上 下
21 / 37

アヤの人生譚 その1

しおりを挟む
 私はアヤ、現在は商業ギルドの事務員をしております。
 上司の一人、カタロフさんに食事を誘われたので、来ている。
 一人分でも食費が浮くのはありがたいのです。
 お陰で、職場では『乞食』だの『貧乏』だの言われているが、否定出来ない。
 実際、現状は節約生活を余儀なくされている。
 使用人や兵士達に給料は払えず、手切れ金を渡して解放した。
 ただ、一人だけ一緒に居てくれている。どこで忠誠心を持ってくれたのか分からないが、とても助かっている。

 兄上は冒険者として血と汗を流し必死に稼ぎ、姉上は商人として母上の元修行を積みながら稼いでいる。母上は商人時代の人脈を使い家などを用意し、姉上と共に稼いでいる。父上は先天性の病が悪化して寝込んでおり、使用人が介護をしている。

 外では医療は全て回復魔法であり、進展はあまりない。
 元々持っている物をどの様に治せと言うのか。
 父上の病を治療出来る方法は既にこの世には無いのかもしれない。
 あるとしても、それは童話の中の回復系の道具や薬だけだろう。

「あの、どうしましたか?」

「いえ。なんでもありません」

 私は笑顔を無理矢理作って食事を再開する。
 母上は言っていた。人脈は広ければ広い程後々役立つと。
 だからこそ、私は基本的な誘いは断らない。
 妬んだ女性の同僚達からは『尻軽』とか言われているが。

「その、アヤさん!」

「⋯⋯はい」

「実は、初めて会った時に気になって、そしたらいつの間にか目で追う様に成って、その、好きです! 付き合ってください!」

 上司から告白されたのはこれで四回目⋯⋯最初の一回は最悪であった。
 上司と言う強い権力を翳してのほぼ脅迫気味の告白。
 今ではその上司は居ないけど。

「ごめんなさい」

「⋯⋯そっか。そ、そりゃあ、アヤさん可愛いもんね。俺なんか⋯⋯」

「そんな事言わないでください。綺麗事等は言えません。ただ、私はカタロフさんを好きに成る事は無いです」

「⋯⋯ッ!」

「それは、カタロフさんが悪いのでは無いのです。私は、私はただ、過去に縛られているだけです。私は生きていると信じていますが、その可能性はとても低い。そんな相手を今でも、心に思い続けているのです。だから、誰かを好きに成る事はありません」

「そっか。きっと良い人なんだね。君の様な素敵な人に好かれるなんて」

「はい。ですが、きっと私は、褒められた性格はしておりませんよ」

 それから仕事の話等をしてから解散した。
 タッパーに少しだけバレない様に食事を入れられたのはありがたかった。
 奢りって良いね。

「私を好いてくれる人は、私の何処を好きに成っているのでしょうか」

 家に帰ると、使用人が頭を下げてくれた。
 姉上が料理をしている。姉上も一人の恋する乙女だった。戦争で亡くなった事は確定している。
 料理を必死に学んだいた姉上の料理は粗末な素材でもとても美味しく仕上げている。

「姉上、母上はどちらに?」

「新たな流通ルートがもうすぐ出来そうだからって、外でせっせこ働いていわ。私は『今は邪魔に成るから』って言われてね。結構大きな仕事らしいわ」

「昔に戻った様に生き生きしてますね」

「ま、お父様の病を治せる薬等の情報を集めている様だし、それもあるかもね」

 兄上は現在組ませて貰っているパーティと共にハントの遠征中である。
 私達が王族だと言ったら、誰が信じるのだろうか。
 今までの生活のお陰で平民の暮らしにはすぐに慣れた。

