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魔力最低クラス
しおりを挟むふわふわの白いドレスシャツの胸元で、黒いリボンがひらひら揺れる。
ちっちゃくて、ちっちゃい角があって、頭弱く魔力最低な俺。
うん。
残念な悪役っぽい。
校舎は真っ白な石で造りあげられた、夏は涼しく、冬は極寒そうな、3階建ての御殿だ。
御殿と言ってしまいたくなるほど、柱には彫刻された花や緑が絡まり、あちこちで銀の蝶が羽ばたくようにきらめいた。
校舎の中央には、金に輝く時計塔まである。
見あげて再びぽかんとした俺は、隣を通り過ぎてゆく生徒たちに、くすくす笑われた。
二回目だ! は、はずかし──!
あわてて開けた口を閉じる。
魔力最低クラスは、一階の一番隅っこらしい。
ちっちゃい足でちょこちょこ歩き、重たい扉を開けたら、皆の視線が刺さった。
「おい、あいつ、アルフォリア殿下にエスコートされてた……」
「あー、顔はいいけど魔力は最低な」
「顔も大したことないじゃん」
「元王子だって」
「かっこわる!!」
陰口って、どうして、よく聞こえるんだろう。
俺は悪役だけど、だからって、心がないわけじゃない。
前世は……あんまり思い出せないけど……学校でも、職場でも、いじめられた気がする。
暗い気持ちが湧きあがって、俺はちいさな拳を握り締めた。
「うわ、何かされんの?」
「魔界のパパに、たすけてーって?」
「なっさけな!!」
ゲラゲラ、笑われる。
人のこと、嗤って、蔑んで、貶めて、何が楽しいのかな。
ああ、自分が上だって、いい気になりたいんだよな。
俺のほうが上、俺のほうができる、俺のほうが立派、俺のほうがかっこいい。
汚い虚栄心と自尊心を満たすために、誰かを貶めるなんて。
思った俺は、唇を噛んだ。
そうだ。
これは、今世の俺が、やってきたことだ。
『俺は、魔王の息子なんだぞ!』
『魔界の王子だ! 敬え!』
『ディゼは俺の傍仕えじゃないとだめだ!』
『ディゼは、俺の言うことを聞いてればいいんだよ!』
親父の権力を笠に着て、魔物の皆を、ディゼを、踏みつけた。
だから今度は、俺が踏みつけられる。
俺がしたことが、俺に返ってきてるだけなんだ。
「お、どした、こんなとこで。
ああ、席なら、すきなとこでいいぞ」
ぽふりと俺の頭に、大きな手が降る。
見あげたら、教師が白い歯を見せて笑った。
さすがBLゲーム、モブまでかっこいー。
「魔力最低クラスの皆の担任になった、テチだ。
できたら来年は皆がこのクラスから離れられるようにするのが、俺の任務だ。
よろしくな!」
短い葡萄の髪をさらさらさせて、いたずらっぽく葡萄の瞳を輝かせて、テチが笑う。
白い歯きらん、だよ!
洗剤の広告みたい!
魔力最低クラスの先生まで、こんなにかっこよかったっけ??
首を傾げながら、教室の一番隅っこへと向かった。
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