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おひるねなのです(有栖様リクエストありがとうございます!)

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 ジゼは、そっと、息を吸う。

 目の前の、安らかな眠りを、壊さぬように。
 リトのしあわせな昼下がりを、守れるように。


 ジェディス家の庭に佇む森に、木洩れ日が射し込む。
 新緑のやわらかな葉を透かす陽が、リトのふわふわの耳に、ほわほわのしっぽに、こぼれる寝息に揺れる白い髪に、光を落とした。

 チチチ

 ちいさく鳴いた白い小鳥が、リトのふわふわの白い髪に埋もれるように着地した。

「……ぅ?」

 開こうとする瞼に、ジゼは囁く。

「おやすみ、リト」

 そっと、リトの頬にかかる髪を撫でる。

 ピピピ

 リトが構ってくれないからか不満げに鳴く小鳥に、ジゼは唇のうえに人さし指をあてた。

「しー」

 拗ねたように白い翼を広げた小鳥が羽ばたいて、ジゼの頭のうえに止まる。
 瞬いたジゼは、ちいさく笑った。

「……ぅ?」

「何でもない。おやすみ、リト」

 ジゼの手が、そっとリトの髪を撫でる。
 やさしく、やさしく、やすらかな眠りをいざなうように。

「……ジゼ、しゃ、ま……」

 ぎゅむ

 寝言で名を呼ばれ、リトにお腹に抱きつかれたジゼは

『ぐは──!』

 仰け反って、燃える頬を両の手で覆って、うずくまりたいのを我慢した。

 至福の膝枕時間が終わってしまわぬよう、そっと、そっと息をする。
 自分の膝のうえの、ちいさなリトの頭のぬくもりを抱きしめるように、やさしく、やさしく、ほわほわの髪を、ふわふわの耳を、そっと撫でた。

「ふへ」

 瞼を閉じたまま、リトが笑う。

『ぐぅ──!』

 呻いて、破裂しそうな心の臓を押さえて、悶えたいのを我慢した。
 リトのお昼寝の時間は、至福の時でもあり、至上の忍耐の試練でもある。

 ジゼが懸命に我慢して、声を立てないように、ひっそり気配を森に溶かしていると、リトに誘われるように、森のあちこちから、ちいさなもふもふがやってくる。

 目を瞠る速さで駆けてきたりすが、リトの髪に潜り込んだ。ふわふわのしっぽが、リトの頬をなでる。

「……ぅ?」

「しー」

 人さし指を唇にあてるジゼに、きょとんと首を傾げたりすが、リトのふわふわの耳を、ふんふんしてる。

 悶えたい。

 苦悶のジゼと、お昼寝中のリトのもとに、ぽしぽしやってきたのは、まっしろな仔うさぎだ。
 真っ赤な目が、ジゼとリトを見あげる。
 後ろ足で立ちあがった小さなうさぎが、前足でリトの膝を、てしてしした。

「……ぅ?」

「しー」

 しずかにね。
 囁くジゼを、うさぎの赤い瞳が見あげる。
 リトの頭をのっけたジゼの膝を前足で、てしてしした。

「……っ!」

 悶えたい。

 ぐっと至上の忍耐を発動したジゼが、前足の根元に手を添えて持ちあげるとびろんとのびる、ほわほわのまっしろなうさぎを抱きあげる。
 膝のうえにリトの頭と一緒にのせてあげると、満足そうにリトのちいさな顔を包むように丸くなったうさぎは、目を閉じた。

「ほわ……!」

 息が塞がったらしいリトの気道を確保するため、そうっと仔うさぎの身体を、リトの鼻と口を塞がないよき位置に移動させる。

「ぷー」

 リトへの密着具合が減って、ご不満そうな仔うさぎに、ジゼは眉を下げた。

「リトが死ぬ」

 ふすと鼻を鳴らした仔うさぎは、仕方なさそうにジゼが動かしたままの位置で赤い目を閉じる。
 ほっと吐息したジゼの前に、やってきたのは真っ白な子猫だ。

「みー」

 ちっちゃい。

 どこから来たんだろう。
 我が家では飼っていないはずだし、ちっちゃい足でやって来るのも大変そうだが、リトの吸引力だろうか。

 前足で、膝をてしてしされたジゼは、崩壊しそうな顔面を押し止め、青い目で見あげる子猫を、みょーんと伸ばしながら抱きあげた。

 リトのちいさな頭と、ちっちゃな仔うさぎの隣に、そっとのせる。
 もふもふで満員だが、何とか入った。

「みー」

 満足そうにリトの鼻を、ふわふわのしっぽで覆おうとするので、あわてて止めた。

「リトが死ぬ」

「みー!」

 不満そうに青い目を吊りあげた子猫は、ジゼの言うことを聞いてくれたらしい、おとなしく丸くなった。

「わん!」

 ちっちゃい艶やかな闇色の子犬が来た!
 リトの吸引力、すごいな……!

 仰け反るジゼは、ぽしぽし前足で膝を叩かれ、眉を下げた。

「すまない、満員なんだ」

「きゅーん」

 耳としっぽがぺしゃりと垂れる子犬を、びろーんと伸ばしながら抱きあげる。

「じゃあ、ここで」

 抱きあげたジゼの腕のなかで、リトに近づいた子犬は、ふんふん鼻を鳴らした。

「わん!」

「しー」

 囁くジゼを闇色の瞳で見あげた子犬は、こくりと頷いて目を閉じる。

 すーすー、皆の寝息が聞こえて、ふわふわのもふもふの毛が、春の風にほわほわ揺れた。

 皆のぬくもりが、あったかい。

 リトの白い髪から、りすのふわふわのしっぽが、ぴょこぴょこしてる。まっしろなうさぎが、リトにきゅっと抱きついて、子猫のしっぽが、リトの頬をなでなでしてる。闇色の子犬のほわほわのしっぽが、リトにお布団みたいに被さった。
 ジゼの頭のうえで、翼を畳んだ小鳥が、まるくなる。

「……ぐ──っ!」

 至上の忍耐を発揮するジゼの向こうで

「ジゼさま、執務のお時間ですよー」

 呼びに来たセバが

「ぐはあ──!」

 胸に手をあててうずくまった。

「しー!」

 ちょっとおこなジゼの『しー』に、真っ赤になったセバが、更に苦しそうに胸を押さえてる。



 春の木洩れ日が、皆の寝顔に降りてくる。

 そのやすらかな眠りを抱きしめるように、そっとジゼは微笑んだ。



 後ろでセバが、悶絶してた。










────────────

 初めましての方、いつも見てくださる方、心からありがとうございます!

 お気に入り1500、ありがとうございます。
 皆さまのいいねやエールやご感想のひとつひとつが、応援してくださるお気持ちが、とてもうれしいです。

 有栖様のリクエストで、リトのお昼寝中、周りに子猫と子犬と子うさぎ達と一緒に寝てるとこでした。
 遠くからでいいとのお言葉ですが、膝枕にしてみました!(笑)
 楽しんでくださったら、とてもうれしいです。



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