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 『今日は頑張ってください!』

 神楽から応援メッセージを貰い、俺は再び覚悟を固める。
 データ世界に入り、モコモコに指定された場所に向かう事にする。

 「日向くん」

 「愛梨? どうした」

 「頑張って」

 愛梨が手を伸ばしてくれる。
 俺は最高の幼馴染を持っているようだ。

 「ああ、俺は負けない」

 愛梨にそう伝えて、空を飛べるモンスターを召喚する。
 ノーマルガチャも回しているので、そのようなモンスターも手に入れている。

 「見ててくれ」

 既に世間ではモコモコが仕組んだ事だと、噂が広がっている。
 そんな疑われている状態のモコモコに今日、決定的な瞬間を作り出す。

 場所はデータ世界の東京タワーと言う、とても目立つ場所だ。
 なぜなら、ここは人間の視力の限界なんて関係なく、どこからでも見える様になっているからだ。
 その高さは宇宙まで伸びている。

 そんな巨大な党の下に、桃桜のクラン総出で囲まれているモコモコが居た。
 他の野次馬達もだ。

 愛梨について来て貰わなくて正解だな。
 流石に人が多すぎる。

 「それじゃ、早速始めようか」

 「もう、私の無実は証明された様なモノですけどね。これで名実共に無実だと証明する」

 「そうですか」

 俺達は決闘のフィールドに移動する。
 場所は⋯⋯コロッセオのような、典型的な場所だった。
 観客席には人がびっしり、敷き詰められている。

 「それじゃあ、始めようか!」

 モコモコがそう言うと同時に、モンスターが四体召喚された。

 「全て一級だよ! さぁ、君の公式チートのモンスターを使って!」

 「メイは⋯⋯使わない」

 これはまだ想定通り。メイを召喚してもすぐに倒される。
 この状況で全員に襲われたら、俺は勝てない。
 どうやって勝つか、凄く考えていた。

 でも、愛梨のお陰で戦い方が決まった。
 愛梨の想いも背負って、俺は勝つ。

 「なんだ?」

 俺のイメージカラーとはかけ離れている純白の鞘に入った刀。
 俺はそれを抜き取る。

 「なっ!」

 「嘘だろ!」「あれって!」

 観客も騒ぎ経つ。
 それはそうだろう。
 なぜなら、俺が取り出した刀は『虐滅刀』なのだから。

 「悪を倒し、弱者を守る⋯⋯使わせて貰うぜ」

 俺は小声でそう言う。

 「は、はん! それがどうした! この数と質の前に、単身で勝てる訳ないだろ! 行け! モンスター達!」

 「モコモコ、貴女のレベルは432、対して私のレベルは43、十倍もの差がある」

 モンスターが迫って来る。

 「虐滅刀は敵が自分よりも強ければ強いほど、数が多ければ多いほど、その性能を上げる」

 これほどまでのレベル差が存在すると、使用者のステータスにも影響を与える。
 今の俺は、レベル四百代にも届く身体能力と一級のモンスター相手にも引けを取らない火力を出せる。

 弱い人が使えば使うほど、虐滅刀は輝くんだ。
 愛梨と俺の流儀は同じ、日陰の状態なら尚更一緒だ。

 「はっ!」

 俺は複数の斬撃を浴びせながら、モコモコに接近する。
 あれだけではモンスターは倒せなかったか。
 素のスキルが足りずに、やはり愛梨クラスまでは火力は上がらない。
 逆に言えば、そのおかげで身体能力向上率が上がっている。

 モコモコに一太刀入れられる距離まであと少しだ。

 「なっ! そんなの、卑怯だろ!」

 モコモコが取り出したのは鞭だ。
 それを放って来る。

 鞭相手に戦った事は無いが、柔らかい物を弾く感覚は知っている。
 鞭の攻撃を弾く。
 さらに加速して間合いを詰める。

 「舐めるなよ! 〈高速連打〉」

 「もちろん、ずっと警戒しているさ!」

 数は⋯⋯六か。
 かなり多い。
 それでも、俺には届かない。

 少しだけ、身体能力は相手の方が上か。
 モンスターが迫って来る。

 モンスターを使っても良いが、そうすると虐滅刀の性能が下がる。
 火力が下がると、俺自身も弱くなってしまう。
 しかも、使うモンスターの性能によっては、身体能力まで下がる可能性がある。

 だから、なるべくモンスターは使いたくない。
 先にモンスターを倒すべきか?

