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物理系魔法少女、ギリギリセーフ

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 「まさかアカツキさんにリアルで会えるって幸運だな。死にかけましたが!」

 リーダーの男が笑うと、パーティメンバーも少しだけ笑みを浮かべる。

 ふざけているように見えて、案外冷静なのかもしれない。

 回復薬を常識的な使い方をしたので、割と傷とかはすんなり回復している。

 だけど空気は重かった。

 俺が無神経に獲物の横取りをしてしまった事を謝罪したから。

 ミノタウロスはあまりダメージを受けておらず、この人達はボロボロだった。

 そんな実力差を感じた相手をあっさり倒した相手に、ミノタウロスに勝てるよねって言われたと感じたのだろう。

 そんな重たい空気をリーダーは笑い飛ばしてくれた。感謝をボロボロになりながら言うしね。

 ただ、全ては自分のためでもある。

 「あの、アカツキさんに俺達はどうやって恩返しすれば良いでしょうか。チャンネル登録はしてますし、うちの副リーダーは貯金の⋯⋯」

 「ちょ、黙って! 変な印象持たれたくないの!」

 純粋に俺がアカツキと言う配信者で緊張していたらしい。

 変に疑った事を心の中で謝罪しながら、俺は本題を切り出す事にした。

 「実は色々な苦難がありまして、迷子になってしまったんですよ。今ライブ中なんですけど、案内してもらえませんかね?」

 ライブには了承してもらえた。一体どんな苦難があったのかと、パーティ内で会話される。

 ほとんどはコメントのせい、と心の中で言っておく。

 『良いな~』
 『偶然助けた相手がファンってどんな確率よ』
 『迷子になったのを順番に追うと、地図の見方を違い、軌道修正せずに進んで迷い、諦めて壁を破壊したから』

 『ほぼ自分のせいやんけ』
 『コメントを重視してくれるのは嬉しいね』
 『普通に道を進んだのは何年前だ?』

 『おいおい。アカツキちゃんが進んだ道が普通の道なんだよ』
 『ラビリンスは狭かった』
 『とりまこの火力に耐えられるダンジョンを用意しようか』

 ライブでパーティ名とさっきまでの経緯を話してもらい、パーティのレンジャー役の人に案内してもらう。

 時々ショートカットを申し出たが、帰り道が乱れるので却下された。

 「この先は鎌トラップです。冷静に進めば大丈夫です」

 ブンブンと左右に揺れる刃の通路だ。

 一定のスピードで揺れ動き、タイミングをずらしているせいで気味が悪い。

 一撃でも当たれば突き刺さって、壁の隙間に運ばれてグチャりだろう。

 刃と刃の隙間は人が入れるだけのスペースが存在して、タイミングを見てそこに移動を繰り返すらしい。

 だけど、俺の動体視力は一部分をしっかり捉えていた。

 一定周期で全てが重なるタイミングが見れたのだ。

 「分かりました」

 俺は前に出て、下半身に力を入れて拳を固める。

 正拳突きだ。

 『アカツキちゃんが正拳突きだと!?』
 『技術を見せるのか!』
 『それでも力の方が輝くんだよな』

 タイミングを見て、息を吐いて筋肉を固め、全力で殴る。

 せっかくチャンネル登録者が後ろにいるんだ。ファンサービスをしよう。

 「必殺マジカルシリーズ、本気殴りマジカルパンチ

 光り輝き、全力で放った拳は刃を次々に破壊していく。

 衝撃波だけで全ての罠を破壊し終えた。

 『ポカーンってなってるよ!』
 『映像だから良いが、実際目の当たりするとこうなるよな』
 『クールそうな人も目を点にしてらっしゃる』

 『良かったな。リアルでマジカルパンチ見れて』
 『羨ましい!』
 『髪の毛ボワってなってるのウケる』

 「ん? 進みますよ」

 俺は真っ直ぐの道なので、先に進む事にした。

 すると、レンジャー役の人が目を見開いて叫んだ。

 「そこにはトラップが!」

 「え?」

 俺はなにかのセンサーに触れてしまったのか、地面が開いて落下する。

 心配そうに見ている人達は、俺が歩いて出て来ると安心よりも驚きが勝ったようだ。

 「だ、大丈夫ですか?」

 「見ての通りだ!」

 「歩けるんですね」

 「ああ。歩けるぞ」

 『歩けません』
 『真似してはダメです』
 『さらにフリーズしてしまった』

 俺が先に進むと、開いた地面はゆっくりと閉まる。

 「ライブってアーカイブに残しますか!」

 「うん」

 「ぜ、絶対観ます!」

 「ありがとうございます」

 ぺこりと頭を下げて、移動を再開した。

 トラップは全て俺流回避術を持って回避し、魔物はステッキを頭に投げつけて倒した。

 そして一時間、俺達はゲートの前にやって来た。

 「かなり離れてた!」

 「アカツキさんのお陰で早く着きましたよ。ありがとうございます!」

 「さすがアカツキさんです! 全部のトラップを破壊するなんて!」

 「いやいや。あれは回避だから」

 俺流回避術だから。

 その後、サインとか求められてしまった。

 さすがにそれはできないと断ると、しかたないと言った様子で引き下がった。

 サインの仕方なんて知らね!

 「今日助けてくれたお礼に、自分達のパーティをご紹介するってのはどうですか? かなりの人数が観てると思うので」

 指名依頼を受けやすくなると思うぞ。宣伝だ宣伝。

 実際、俺はかなり助かっている。あのまま迷子になったと思うと⋯⋯鳥肌が止まらない。

 パーティの紹介が終わり、全員で挨拶をして、撮影を終えた。

 時間を確認すると、四時五十八分になっていた。俺はお礼を残してダッシュで帰る。

 並んで、紗奈ちゃんの受付に通る。

 「出て来たのはギリギリ五時前だね。セーフだよ」

 「良かったぁ」
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