「はぁ。憂鬱」

「アヤ、外では口が裂けてもそんな事言っちゃダメよ」

「分かってますよ」

「それと、冷静にね。貴女怒ったら何するか分からないもの。ユウキ君が居たら、アヤの暴走は止められるのに」

「失礼ですね。いつ私がそんな危険な女扱いになる事をしたと言うんですか。戦争の気を紛らわす為に必死に花の研究もしたと言うのに」

 今でも私が作り出した『ムーンフラワー』は育てている。
 満月の日にしか咲いてくれないが、私にとっては最大の思い出だ。

 翌日、朝礼にて驚きな事を言われた。

「金庫内の金が帳簿と合わない。誰かが使っていると言う報告が上がっている。心当たりがある人は名乗り出る様に」

 誰が一部国が運営する大切な商業ギルドの金を私的利用すると言うのか。
 そんな相手は相当な馬鹿である。

「はぁ。誰も出ない、か。アヤ!」

「はい?」

「正直に言いなさい」

「⋯⋯はい?」

 私は周囲を見渡す。私を見て、薄らと笑う人物は多い。だが、それはあくまで『ざまぁ』的な表情。
 私を陥れて、やったと思う人物。
 そんな中で相当爽快な笑みを浮かべている人物⋯⋯見つけた。
 人数は三人。確か⋯⋯カタロフさんを好いているグループ。
 同期で、私よりも年上なのに私よりも仕事が出来ない事に嫉妬もあったのだろう。

「使われた金は金貨120枚だ」

 金貨120枚もあれば半月は笑って暮らせる。
 確かに、私は『乞食』だの『貧乏』など言われ、金を盗んでも何ら疑われる事はないだろう。

「ちょっと良いですか!」

「カタロフくん? 何かね」

「あ、アヤさんがそんな事するとは思えません! アヤさん。してないよね?」

「当たり前じゃないですか。私は正々堂々と稼いだお金を使いたいのです」

 世の中には因果応報と言う怖い言葉があるのでね。
 しかし、このまま疑われ続けられたら仕事に影響が出る。
 自分から辞めるつもりは無いけど、解雇されたら精神的に病む。
 仕方ない⋯⋯ですよね。相手から喧嘩を売って来たのですから。お金を一枚も払わずに買ってあげましょう。

 帰り際にカタロフさんが話し掛けて来た。
 落ち込んでいる風に悲しんでいる様に、私は声を絞り出した。

「私、何もしてないのに、疑われちゃいました」

「そうだよね。あんなの酷すぎる。俺、何も出来なかった。俺は、アヤさんを助けたい!」

「ありがとう、ございます。とても嬉しいです」

「そ、そんな⋯⋯事」

「横領と言ってましたよね」

「そうだね」

「でしたら、私では確実に無いです」

「⋯⋯?」

「私は基本的に商人登録の書類等を担当しております。お金に触れない役割なのに横領なんて不可能なんですよ」

 金庫を開けるには特別の道具が必要。それに無理矢理開け様としたら警報が鳴る。
 私が扱うのは商売したいと言う人達の書類整理などだ。
 時々経理にも参加するが、それはあくまで素早くするための計算機役である。
 直接お金に関わる事は無い。

「そっか。それを言えば!」

「ダメです」

「なんで?」

「金貨120枚ですよ? 私だけを責めると言う事はそれだけの確信があると言う事。だけど、ちょっと考えらば私ではない事は分かる。副長ならそのくらいはすぐに分かります」

「なら⋯⋯」

「買収、或いは脅迫。人を操る方法なんて考えればいくらでもあります。暴力、人質、考えれば考える程にね」

「アヤ、さん」

「犯人に目星は付いています。必要なのは証拠のみ。カタロフさん。私の無実を証明する為に手伝ってくれませんか!」

「俺で良ければ!」

「ありがとう、ございます。私は優しい上司に恵まれた様ですね」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

転生無双の金属支配者《メタルマスター》

芍薬甘草湯
ファンタジー
 異世界【エウロパ】の少年アウルムは辺境の村の少年だったが、とある事件をきっかけに前世の記憶が蘇る。蘇った記憶とは現代日本の記憶。それと共に新しいスキル【金属支配】に目覚める。  成長したアウルムは冒険の旅へ。  そこで巻き起こる田舎者特有の非常識な勘違いと現代日本の記憶とスキルで多方面に無双するテンプレファンタジーです。 (ハーレム展開はありません、と以前は記載しましたがご指摘があり様々なご意見を伺ったところ当作品はハーレムに該当するようです。申し訳ありませんでした)  お時間ありましたら読んでやってください。  感想や誤字報告なんかも気軽に送っていただけるとありがたいです。 同作者の完結作品「転生の水神様〜使える魔法は水属性のみだが最強です〜」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/743079207/901553269 も良かったら読んでみてくださいませ。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

処理中です...