上 下
85 / 109

両親を泣かせちゃいました

しおりを挟む



 目を剥いたネニが絶叫する。

「そんな、ノィユ──! ヴァデルザには金も権力も何にもない、領地だって最低だ。だまされてるんだ、こいつらは顔だけだ──!」

 どうして人の言うことを聞こうとしてくれないんだろう。
 会話にならないんだろう。
 人を蔑んで嘲って、自分が上だと嗤って、そんな人が景品みたいに手に入れたノィユを大事にする訳がない。
 手に入れた瞬間に興味を失って、踏みつけて終わりだ。

 ぐーぱんちで殴りたい!

 最底辺のバチルタ家がそんなことしたら、家が潰れる!
 ……いや、潰れたほうが借金もなくなっていいんじゃ……いや、借金だけは残るアレか──!

 内心わたわたしたノィユは、キリッと顔を引き締める。

「顔だけなのは、バチルタ家です!」

「ぐぅ──!」

 木陰で両親が泣いてる! ごめんよ!

 ノィユは、ぐしゃぐしゃに歪んだネニの顔を見つめる。


「やさしい方だと思っていた僕が、愚かでした」

 ノィユの声が、低くなる。


「もう二度とお会いしません。さようなら」




 あぁあぁあぁ──!
 やさしくていい人だと思ってた自分をタコ殴りにしたい!

 ヴィルのもとへと歩みながらノィユはうなだれた。

 人を見る目がなさすぎる。
 って思ったけど、でもほんとにネニにはやさしいところだってあった。
 本を選んでくれて、持ってきてくれた。
 バチルタだからって出ていけと言わなかった。
 いつもうれしそうに笑ってくれた。
 同じ人が、すごくやさしくもなるし、すごく卑劣にもなる。
 皆色んな顔があって、噴火したら酷いことを言ったりしたりしちゃうけど、あんまりすきじゃないところもひっくるめて、それでもあいしてるのか、無理なのかってことなのかもしれない。

「ヴィルのすべてが大すきだけど! 僕のせいでヴィルにもエヴィさまにも不愉快な思いをさせて、ほんとうにごめんなさい」

 頭をさげたら、ヴィルが頭を撫でてくれる。
 エヴィは激おこだ。

「不愉快極まりないよ! 図書館に1日来ただけで、なんで変なの引っかけてんだ!」

「も、申し訳ありませんエヴィさま! それはあの、バチルタ家の血筋といいますか……」

 ノィユの母が切ない顔になってる。

「なんか変なのが来るんです……すごくやさしくしてくれて何でも相談にのってくれるから親友だと思ってたら、借金を押しつけて夜逃げするし」

 父が泣いてる。

「なんでそんなのにだまされたんだろうって僕も不思議だったんですが、今やっとおかあさまとおとうさまの苦悩が解りました。すんごくいいところしか見せてくれなかったんですね!」

「うわあん、ノィユ──!」

 抱きあって泣きじゃくるバチルタ家に、エヴィが遠い目になってる。

「……今回は早くに本性が解ってよかったよ」

「エヴィさまのおかげです! ほんとうにありがとうございます!」

 バチルタ家一同で、きれいにそろったお辞儀を繰りだした。
 ちょっと面白そうにエヴィの唇の端が上がってる。

「陛下に告げ口、本気でしたいけど、注意くらいだよね。面白くない」

 ふくれるエヴィに、ヴィルはちょっと首を傾げた。


「エヴィと喧嘩、トート噴火、陛下噴火、ネァルガ敵、陛下敵、ネメド王国で、将来、ないと、思う」


 ……絶対に敵に回してはいけない人に喧嘩を売ったようです。





しおりを挟む
感想 239

あなたにおすすめの小説

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です

はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。 自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。 ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。 外伝完結、続編連載中です。

処理中です...