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お山だよ
しおりを挟む帝宮の奥に設えられた転移門は、ドディア帝国の各地に繋がっている。
主人公のホボーラエ男爵領はかなりな僻地にあるのだけれど、そこにもちゃんと繋がっていた。
魔獣が出る、という噂のある場所には、素早く討伐に行けるよう、必ず転移門が設置されているらしい。
ルァル殿下率いる闇龍討伐隊改め偵察隊、いや見物隊? 一行も、一瞬で近くまで移動した。
「どうか、ご無事で」
近衛騎士たちは転移門で待機だ。
祈ってくれるだけで、ついてきてくれないらしい。
ひどい!
ちょっと涙目な見物隊の皆に、青い顔で騎士たちが手を振ってた。
絶対行きたくないらしい。
わかる。
ジゼに抱っこされたままのリトは、前世の記憶にぼんやりあった、闇龍山を見あげる。
これぞ魔龍の居城とビビりたくなる、真っ暗な瘴気が辺りを覆っていた。
暗雲のなかに雷光が閃き
ドガシャ──ン!
轟音と地響きまでお見舞いしてくれる。
「きゃー!」
ボフボフになったリトのしっぽを、ジゼがきゅうっと抱っこしてくれた。
「だいじょうぶだ、リト。傍にいる」
傷つけないよう、そうっと抱っこして、ボフボフになった耳をなでなでしてくれるジゼに、こくこく頷いた。
真っ青だった皆の顔にちょこっと赤みが差して、うるうる涙目のリトに皆で胸を押さえてる。
雷も怖いけど、真っ暗な瘴気の渦もこわい!
息を吸うだけで、身体にめちゃくちゃ悪そうだよ!
押し寄せる瘴気に、一番前を進むカィトの凛々しいかんばせが引き攣った。
「帰りましょう」
めちゃくちゃイイ声だから腰砕けタンクなカィトのはずなのに、腰引けタンクになってるよ!
かわいいお尻が突き出てる。
隣のアリアスも、涎をじゅるりとしてた。
ちょっと元気になったみたいだ。
よかった。
「あ、あのう、光魔法、使ってみますか?」
おそるおそる進言するアリアスに、ルァルは首を振った。
「いや、今はやめておこう。闇龍の存在を確認したら撤退する」
「い、行く意味ありますか──!?」
ノァが泣いてる。
「闇龍がどんな龍なのか、お伽噺にしかないんだぞ! とりあえず形態を把握、魔力を測定して退却だ。帰って国の総力を挙げて対処可能か、他国の援助が必要か検討する」
「帰れるよう尽力します」
ジゼの言葉が、不吉すぎる──!
真っ青になった皆でカタカタしながら、腰の引けた体勢で、カィト、ジゼ、ノァ、ルァル、アリアス、帝宮治癒士マゥム、テデの順番に進んでゆく。
リトは、ジゼのお胸で抱っこだ。
おかしい。
「山登りですから、気をつけて。足元がわるいですよ」
カィトが注意を促した途端
「あ──!」
まだ足が完全じゃないアリアスが転びそうになって
「危ない!」
さっと手を出したルァルが抱きあげた。
桜の花びらが舞って、桜の光が噴きあがる。
おお、ルァルのアリアスに対する印象が、よくなってる!
「……あ、ありがとう、ございます、ルァル殿下」
真っ赤になったアリアスが、ルァルの腕のなかで目を伏せる。
「ふふん。俺には魅了の魔法は効かぬぞ」
ルァルが掲げるブレスレットが、魔紋を宿してきらめいた。
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