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 「くそっ! 手数が足りない!」

 メアを戦闘用の水着モンスター二体で護らせている。
 そのせいで、処理するメンバーが一体しかいない。
 俺が一体のミノタウロスを倒すのに数分使うのが悪い。

 「ちくしょう。範囲攻撃のモンスターを出さないと⋯⋯」

 なんだってモンスタートラップを二回連続で踏まないといけないんだよ。
 ミノタウロスが五十体くらいこの場には存在する。

 広い空間にはモンスタートラップが多いから警戒していたのに、それでもこのザマか。
 トラップを見破るモンスターの重要性が分かるな。

 「広範囲⋯⋯でも、魔法は効果が薄いんだよ」

 ここに来て分かった事は、ミノタウロスは案外魔法への耐性が高いと言う事だった。
 数々の攻撃を避けながら反撃するのは、至難の業だ。

 メアを護りながらだから余計に辛い。

 「⋯⋯嘘、だろ」

 カチャリ、そんな音が俺の足元から鳴り響いた。
 それが示す事は単純だ。

 トラップの起動。

 「はは、冗談じゃねぇよ」

 ミノタウロスがさらに三十体追加された。
 モンスターのチェンジも出来てないのに、このままだと押し切られる。

 「メア、逃げるぞ!」

 「う、うん!」

 「しっかりモンスターに捕まってろ!」

 俺は移動用のモンスターに向かって突き進む。
 護衛役の一人が移動用のモンスターだ。

 殲滅力の高いモンスターは夏ガチャに少なかった。
 だけど、一体は傍に居るべきだった。

 「一級メイドもこれからは数人同行させるか」

 俺が飛び乗ろうとした瞬間だった、目の前に大きな拳が通過する。
 ギリギリでバックステップで回避した。

 ちくしょう。
 近づけない。
 数が多い。

 攻撃を避けるだけでも精一杯なのに、なんで、なんで俺はこうもトラップに好かれてんだよ。
 このままじゃ、護衛の方も押し切られるぞ。

 そう考えた瞬間だった。
 何かが弾ける音が聞こえたのは。

 「モンスターがっ」

 ついに、移動用のモンスター、メアを護る最後の要が突破された。
 まずい。

 このままじゃメアに攻撃される。
 エネミーはメアをしっかりと攻撃するって、リザードマンの時に見ている。
 護らないと。

 「⋯⋯そうだ、メア、ログアウトしろ!」

 「え、ろぐあうと? わ、わかんない。分かんないよ!」

 「データ世界から出た時、ダンジョンから出た時、同じ要領でやれば良い!」

 「⋯⋯どうやってやってたんだっけ?」

 「え?」

 それは俺の思考を止めるには十分の発言だった。
 ピンチで焦って、頭が真っ白になったのか?
 小中の時に何故かある日直のスピーチで、人目に立った時に現れるのと同じような感じで。

 ふざけんな。
 メアがダンジョンでやられたらどうなるかわかったもんじゃない。
 誰か、メアを護ってくれ。

 俺じゃ届かない。護れる程に強くない。
 モンスター⋯⋯召喚する時のタイムラグがあるせいで無理だ。

 ちくしょう。
 どうしたら良い!
 メア、逃げろ。まずは逃げろ。

 俺から離れろ、この広間から出ろ。
 ダンジョンから出てくれ、頼むから!

 「日向~」

 助けを乞う目。

 「ぐぅ」

 俺の召喚したモンスターは既に壊滅している。
 数に押し負けた。

 誰でも良い。
 メアを護ってくれ。

 ミノタウロス、やめてくれ。
 メアにだけは、攻撃しないでくれ。

 「止めろおおおおおおおお!」

 刀を投擲する⋯⋯しかし、肩に当たって簡単に弾かれた。
 無慈悲にも、ミノタウロスの攻撃はメアを襲う。

 「いやあああああああ!」

 メアが叫び、ペンダントが光り出す。
 メアの背中から異様な物が伸びる。

 それは蜘蛛の脚のような物だった。
 ミノタウロスをいとも簡単に貫き、薙ぎ払うだけで数体のミノタウロスを同時に切断する。

 この破壊力は一級に匹敵する。

 「いや、それ以上の何かだ」

 一本の脚は役目を終えたかのようにメアの背中に戻って行き、メアは事切れたかのように倒れる。
 唖然としているミノタウロスの隙間を縫ってメアを回収する。

 「形成逆転と行こうか」

 同じ広間に三つもモンスタートラップを設置しやがって。
 これも神の仕業か?

