上 下
63 / 189

ぶりっこ0

しおりを挟む



「ち、ちが──リトじゃない──!」

 叫ぶジゼに、アリアスの頬がふくれる。

「リト、手、握ってくれるって言ったもん! 痛い僕と一緒にいてくれるって言ったもん!」

 今にも号泣しそうなうるうるの桜の目で見あげられたジゼが

「ぐ──!」

 詰まる。
 桜がひらひら舞って、ジゼの魅了され具合を知らせてくれる。



 桜を見るたび、リトの胸はぎゅうぎゅうする。


 ジゼはどんどんアリアスをすきになって、愛されて、しあわせになるだろう。

 もうジゼの傍にいられなくなるかもしれない。


 それでも、ジゼがしあわせになってくれるなら。


 桜が舞うたび、よろこぶべきなんだ。
 ジゼのしあわせが、降り積もっているのだから。



 ぎゅ、と唇を噛んだリトは、笑う。

「応援、しましあ」

 ジゼの手を握って、ささやいた。

「……え?」

「リトは僕の手を握るの──!」

 涙目なアリアスに、ぎゅうぎゅう手を握られる。
 強制覚醒がむちゃくゃ不安なのだろう、痛いのが苦手なリトも、大変よく解る。


 ドディア帝国では魔法は、16歳くらいで顕現する。
 体内の魔力が練られて、魔法として現出させられるようになるのが16歳なのだという。
 だから16歳になると帝都学究院に赴き、魔導士のえらいおじいちゃん先生に、適性魔法を見てもらうのだ。

 適性がない魔法を使おうとすると、体内で魔力が暴走して大変なことになるらしい。
 適性のある属性を、魔力が熟成した16歳になったら、その属性の魔導士の指導のもと、ゆっくりゆっくり教えて貰ってようやく使えるようになる。
 それがドディア帝国での魔法の常識だ。

 この常識から外れるのが、攻略対象たちだ。
 代々魔法を磨きあげてきた家系の者たちには、凄まじい魔力を内在させ、3歳にして魔法を使える天才が生まれる。

 次期帝王ルァル
 天才魔法少年兼次期筆頭公爵ノァ
 天才魔法剣士兼次期筆頭侯爵ジゼ

 この三人が特に高名だが、天才剣士カィトも防御力や攻撃力をあげる魔法が使えるという。

 天才しかいない。
 さすが攻略対象。

 なので、ふつうは16歳まで待ちましょうで、BLゲームでも16歳になった主人公アリアスが帝都学究院で
『光魔法の適性が──!』
『ドディア帝国唯一の光魔法使い!』
『わー!』
 大歓迎されて、次期帝王や攻略対象たちにお近づきになる、というお約束だった。


 なのに今、皆、12歳だよ!

 ここで登場するのが、強制覚醒だ。
 セバが教えてくれたからリトは知っているが、ゲームにはなかった。

 光魔法などの貴重で大変有用な適性を持つ者は、魔導士おじいちゃんによって全帝国民にサーチが掛けられ、生まれた時から判別され監視されている、らしい。
 更に、国や世界が危機に瀕した時は、16歳未満であっても強制的に魔力を覚醒させ、魔法を現出できるようにするらしい。

 それが強制覚醒だ。

 内臓が裏返るほどの痛みだと聞いた。

 そんな恐ろしい話で怖がらせなくていいよね?
 主人公が光魔法使ってくれないと、世界が滅びちゃうのに!

 アリアスの涙は、かわいこぶっりこじゃない。
 真の恐怖から溢れる涙と震えだ。

 ぶりっこ要素0だ!




しおりを挟む
感想 223

あなたにおすすめの小説

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

処理中です...