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 「メア⋯⋯メア!」

 心臓からじわりと滲む血。
 なんで? どうして?
 モンスターの一部だったメアから血が出るんだよ!

 ここはデータ世界なんだぞ?
 どうして⋯⋯。

 『ようやく開放された~清々しい気分だ』

 「⋯⋯メア」

 後ろから人間じゃない何かの声が聞こえたけど、どうでも良い。
 急いでスマホを操作してポーションを使う。

 「なんで、効かないんだよ!」

 「ひ、⋯⋯た」

 「な、なんだ? どうした?」

 「メアちゃん⋯⋯」

 「あ⋯⋯り」

 掠れる声で俺達を呼んだと思う。

 「たの、⋯⋯た、あり⋯⋯と、だい⋯⋯き」

 メアはギリギリまで声を絞り出し、俺にネックレスを押し当てた。
 それを掴み取る。

 すると、最期の笑顔をメアは見せてくれた。
 光の粒子となって⋯⋯メアは、消えた。

 『ギャハハ、巫女は死んだ! 俺様を封印する奴は存在しない!』

 「なんだ、お前は」

 俺は怒気と殺気を込めて呟いた。
 見た目は肌黒い人間に角が生えた存在で、コウモリのような羽で飛んでいる。

 『俺様は大悪魔、ルシーエル様だ。覚えておけ』

 「前に、ネックレスから出て来た奴はなんだっ!」

 『俺様の使い魔だ』

 ああそうなのか。
 あの時、戦ったアイツが大悪魔だと俺は勘違いしていた。
 そもそもここはレイドイベントの開場だ。

 あんなにあっさりクリア出来る場所じゃなかったんだ。
 ⋯⋯あんまりだろ。ふざけんなよ。
 なんで、なんでこうなるんだよ。

 「まぁ良いや。いや、良くないけどさ。ただ、お前は殺す」

 俺の中に蠢く感情が分からない。
 なんだこれ。
 視界が真っ黒に染まっていく。

 ただ、アイツだけが見える。
 殺したい。許せない。
 そんな感情が溢れてくる。

 『人間ごときに何が出来る?』

 ルシーエルが動き、俺に手刀を突き刺す。
 しかし、それを刀で受け止める。

 『なに?』

 「色々な星座がさっきの戦いの中であった。だけど、てんびん座だけはなかった」

 きっとこれがその答えだ。
 半透明の巨大な天秤が俺の背後に出現する。
 それが俺の力を上げている。

 「所詮、こっちもお前も神に造られた傀儡だ。だけどな、傀儡にも感情はあんだよ!」

 俺を中心に真っ白な濃い霧が広がる。
 すぐさま俺はルシーエルに肉薄した。
 コイツだけは⋯⋯相打ちでもぶっ殺す。

 『ここかっ!』

 「霧の中では認識する事が出来ないぞ」

 研ぎ澄まされた感覚だ。
 中は怒りで染まっているのに、周囲を正確に認識出来ている。
 相手のどこを狙えば良いのか、瞬間的に分かる。

 頭のイメージが完璧に身体で再現出来る。

 『ちょこまかと!』

 相手の攻撃が全て分かる。
 相手の攻撃全てが『道』として見えて、俺が攻撃するべき場所が黒色の『道』として見える。
 全てを認識出来る。

 「私も居るからね!」

 愛梨が参加して来る。
 だけど⋯⋯今は邪魔だ。
 今の流れをたった一人の邪魔が居るだけで崩される。
 どっか行け。

 「霧外流、夜霧」

 縦の一閃を浴びせる。

 「ッ!」

 躱された?
 だけど問題ない。
 何回失敗しようとも、殺すまで何回も攻撃をするだけだ。

 今の俺に愛梨ではついて来れない。
 今の俺はメアの命を背負ってるんだ。

 こんな奴には負けない。

 『もう見えたぞ。ブラックサンダー!』

 「シィ!」

 黒い雷が俺を襲いに伸びてくる。
 なんで?
 今の俺の気配をアイツが感じ取れるのか?

 「まぁ良い。目的は変わらない」

 背後から進む。
 今の俺からは足音もしない。
 完全に気配を消している。

 「死ね」

 『見えてるんだなぁこれがっ』

 「⋯⋯」

 目の前に悪魔の指が見える。
 手刀による突き刺し。
 このままだと俺の頭が貫かれて死ぬだろう。

 しかし、構えからの攻撃の勢いが強すぎて軌道修正が出来ない。
 ⋯⋯死ぬ?

 メアの仇も打てずに⋯⋯こんなあっさりと死ぬのか?