 だとしたら許せねぇぞ。
 こんなんの、公式チートのような存在が居ないと突破出来んぞ。

 何はともあれ、スマホを操作する時間は出来た。
 お気に入り設定していたモンスターカードを取り出す。

 「もう十分絶望したさ。十倍返しと行こうか。召喚!」

 見た目は人間に近いモンスターを取り出す。
 水着関連のモンスターで最上位の存在は人間に近い見た目をする。

 『一級:龍人サネミ』『一級:龍人カイネ』『一級:タコ男V-MAXハココ』だ。

 「マスターの声、聞こえたよ。行くよ二人とも! この雑魚共をケチラース!」

 龍人とあるが、水龍がモデルなのか翼は生えてない。
 尻尾と角が特徴的だ。

 サネミはスク水であり、カイネはビキニ、ハココ⋯⋯タコ男はタコで隠している。肩から触手は伸びている。

 「姉さん、暑苦しい」

 「カイネは僕ちんの妹なのに消極的なのさ」

 二人の会話⋯⋯モンスターにもストーリーは存在するようだ。
 てか、そんな事よりもミノタウロスを倒して欲しい。

 メアが寝ているから安心出来ない。

 「マスターは不安になる必要は無いよ。こんな雑魚共、僕ちん達の敵じゃない。破滅の水底!」

 「大海の手」

 「水刃触!」

 大量の水が出現し、ミノタウロスを呑み込む。
 その水を使った大きな手が一気に潰して行き、タコ男はミノタウロスを込切れに切断して行く。

 一気に壁が見えない程に多かったミノタウロスが殲滅された。
 最初から、こいつらを召喚しておけばここまでの苦労は無かったんだ。

 だけど、その場合俺の熟練度が上がらない。
 俺が未熟のまま、レベルが上がっても強くなったとは言えない。
 難しいスキルだ。

 「助かった」

 「お礼なんて必要なーい!」

 「姉さんと意見が会うとか、死にたい」

 「そこまで!」

 タコ男は親指を上げてくれる。親指だと思われる触手。
 なんか、二級のタコ男を思い出す。⋯⋯あっちの方がまだ目に優しい見た目だな。

 タコ男って複数の種類が居るんだな。
 不思議だ。完全にネタモンスターだと思っていたのに、何かしらの物語があるのかもしれない。

 「メアが起きるまでここに居たい。護って欲しい」

 「問題なーい!」

 「⋯⋯死んでいい?」

 「また意見が被ったの! さすが姉妹だね!」

 タコ男が勝手に動き出した。
 そういや、こいつのスキルには〈罠回避〉と言うスキルがある。
 見つけ出す様なスキルじゃないのだが⋯⋯トラップを破壊しているな。

 ありがたい。

 「良かった。本当に気絶しているだけか」

 メアのあれはなんだったのか、あまり考えたくは無い。
 だけど、考えないといけないところまで来ているのかもしれない。
 今回の事を無かった事には出来ない。

 「愛梨と一緒に録画を見直すか」

 撮影権利を使って撮影していた。
 前のような事があっても問題ない様に。

 これがかなり便利で、自分の動きを見たりして反省会が出来たりする。
 そう考えると、リアルで使えても良いかもしれない。

 自分の動きを客観的にここまで精密には見れないからね。

 「くらえ、カイネ、僕ちんの最強無敵のウォーターカッターを!」

 「姉さん、かわいい妹に攻撃するの?」

 「ぐっ、わた⋯⋯ぼ、僕ちんの負けよ」

 「ふっ」

 なんだろうこの茶番は。
 つーか、サネミの一人称ってキャラ作りなの?
 今回初めて召喚するモンスターなのに、キャラ作りとかしてるんだ。

 なんか不思議な感情になるな。
 モンスター⋯⋯ガチャモンスターは普通とは違うのかもしれないな。

 かと言って、踏み込む勇気なんて俺にはないけど。

 「ん、ん~」

 「め、メア! 大丈夫か!」

 「ひななにゃ?」

 「なんだよそれ。俺は日向だぞ」

 「メア、生きてる?」

 「ああ」

 混乱しているんだな。
 少したら治るだろう。
 今まだ、安静にしておくべきか。

 「怖かった」

 「ごめん。もう、こんな想いはさせないよ。ログアウトの方法、分かる?」

 「うん。出方分かるよ」

 「じゃあ、今日はもう辞めて、明日またやろっか。今日は休憩だ」

 家に帰るための時間も考えれば妥当かもしれない。
 そう言葉にすると、サネミとカイネが難しい顔をする。

 「行ってしまうのだな」

 「⋯⋯残念」

 「あーうん、そうだね。また機会があったら召喚するね」

 「マスターには同胞が多い。そんな機会は少ないだろうな」

 なんだ、この二人の反応は。
 今までのモンスターとは明らかに違うぞ。

 「待ってるからな? また、選んでくれる事を」

 「再びの自由を、⋯⋯死にたい」

 「ねぇ、わたしと意見が被っただけで死にたがるのなんなの!」

 俺は二人の発言に何も返せず、帰った。

 ⋯⋯モンスターは召喚される事を望んでいるのか?

 ん?
 愛梨からメッセージが。

 『早く帰ってこないと、晩御飯無くなるよ』

 「⋯⋯色々考えるところだったのに、どうでも良くなったな。神の考えとか、いくら考えても分かんねーし」

 「ん? そうだね!」
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