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あまいのです
しおりを挟む寝起きのジゼのあまりの尊さに思わず跪きそうになったリトは、あわあわ足に力を籠めた。
「……起きた、ほうび」
すねた頬でリトを見あげるジゼに、頬がとろける。
「ジゼしゃま、よく、がんば、ましあ」
……ほんとに、ふれても、いいのかな……
指を伸ばすたび、ためらうリトを解ったみたいに、ジゼが頭を傾けた。
リトの指に、月の髪が、ふれる。
さらさらの、やわらかな、ジゼの髪を、そうっと撫でる。
「……ジゼしゃま」
月の髪をなでなでしたら、ふうわり眦に朱を刷いたジゼが、上目遣いで見あげてくれる。
「……もっと」
「あい、よく、がんば、ましあ」
いつもジゼが撫でてくれるみたいに
そっと、そっと、やさしく、やさしく
ジゼの頭を、なでなでする。
ほんのり赤い頬で目を閉じてしまうジゼの頬に、そっと指を滑らせる。
「寝たら『め』でし、ジゼしゃま」
「……うん」
伸びたジゼの指に、なでなでしてない方の手を掴まれた。
きゅ
握ってくれるから
ぎゅ
握ってしまう
「お茶、冷める、でし」
「……も、ちょっと」
ぎゅ
絡まる指が、繋がって
燃える頬で、ジゼの頭をなでなでする。
「ジゼしゃま」
あなたの名は、甘くて、苦くて
でもやっぱり、とびきり、あまいのです
リトのお仕事は、ジゼの身の回りのお世話をすることだ。
「あー」
口を開けてくれるジゼの歯磨きをしたり
「失礼、しまし」
ジゼの輝くようなご尊顔を、丁寧に洗ったり、ふかふかのタオルでぽふぽふしたり
「痛く、ない、でしあ?」
月の髪を丁寧にブラッシングする。
ぴょこんと跳ねた寝ぐせは拝みたくなるくらい可愛いけど、丁寧に根元を水で濡らして直してゆく。
「お着換え、しまし」
装飾の殆どないシンプルなジゼの衣を着せるのも、リトの役目だ。
最愛の推しに、こんなにふれられる仕事があるなんて……!
拝んで鼻血を噴きそうになるから困る。
至福で熔けそうだ──!
「ありがと、リト」
はにかむように、ジゼが笑ってくれる。
それだけで、一億年生きていけると思う。
朝のお仕度が終わると、リトのお伺いの時間だ。
「朝ご飯、何しましあ?」
「うーん、今日は鳥のお粥かな」
「かしこま、ましあ!」
ご要望を承ったリトは、ぽてぽて厨房へ向かう。
テデが毎日治癒魔法を使ってくれるからか、引きずる足がちょこっとずつマシになってきた気がする。
ありがとう、テデ!
感謝しながら厨房へ顔を出す。
忙しそうに立ち働く料理人たちの前で、いくつもの大きな鍋が湯気をあげ、いい匂いを振りまいた。
くつくつ煮える音と、トントン切る音、朝から元気のいい料理人たちの声が響いてく。
負けないように、リトはちいさな胸に息をいっぱい吸い込んで、声を張る。
「おあよ、ござまし、リトでし。ジゼしゃま、朝ご飯、鳥、お粥でし!」
「おー、おはよー、リト」
「りょーかい!」
「果物もつけとくな!」
最初は
『獣人って獣なんだろ?』
『凶暴だって』
『言葉が通じないんじゃ?』
戦々恐々としてた料理人の皆さんも、リトがふつーだと解ってくれたみたいだ。
やさしくしてくれる。
感謝しかない。
「ありあと、ござまし!」
丁寧に頭をさげるリトと一緒に、耳としっぽがほわほわ揺れる。
「うぅ──!」
厨房の皆さんが、胸をおさえた。
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