 「危ないな!」

 愛梨がタックルで助けてくれた。
 しかし、愛梨の左腕が肩から吹き飛んだ。
 霧に紛れる様に隠れる。

 「なにやってんの! ばっかじゃないの! 一人で特攻して勝てる訳ないじゃん!」

 「大丈夫だから。問題ないから。任せて⋯⋯全部、終わらせるから」

 「嫌だよ。今の君は行かせられない」

 「邪魔だ」

 「そうかもしれないけど、今の君じゃ勝てない」

 そんな訳ない。
 今の俺は最高のコンデションだ。
 今まで以上に剣筋が良かった。
 きっと剣術のレベルが上がっている。

 「だって、周りが見えてないよ。私が襲われた時、助けてくれた時と同じ事になってる。ガムシャラに向かってる⋯⋯暴走状態だよ」

 「だから⋯⋯」

 「もっと私を頼れよ! 約束したでしょ! 支え合おうって! 一人よがりで進んでんじゃない!」

 「ぐふっ」

 俺の腹に頭突きが飛んで来る。

 「目を覚ませ! 怒りで暴走すんなよ! もっと、私を、周りを頼ろうよ」

 「⋯⋯リイア、たん」

 再び頭突きが俺の胸に炸裂した。

 「ごめん、邪魔とか言って」

 頭の中がシャキッとした。
 そうだな。
 さっきのままだと、愛梨に助けられていなかったら俺は死んでいた。
 メアの仇は取りたい。

 だけど、メアがやられて悔しいのは愛梨も同じだ。
 俺一人の怒りじゃない。

 「悪い。バカになってた」

 ここはレイドだ。
 本番はここからなのだろう。
 そう考えると、あのルシーエルとか呼びにくい自称大悪魔さんは強いんだろうな。

 『声が聞こえてるぞ』

 反対方向にバックステップして避ける。
 この霧で動けるのは多分、俺と愛梨くらいだろう。
 しかも相手は飛んでる。

 下手に動いて相手に先に気づかれたら、盾役でもタダでは済まない。
 だから、こっからは俺と愛梨の独擅場にする。

 「ライトさん」

 「ッ! びっくりした。まさか領域系スキルを隠し持っていたとは⋯⋯気配感知が上手く使えない」

 「メイを召喚します。敵は上の方に居ますので、後は考えて」

 色々と丸投げしてメイを召喚し、大量のメイドを呼び出した。
 命令に従うメイドは、付き従う様にすれば俺についてくる。
 位置が分からなくても来るので、この霧の中でもメイドはルシーエルと戦える。

 『来たかっ!』

 「そらっ!」

 相手も段々と慣れて来たのか、俺が攻撃を仕掛けたタイミングでしっかりと反撃を合わせて来た。

 『人間にしては中々やるな』

 「これがメアの命の重みだクソったれ!」

 反撃で押し切る⋯⋯。
 そんな事はしない。

 ギリギリまで相手に力を引き出させて受け流す。
 例え悪魔だろうが、これで少しだけ重心はずれる。

 「霧外流、移流霧!」

 片手だろうが、愛梨の火力はこの中で一番高いと言えよう。
 ルシーエルの背中を斜めに斬り裂く。
 ダメ押しの蹴りも追加して。

 「しゃら!」

 蹴られたタイミングで俺も斬撃を入れて霧に隠れる。
 それを繰り返す。

 『鬱陶しい!』

 さらにメイドの攻撃も追加される。
 メイド達は数もある。

 「悪いがまだ終わらないぜ」

 隠れてヒットアンドアウェイの時に神楽にとあるカードを渡している。

 「神楽!」

 「解放!」

 神楽に渡したカードは海王だ。
 大量の魔力を手に入れる神楽。

 「バッファーは神楽にバフを! デバフは鈍足だ! 確実に命中させるぞ!」

 『雑魚共があああああ!』

 エネルギーを解放する悪魔。
 何かをする前に行動する。
 愛梨が攻撃し、反対側から俺が攻撃する。

 相手には攻撃するさせない。
 不意打ちでメアを殺したんだ。
 それぐらい当たり前だろ?

 「爆帝咆炎!」

 巨大な炎の光線がルシーエルを包み込んだ。

 『こんな⋯⋯モノおおおおお!』

 その魔法が終わると、ルシーエルは満身創痍になっていた。
 終わりだ。

 「これで、トドメだ!」

 『雑魚共が⋯⋯良くやったと褒めてやりたいところだ』

 「なんっ!」

 俺がトドメを狙って振るった刀が空を斬った。
 一瞬で俺の背後に移動しているルシーエルは⋯⋯無傷だった。

 『俺様は脱皮するんだよ』

 「がはっ」

 背中を蹴られて、壁まで吹き飛んだ。

 『魔帝領域、展開!』

 俺の霧が晴れて、紫色の空間が広がった。

 『雑魚共が。思い上がるなよ!』
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