上 下
66 / 194

目覚めるのです

しおりを挟む



「あぅあ──! リト──♡」

 悶えたアリアスが、首を振る。

「ひ、ひと、りで、だだだだいじょぶ、だから、り、リトは、離れ、て……!」

 涙と鼻水でダラダラになりながらも、魔法陣の外へと押し出してくれるアリアスの手を握る。

「約束、守る、でし!」

 ぎゅう

 ふるえる肩を抱きしめる。

「うわあん! リト──!」

 ぎゅうぎゅう抱きついてくるアリアスの震える背に腕を回す。
 ちょっとでも落ち着いたらいいと、もふもふのしっぽで、ぽふぽふした。

「一緒、がんば、ましあ、アリアス、しゃま」

「リト……♡」

 あふれ落ちる涙と鼻水を、セバが持たせてくれた白いハンカチで拭ってあげる。


「あうあう」

「お傍、いましあ」

「リト──♡」

 抱き合うアリアスとリトに


「思ってたのと違う」

 ついてきたノァが不服そうだ。

「は、離れろ──!」

 ジゼが叫んで

「楽しい!」

 ルァルの目がキラキラしてる。




 ゴゴゴゴゴ……

 どんな魔法の衝撃にも耐えるという重たそうな魔導壁の扉が開いてく。

「ほっほっほ、お待たせしましたの」

 真っ白なお髭が床についている、いかにも魔導士なお爺ちゃんがいらっしゃいました。

 アリアスが泣いてる。
 手を握るくらいで励まされるか解らないけど、でも傍にいるから!

「ふぇえぇえ、リト──!」

「アリアスしゃま……!」

「あぁもう早く終わらせてくれ──!」

 激おこなジゼに、しょんぼりする。

 そうだよね。
 最愛の主人公に、自分じゃない他の誰かがくっついてたら、厭な気分になるよね。

「……ごめなしぁ」

 ぺしょりと垂れる耳としっぽで、ごめんなさい。


「ち、ちが……!」

 ジゼがわたわたしてる。

 しかしジゼの不興を買ったとしても、泣いて震えるアリアスを見捨てる訳にはいかない!


 きゅ、とアリアスの手を握るリトと
 ぎゅうう、とリトの手を握るアリアスと、ふたりの決死の覚悟を躱すような、軽やかな声が降る。

「じいちゃん、さくっと覚醒頼む」

 気さくなルァルに、真っ白なもこもこ眉毛のしたで、おじいちゃん魔導士は頷いた。

「では、お覚悟はよろしいかな?」

 ガタガタ震えるアリアスは、真っ青だ。

「よろしくないですって言いたいよう──!」

 アリアスの涙が止まらない!


「いっしょ、がんば、ましあ!」

 ぎゅう

 涙のアリアスを抱きしめる。

 ぽふぽふ、しっぽでも支えてあげる。

「リト──♡」

 アリアスの目が♡になった瞬間


「では、参ります!」

 おじいちゃん魔導士が、杖を掲げた。
 




 まばゆい光が広やかな間を駆け、床を覆う魔紋が一際大きな輝きを放った瞬間、アリアスとリトは凄まじい衝撃に薙ぎ倒された。


「が、は──!」

 ………………え………………?

 口から血が出た。

 え!?
 付き添いなのに!?

 茫然とリトは、口から溢れゆく真紅の血を見つめる。

 い、痛い痛い痛い──!
 付き添いなのに痛いよう──!

 ぎゅうぎゅうお互いの手を握りしめるアリアスが、白目を剥いてる。


 剥いちゃうよ、痛いよ、わかるよ──!

 あふれる光は、止まらない。
 魔紋から噴きあがる光が、アリアスを、リトを包んで、膨張する。


「ご、は……! が……っ……!」

 唇から、血が、あふれる。

 ドロリとした、あたたかな命の雫が、喉を塞いでゆく。


「リト──!」

 ジゼの悲鳴が、聴こえた気がした。





しおりを挟む
感想 241

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

光と闇の子

時雨
BL
 テオは生まれる前から愛されていた。精霊族はめったに自分で身籠らない、魔族は自分の子供には名前を付けない。しかしテオは違った。精霊族の女王である母が自らの体で産んだ子供、魔族の父が知恵を絞ってつけた名前。だがある日、「テオ」は消えた。  レイは生まれた瞬間から嫌われていた。最初は魔族の象徴である黒髪だからと精霊族に忌み嫌われ、森の中に捨てられた。そしてそれは、彼が魔界に行っても変わらなかった。半魔族だから、純血種ではないからと、蔑まれ続けた。だから、彼は目立たずに強くなっていった。  人々は知らない、「テオ」が「レイ」であると。自ら親との縁の糸を絶ったテオは、誰も信じない「レイ」になった。  だが、それでも、レイはただ一人を信じ続けた。信じてみようと思ったのだ。  BL展開は多分だいぶ後になると思います。主人公はレイ(テオ)、攻めは従者のカイルです。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。

N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い) × 期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい) Special thanks illustration by 白鯨堂こち ※ご都合主義です。 ※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

伯爵家のいらない息子は、黒竜様の花嫁になる

ハルアキ
BL
伯爵家で虐げられていた青年と、洞窟で暮らす守護竜の異類婚姻譚。

【完結】帝王様は、表でも裏でも有名な飼い猫を溺愛する

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
 離地暦201年――人類は地球を離れ、宇宙で新たな生活を始め200年近くが経過した。貧困の差が広がる地球を捨て、裕福な人々は宇宙へ進出していく。  狙撃手として裏で名を馳せたルーイは、地球での狙撃の帰りに公安に拘束された。逃走経路を疎かにした結果だ。表では一流モデルとして有名な青年が裏路地で保護される、滅多にない事態に公安は彼を疑うが……。  表も裏もひっくるめてルーイの『飼い主』である権力者リューアは公安からの問い合わせに対し、彼の保護と称した強制連行を指示する。  権力者一族の争いに巻き込まれるルーイと、ひたすらに彼に甘いリューアの愛の行方は? 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう 【注意】※印は性的表現有ります

処理中です...