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 レイド開始日、俺達はレイド会場へと入っていた。
 ギリギリまで入れない訳ではなく、その日になったら専用のフィールドに入れるようになっている。

 「もうかなりの人が集まってるね」

 「そうだな。神楽を探すか」

 イフリートを召喚していたので、すぐに神楽を発見する事が出来た。

 「日陰さん、リイアさん。今日は頑張りましょう!」

 「ああ。もちろん」

 「ええ」

 「メアも居るよ!」

 レイドが始まるまでの時間を上空の時間でカウントを始めた。
 それまでに俺達のチームの役目をおさらいしようと思う。

 まず、初めに俺はモンスターを二体召喚して先行させる。
 そいつらでヘイトを集め、不意を狙い愛梨がどでかい一撃を与える。
 一番被ダメを大きく与えたユーザーにヘイトが向く習性があるので、これで愛梨にヘイトは向く。
 そのように調節する。

 したらば愛梨は一気に距離を取り、その時までに強力な魔法を準備していた神楽がさらなるダメージを与える。
 火に耐性があると神楽の攻撃があまり通らないって言うか、神楽が戦力的な数に入らなくなる可能性はある。
 今はそれを加味しないで考える。

 予定としてはそれで神楽の方にヘイトが向かうので、俺はさらにモンスターを投下する。
 最初に召喚していたモンスターはヘイト集めであり、愛梨のための準備なので交換する。
 火力の高いモンスター四体で攻撃をして、一割を削るつもりだ。

 一割削ったら休憩、半分に到達したら再び全力で最後まで戦う。
 大まかな序盤の流れはこんな感じだ。

 「そろそろ始まるな」

 カウントがゼロになる。
 ⋯⋯しかし、一向にレイドモンスターが現れる気配がしない。

 「なんだ?」

 俺がそう思っていると、背後から苦しむ声が聞こえる。
 その主は⋯⋯メアだ。

 「うぐっ、ううう」

 「め、メア⋯⋯」

 頭を抱えて、フィールドの中心部まで歩き出す。
 だと言うのに、誰もがレイドモンスターが現れない事だけに集中していて、メアに気づていない。

 ⋯⋯違う。
 もしかしたら最初から、メアは見えていなかったのかもしれない。

 神楽も、今日はメアに挨拶していない。
 律儀な神楽なので、絶対に挨拶する。
 だと言うのにしなかった。

 さらに、メアが見えてない場合、見えない事に疑問すら持たなかった。
 もしかして⋯⋯メアは見えてないし記憶から忘れられている?

 ネックレスが光る。

 「おお、光出したぞ」

 「ついに始まるのか」

 メアの苦しむ声が誰にも届かない。
 俺は近づきたかった。
 だけど、足がなにかに固定されたかのように全く動かない。
 愛梨の顔にも焦りが出る。

 愛梨もメアを見えている。
 俺達二人だけがメアを見れて、苦しむ姿を目に焼き付けている。

 声が⋯⋯出ない。

 頼む、メアを、メアを⋯⋯。

 俺の想いなんて通ずるはずもなく、ネックレスはさらなる輝きを放つ。
 そして、メアの背中から巨大な脚が生えて、体から糸が無数に出てくる。
 その糸で身体を構築していく。

 「嘘だろ。やめてくれよ。なぁ、やめてくれよ!」

 俺の叫びは虚しく空を飛ぶ。出せた声は誰かに届く事はなかった。
 どうしてなんだ。
 神、どうしてお前らは俺にこんな運命を背負わせた。

 どうして、レイドモンスターのメアを⋯⋯ナイトメアを俺に託した。
 応えろよ! どうせ心中もきちんと見てるんだろ!

 娯楽を頼むために用意した最高の駒だったか!
 俺はお前らの想定通りに動いて心底楽しかったか!

 なぁ!
 応えて⋯⋯くれよ。

 「アラクネ⋯⋯それにしてはでかい。スターアラクネ⋯⋯か。皆、配置につけ! 練習のように狩るだけだ!」

 どうしたら良いんだ。
 俺はメアに刀を向ける事が出来るのか?

