上 下
15 / 140

魔力最低クラス

しおりを挟む



 ふわふわの白いドレスシャツの胸元で、黒いリボンがひらひら揺れる。

 ちっちゃくて、ちっちゃい角があって、頭弱く魔力最低な俺。

 うん。
 残念な悪役っぽい。

 校舎は真っ白な石で造りあげられた、夏は涼しく、冬は極寒そうな、3階建ての御殿だ。

 御殿と言ってしまいたくなるほど、柱には彫刻された花や緑が絡まり、あちこちで銀の蝶が羽ばたくようにきらめいた。

 校舎の中央には、金に輝く時計塔まである。


 見あげて再びぽかんとした俺は、隣を通り過ぎてゆく生徒たちに、くすくす笑われた。

 二回目だ! は、はずかし──!

 あわてて開けた口を閉じる。


 魔力最低クラスは、一階の一番隅っこらしい。
 ちっちゃい足でちょこちょこ歩き、重たい扉を開けたら、皆の視線が刺さった。


「おい、あいつ、アルフォリア殿下にエスコートされてた……」

「あー、顔はいいけど魔力は最低な」

「顔も大したことないじゃん」

「元王子だって」

「かっこわる!!」


 陰口って、どうして、よく聞こえるんだろう。


 俺は悪役だけど、だからって、心がないわけじゃない。

 前世は……あんまり思い出せないけど……学校でも、職場でも、いじめられた気がする。

 暗い気持ちが湧きあがって、俺はちいさな拳を握り締めた。


「うわ、何かされんの?」

「魔界のパパに、たすけてーって?」

「なっさけな!!」

 ゲラゲラ、笑われる。


 人のこと、嗤って、蔑んで、貶めて、何が楽しいのかな。

 ああ、自分が上だって、いい気になりたいんだよな。
 俺のほうが上、俺のほうができる、俺のほうが立派、俺のほうがかっこいい。

 汚い虚栄心と自尊心を満たすために、誰かを貶めるなんて。


 思った俺は、唇を噛んだ。

 そうだ。
 これは、今世の俺が、やってきたことだ。


『俺は、魔王の息子なんだぞ!』

『魔界の王子だ! 敬え!』

『ディゼは俺の傍仕えじゃないとだめだ!』

『ディゼは、俺の言うことを聞いてればいいんだよ!』


 親父の権力を笠に着て、魔物の皆を、ディゼを、踏みつけた。



 だから今度は、俺が踏みつけられる。

 俺がしたことが、俺に返ってきてるだけなんだ。



「お、どした、こんなとこで。
 ああ、席なら、すきなとこでいいぞ」

 ぽふりと俺の頭に、大きな手が降る。
 見あげたら、教師が白い歯を見せて笑った。

 さすがBLゲーム、モブまでかっこいー。


「魔力最低クラスの皆の担任になった、テチだ。
 できたら来年は皆がこのクラスから離れられるようにするのが、俺の任務だ。
 よろしくな!」

 短い葡萄の髪をさらさらさせて、いたずらっぽく葡萄の瞳を輝かせて、テチが笑う。

 白い歯きらん、だよ!
 洗剤の広告みたい!


 魔力最低クラスの先生まで、こんなにかっこよかったっけ??


 首を傾げながら、教室の一番隅っこへと向かった。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです

矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。 それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。 本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。 しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。 『シャロンと申します、お姉様』 彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。 家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。 自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。 『……今更見つかるなんて……』 ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。  これ以上、傷つくのは嫌だから……。 けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。 ――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。 ◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです(_ _) ※感想欄のネタバレ配慮はありません。 ※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっておりますm(_ _;)m

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ

中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。 ※ 作品 「男装バレてイケメンに~」 「灼熱の砂丘」 「イケメンはずんどうぽっちゃり…」 こちらの作品を先にお読みください。 各、作品のファン様へ。 こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。 故に、本作品のイメージが崩れた!とか。 あのキャラにこんなことさせないで!とか。 その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

冷遇側妃は魅了された王太子の呪いを解いて溺愛される

日々埋没。
恋愛
「君は側妃だが先に伝えておく。正妃を差し置いて君を愛することはない」  男爵令嬢のリスベルテスは王命により、なぜか正妃との間に世継ぎを作りたがらない王太子ルドリエの側妃として嫁ぐことになった。  リスベルテスに与えられた役目は正妃に代わって保険で子を設けること。  とはいえ最初は冷たく拒絶される彼女であったが、ルドリエが実は魅了魔法によって正妃の虜になっていることを見抜き、ある方法でその魅了を解除した。  すると正妃に対する嘘の恋心がなくなったルドリエは、今度は自分を解放してくれたリスベルテスを本心から溺愛するようになり――。

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

処理中です...