【完結】もふもふ獣人転生

  *  

文字の大きさ
上 下
79 / 208

お山だよ

しおりを挟む



 帝宮の奥に設えられた転移門は、ドディア帝国の各地に繋がっている。
 主人公のホボーラエ男爵領はかなりな僻地にあるのだけれど、そこにもちゃんと繋がっていた。

 魔獣が出る、という噂のある場所には、素早く討伐に行けるよう、必ず転移門が設置されているらしい。

 ルァル殿下率いる闇龍討伐隊改め偵察隊、いや見物隊? 一行も、一瞬で近くまで移動した。

「どうか、ご無事で」

 近衛騎士たちは転移門で待機だ。
 祈ってくれるだけで、ついてきてくれないらしい。

 ひどい!

 ちょっと涙目な見物隊の皆に、青い顔で騎士たちが手を振ってた。

 絶対行きたくないらしい。
 わかる。


 ジゼに抱っこされたままのリトは、前世の記憶にぼんやりあった、闇龍山を見あげる。
 これぞ魔龍の居城とビビりたくなる、真っ暗な瘴気が辺りを覆っていた。

 暗雲のなかに雷光が閃き

 ドガシャ──ン!

 轟音と地響きまでお見舞いしてくれる。

「きゃー!」

 ボフボフになったリトのしっぽを、ジゼがきゅうっと抱っこしてくれた。

「だいじょうぶだ、リト。傍にいる」

 傷つけないよう、そうっと抱っこして、ボフボフになった耳をなでなでしてくれるジゼに、こくこく頷いた。

 真っ青だった皆の顔にちょこっと赤みが差して、うるうる涙目のリトに皆で胸を押さえてる。


 雷も怖いけど、真っ暗な瘴気の渦もこわい!
 息を吸うだけで、身体にめちゃくちゃ悪そうだよ!

 押し寄せる瘴気に、一番前を進むカィトの凛々しいかんばせが引き攣った。

「帰りましょう」

 めちゃくちゃイイ声だから腰砕けタンクなカィトのはずなのに、腰引けタンクになってるよ!

 かわいいお尻が突き出てる。

 隣のアリアスも、涎をじゅるりとしてた。
 ちょっと元気になったみたいだ。
 よかった。

「あ、あのう、光魔法、使ってみますか?」

 おそるおそる進言するアリアスに、ルァルは首を振った。

「いや、今はやめておこう。闇龍の存在を確認したら撤退する」

「い、行く意味ありますか──!?」

 ノァが泣いてる。

「闇龍がどんな龍なのか、お伽噺にしかないんだぞ! とりあえず形態を把握、魔力を測定して退却だ。帰って国の総力を挙げて対処可能か、他国の援助が必要か検討する」

「帰れるよう尽力します」

 ジゼの言葉が、不吉すぎる──!


 真っ青になった皆でカタカタしながら、腰の引けた体勢で、カィト、ジゼ、ノァ、ルァル、アリアス、帝宮治癒士マゥム、テデの順番に進んでゆく。


 リトは、ジゼのお胸で抱っこだ。

 おかしい。


「山登りですから、気をつけて。足元がわるいですよ」

 カィトが注意を促した途端

「あ──!」

 まだ足が完全じゃないアリアスが転びそうになって

「危ない!」

 さっと手を出したルァルが抱きあげた。

 桜の花びらが舞って、桜の光が噴きあがる。

 おお、ルァルのアリアスに対する印象が、よくなってる!


「……あ、ありがとう、ございます、ルァル殿下」

 真っ赤になったアリアスが、ルァルの腕のなかで目を伏せる。


「ふふん。俺には魅了の魔法は効かぬぞ」

 ルァルが掲げるブレスレットが、魔紋を宿してきらめいた。






しおりを挟む
感想 256

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】召喚された勇者は贄として、魔王に美味しく頂かれました

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
美しき異形の魔王×勇者の名目で召喚された生贄、執着激しいヤンデレの愛の行方は? 最初から贄として召喚するなんて、ひどいんじゃないか? 人生に何の不満もなく生きてきた俺は、突然異世界に召喚された。 よくある話なのか? 正直帰りたい。勇者として呼ばれたのに、碌な装備もないまま魔王を鎮める贄として差し出され、美味しく頂かれてしまった。美しい異形の魔王はなぜか俺に執着し、閉じ込めて溺愛し始める。ひたすら優しい魔王に、徐々に俺も絆されていく。もういっか、帰れなくても……。 ハッピーエンド確定 ※は性的描写あり 【完結】2021/10/31 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、エブリスタ 2021/10/03  エブリスタ、BLカテゴリー 1位

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編をはじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

異世界転生した俺の婚約相手が、王太子殿下(♂)なんて嘘だろう?! 〜全力で婚約破棄を目指した結果。

みこと。
BL
気づいたら、知らないイケメンから心配されていた──。 事故から目覚めた俺は、なんと侯爵家の次男に異世界転生していた。 婚約者がいると聞き喜んだら、相手は王太子殿下だという。 いくら同性婚ありの国とはいえ、なんでどうしてそうなってんの? このままじゃ俺が嫁入りすることに? 速やかな婚約解消を目指し、可愛い女の子を求めたのに、ご令嬢から貰ったクッキーは仕込みありで、とんでも案件を引き起こす! てんやわんやな未来や、いかに!? 明るく仕上げた短編です。気軽に楽しんで貰えたら嬉しいです♪ ※同タイトルの簡易版を「小説家になろう」様でも掲載しています。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。 ⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

処理中です...