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ギリギリ

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 愛を叫ぶノィユに、エヴィがあんぐりしてる。

 顔をあげたノィユの母は、真剣な面持ちで告げる。

「離れて領地を経営し、一緒に住まないかというお言葉に甘えさせて戴くのは寄生に間違いございませんが、ヴァデルザ家繁栄のために私どもができうる限りの尽力をお約束致しします!」

 潔く寄生を認めた母も拳を握った。

「がんばります!」

 シンプルイズベストな父も拳を握ってる。

 バチルタ家の拳を見つめたエヴィが吐息する。


「……とりあえず詐欺じゃなさそう? で、でも油断はしないんだからね!」

 ふんと鼻を鳴らすエヴィが、可愛い。




 かぽかぽ地上を歩んでくれた馬さんたちに牽かれた馬車が、王都に入る。
 遠くにそびえる王宮と、元気な声のこだまする下町、色とりどりの天幕に彩られた沢山の露店に、ノィユはちいさく声をあげた。

「わあ……!」

 思わず車窓へと身を乗り出したノィユの腰を、ヴィルの逞しい腕が支えてくれる。

「にぎやか」

 微笑んだヴィルが、ぽふぽふ頭を撫でてくれた。

 やさしい。
 かわいい。

 愛しかない。


「ノィユは王都、初めてだったね」

 両親もにこにこしてる。

「……田舎者」

 ふんと鼻を鳴らすエヴィに

「エヴィ」

 トートとヴィルの声が重なって、キッと目を吊りあげてノィユを睨みつけたエヴィは、目を逸らした。


「……お兄さまには、最高の人しか、似合わないのに。顔も、身体も、頭も、気立ても、権威も、財力も、何もかも最高じゃなきゃ、許せないのに。借金まみれの3歳児だなんて──!」

 ハンカチを噛み締めてるエヴィが、かわいそうになってきた!
 こんな枕詞がついてる3歳児なんて、あんまりいないよね、ごめんよ──!


 でもヴィルは、僕の伴侶だから!





 下町から繁華街へと進み、貴族の邸宅街になると街は急に静かになった。
 王宮へと近づくにつれ、広大な邸宅が増えてゆく。

 物珍しく車窓を眺めるノィユに、ふんとエヴィは鼻を鳴らした。

『おのぼりさん』

 言われなくても聞こえる。

 ヴィルがおひざ抱っこしてくれて、窓に身を乗り出すノィユをあたたかな腕で抱きとめてくれているのに、殺人光線が降ってくる。

 いちゃいちゃしないでおこうと思うのに、おひざ抱っこが既にいちゃいちゃでした、ごめんなさい!


「あれ、王宮」

 ちょっと屈んだヴィルが、耳元でささやいた。

 極上の声を耳朶に注がれたノィユが、飛びあがる。


「ひゃあ!」

「の、ノィユ?」

 耳まで燃えたノィユに、ヴィルがわたわたして、ロダがによによして、エヴィがギリギリしてる。


 ……ごめんなさい。


「くぅう──!」

 くやしがるエヴィを見つめるトートが、とてもうれしそうなんですが!


 ギッとトートを睨んだエヴィは、近づく王宮を守るようにそびえ立つ尖塔を見あげる。

「このまま馬車で王宮に乗り入れてもいいのかな?」

 首を傾げるエヴィに、ロダが頷く。


「召喚を受けた日に、3日後の夕刻くらいに着くとお返事しました。諾のお返事をいただいております」

「ヴァデルザ領から3日──!?」

 トートがあんぐりしてる。


「うちのツーとホーは優秀なんだよ」

 ふふんと誇らしげに胸を張るエヴィが可愛い。



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