呑むジゼに、テデは照れ臭そうに笑う。
「リトを回復できたことを、誇りに思います。僕は、自分の魔力を追跡できる。リトは、無事です。
……ただ、とても近く、とても遠いところにいる。……僕らの力では──」
アリアスが、おずおず口を開く。
「……失敗するかもしれませんが……光魔法、使ってみましょうか」
「頼む──!」
ジゼは頭をさげる。
桜の瞳を見開いたアリアスは、ふうわり笑った。
「リトのためです、がんばります!」
風もないのに、アリアスの桜の髪が舞いあがる。
アリアスの身体から、やわらかな桜の光が噴きあがる。
「おお! スチルっぽい! でもこんなのゲームになかったけどなー、ふつう闇龍と戦闘だよね?」
アリアスの呟きに、皆の顔が真っ青になった。
突然現れた真っ暗な穴にリトが落ちた = リトが闇龍のところにいるかもしれない!
それは、絶望だ。
リトに、闇龍と戦える力はない。
もう間に合わないかもしれない。
だが、テデの言葉を信じるなら、まだ希望が──!
「皆は残ってくれ、俺が行く──!」
叫ぶジゼの肩を、ルァルの手が叩く。
「俺も行く」
「俺も」
「ぼ、僕も」
カィトが、ノァが、ジゼの肩に手をのせた。
「勿論、僕も行きます!」
テデがちっちゃな拳を握る。
ルァルは冷たい瞳でマゥムを振り返った。
「ではマゥム、伝令として残れ。一刻待って我らが帰ってこなかった場合、即座に帝都に帰還し、帝王陛下に奏上せよ」
「か、畏まりました!」
安堵したように頷いたマゥムが、アリアスの光から後退する。
噴きあがる桜の光が、世界を染める。
アリアスの桜の瞳が、輝いた。
「光の精霊さま、お願いします、マゥム以外の皆と僕を、リトのところへ──!」
パァアァアァアア──!
桜の髪が、舞いあがる。
桜の瞳に、閃光が走る。
華奢な身体からあふれる桜の光に、次元の扉が、開いてく。
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