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はじめての夜

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「あ、あの、あのあの、ヴィルさま、内緒で、しましょう、僕、大歓迎です──!」

 燃える頬で拳を握るノィユに、ヴィルの眉が哀し気に下がる。

「だめ」

 怠ることなく鍛え続けたのだろう逞しい腕が、抱きしめてくれる。


「だいじにする」

 やさしい声が、耳朶に降る。


 あたたかなぬくもりに、ヴィルの香りに、つつまれる。
 うっとり目を閉じたノィユは、そっと、ヴィルの背に腕を回した。

 ちっちゃい手では抱きしめるというより、しがみついてるみたいだけれど、それでもきゅっと抱きしめる。


「……ヴィルさまが、だいすきです」

 広やかな胸で囁いたら、抱きしめてくれる力が強くなる。


「さま、いらない」

「……え?」

「呼んで、ノィユ」


 あなたに呼ばれる僕の名が、あまく、あまく、とろけてゆくように

 僕が呼ぶあなたの名も、あなたの心を揺らすといい


 祈るように、ささやいた。


「ヴィル」


 瞳が、かさなる。
 指が、からまる。

 抱きしめて
 抱きよせて


 見あげる瞳に映るのは、あなただけ


 そっと

 そっと

 唇が、かさなる



 はじめての夜に、はじめてのキスをしました。







「はにゃ──……!」

 蕩けてくずおれるノィユを、ヴィルの逞しい腕が抱きとめてくれる。


「す、すまない、ノィユ、まだ、早かった?」

 あわあわするヴィルに、ぶんぶん首を振った。


「うれしくて、熔けちゃう」

 ぽふりと抱きついたら、安堵だろう吐息をこぼしたヴィルが、ちいさく笑う。


「……俺も」

 ぎゅ、と抱きしめてくれるヴィルを抱きしめたら、きらきら月の光をはじくように、雪の髪から雫が降りてくる。

 そっと指を伸ばしたノィユは、雫をまとう髪を指にからめて、微笑んだ。


「ヴィルの髪、乾かしてあげる」

 えへんと胸を張るノィユに、瞬いたヴィルがすまなそうに眉を下げる。

「冷たかった? ごめん」

 ふるふる首を振ったノィユはヴィルの真っ白な髪に手を伸ばす。


「ほわほわ!」

 ほわほわほわ~

 ノィユの手のひらから零れる温風が、ヴィルの髪を揺らした。

 ぼんやり記憶のある前世のドライヤーが手でできる感じだよ。
 チートな魔法とか、魔法の素質とか全然ないみたいだけど、ドライヤーはできる!
 ちょこっと便利だ。


「………………え?」

 ヴィルの藍の瞳が、まんまるだ。

「僕の魔法、変なんだよね? 母上も父上も、人前でしちゃいけませんって。でも、ヴィルは伴侶だから」

 照れ照れ熱い頬で笑ったら、ヴィルの頬も赤くなる。


「……他にも、魔法を?」

「魔術書でちょこっと練習したことあるけど、両親が3歳で練習したらだめって」

 ヴィルも頷いた。

「身体が、小さいうちは、魔力が、安定しない、んだ。危険だから、あまり、使わないほうが、いいと、言われてる。魔力の制御が、でき、なくて、暴走を、起こして、大変なことに、なることが、ある、から」


 ぽつぽつ心配そうに話してくれるヴィルが、かわいー!


「……俺、話すの、下手で……解った?」

 もっと心配そうになったヴィルに、あわあわしたノィユはぶんぶん頷く。


「わ、わかった!」

 あわあわ魔法を止めたけど、ヴィルの髪は乾いたみたいだ。よかった!





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