 そもそもなんでメアと戦わないといけないんだ。
 レイドモンスターだから? ふざけんな。
 メアはモンスターなんかじゃない。

 笑ったり、泣いたりする普通の人間で子供なんだよ。
 絶対にモンスターなんかじゃ、ないんだ。

 「日陰さん?」

 神楽が疑問を浮かべる。
 だけど、俺はそれに反応する余裕が一切なかった。

 一緒に飯を食べ、一緒に寝て、一緒に遊んだ、そんな相手がモンスターだったんだ。
 神が何かしらの介入をしているとは思っていたけど、それがコレかよ。
 元々レイドを企画しておいて、さらに楽しむためにそのモンスターの記憶などを封印して俺に拾わせた。

 「ふざけるなよ。ふざけんじゃねぇ」

 いくら嘆いたって現実が変わる訳でも、この場が好転する訳でもない。
 俺達だけがこのレイドに参加している訳では無い。
 作戦通りに動かないといけない。

 刀を抜け、踏み込め、攻撃しろ、戦え。

 勝つために、報酬を得るために参加したんだろ。
 なのになんで、動かないんだよ。

 「アタッカーA班! どうした! 急げ!」

 『ラーラ』

 俺と愛梨はメアから発せられた歌を聞いた。
 思い出すのは寝る前、天井に向かって虚空に歌とセットで描いた星座。

 それを認識した俺達はすぐさま動いて、糸の攻撃を躱した。
 星座と同じ形で糸を放って来る。
 考えている暇はない。

 でも考えるしかない。
 レイドモンスターを倒すんじゃなく、メアを救い出す方法を。

 「行くか」

 立ち止まっていても仕方がない。
 ただ嘆いてもメアが救われる訳じゃない。

 俺はメア⋯⋯アラクネの額に注目する。
 そこにはひし形の模様が浮かんでいる。

 あからさま過ぎる。

 メアのネックレスは大悪魔を封印したらしい代物。
 その中身は白夜を手に入れた時に出て来ている。
 つまり、今は中身が空っぽだ。

 ひし形の額を無駄に出しているなら、攻略方法はそれだろう。
 そう考えるなら、俺がやるべき事は一つだ。

 アラクネを封印する。

 そのためにまずはメアのネックレスを奪い取る。

 「はああああ!」

 俺は駆け出した。

 糸での攻撃は歌とセット⋯⋯つまり、その歌を暗記している俺達なら糸の攻撃を躱す事が出来る。
 星座の形で糸を飛ばすからな。

 まずはいつも通り進行させて、隙を狙ってネックレスを奪い取る。
 いつも通り⋯⋯俺はモンスターを召喚した。

 「おっと」

 腕をぶん回してこちらを襲って来るので、屈んで攻撃を避ける。
 そのまま突き進み、モンスターを召喚する。

 メアは巨大なせいか、あまり大きな動きを見せない。
 今のうちに攻める。

 「⋯⋯ッ!」

 足元に魔法陣がっ!

 横に大きくステップして避けて、突き進む。
 メアは再び糸を取り出して来る。

 愛梨が星座の名前を叫ぶと、後方の人達が陣形を調整して、糸を避ける。
 メアの脚が微かに動く。

 刹那、一瞬てモンスターの背後に移動した。
 先にモンスターを倒すようだ。

 「俺達に任せろ!」

 ブロッカーがモンスターを守る為に動く。
 だが、それはメアの予想通りだったかの如く、上から毒液が落ちてくる。
 それはモンスターを狙っており、上からの攻撃だった為に盾では防げていなかった。

 だけど、隙は出来た。
 隙が出来たなら次の攻撃パターンが入る。
 そう、愛梨の攻撃だ。

 「ごめんっ」

 メアに対して謝り、アラクネの下半身、蜘蛛の部分に白銀の剣筋を降ろす。
 だがしかし、それすらも分かっていたのか、事前に鋼色の糸を障害として用意していた。

 「斬れ⋯⋯ない」

 硬い訳じゃない。
 柔らかいんだ。
 ゴムのようにしなるせいで、上手く切れなかった。

 「必要なのは力じゃなくて、速さか」

 俺はアラクネのでかい脚をよじ登る。
 モンスターを召喚してもすぐに対応される。

 ⋯⋯厄介だ。

 知性が無さそうに見えて、メアの知識がしっかりと入ってやがる。
 だからこそ、モンスターや愛梨に一瞬で対応している。

 「ネックレス⋯⋯届け!」

 俺は跳躍してネックレスに向かって手を伸ばす。
 あと少しで⋯⋯逃げられた!

 「速いな」

 あのスピードをどうにかしないと⋯⋯俺だけじゃ絶対に無理だ。
 みんなの力を借りないと⋯⋯届かない。
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