 「余所見するな!」

 「土魔法!」

 情報収集は怠ったつもりは無いが、知らなかったぞ。
 魔法を使えるのは知っていたけど、土は知らない。

 土の壁が周囲に出来上がり、俺の退路を塞ぐ。
 しかも、上からは鞭が伸びてくる始末だ。
 あんな動き、普通はできないぞ!

 「データだから普通なのか」

 まぁ良い。
 俺は元々、虐滅刀を持っても愛梨ほどに手数は増えないと思っていた。
 連撃系のスキルが足りないから。

 連撃系のスキルがないから、攻撃数が減り、手数が少ない。
 ならばどうすれば良いか。
 移動中考えた。

 簡単だった。
 手数が少ないなら増やせば良い。
 俺の手は二本ある。

 「新たな日陰のお披露目だ」

 俺は普段使っている黒い刀を取り出した。
 そして壁をよじ登る。
 リザードマンのダンジョンのお陰で、壁を歩く感覚が最近染み付いている。

 「使わせて貰うぜ!」

 刀と足を駆使して、鞭を足場としてモンスターに向かって加速する。
 一体のモンスターに集中する。

 大きな鷹のようなモンスターだ。

 「陰式二刀流、影爪えいそう

 俺はクロス斬りのような形で翼に攻撃を浴びせる。ぶっちゃけそれだけ。
 すぐさま怯んだモンスターの背中に乗り、強く蹴りながら跳躍する。

 「なんだあれ!」「二本の刀持ってるぞ!」「二刀流か!」

 外野がうるさいな。
 モコモコも驚いている。
 なら、案外良い成果なのかもしれない。

 まずはモコモコだ。
 お前をバトル的に追い込む。

 「二本になったからって、なんだって言うんだ! そらっ!」

 すごい動きで鞭が伸びて来る。
 なんでドリルのように回転しながら、本数が六本に増えて、様々な方向から来るんだよ。
 ずりぃだろ。

 「だけど、それならまだ行ける。陰式二刀流、影縫い!」

 高速で複数の突きを繰り出すだけの技。
 そもそも陰式流は俺の我流であり、日陰アレンジを加えたモノだ。
 霧外流の派生と考えているので、本質は一緒。

 気配を殺し、暗殺するための技術。
 今の状態では、流儀関係ない、ただの高速の突き技だ。

 霧外流の極地、振るう刃すら霧のように認識させない⋯⋯は出来ない。
 それはリアルでも一緒。そこまで技術は上達してない。
 免許皆伝レベルだ。

 「全て弾かれた!」

 「虐滅刀が無かったら、ここまでのパフォーマンスはでになかったな」

 元々は違う方法を考えていたが、出来るかは怪しかった。
 って、空中にずっと居るとやばいか。

 『ぐええええ!』

 「来るよな」

 さっき翼を攻撃したが、切り落とせてはいなかった。
 そのせいでご立腹だ。
 厄介なのは、ここからだよな。

 「〈攻撃補助〉〈舞えよ強化の桜ダンス・キルシュバオム〉」

 桜の花びらがフィールドに撒き散らされる。
 この花びらは味方の全パラメータを強化する力がある⋯⋯って動画で言ってた。
 パラメータと言うシステムが目視では確認出来ない。
 なので、正確には身体能力が上がるのだろう。

 それを証明するように、鷹のスピードが急激に上がった。
 しかも、攻撃力が上がるバフも貰っている。

 モコモコの役職はバッファーだ。
 バフを味方に配るのを得意とし、本来タイマンをするような戦闘スタイルじゃない。

 しかし、彼女は別だ。
 広範囲に平等の強力なバフを配れるし、エリア型なので自分にもバフは適応される。
 バッファーとしてとても優秀であり、一級モンスターが加わればそれは、価値はさらに上がる。

 メイと組ませたら、どれだけの化け物軍団が登場するのか、想像もしたくない。
 だけど、メイだけでは意味が無い。

 もしかしたら、彼女の狙いはメイか?

 「考えている場合じゃないか。悪いが、それならまだ対処できる範囲だぞ!」

 グルンと前周りで回避して、相手の背中を切り付けた。
 身体能力が上がっているおかげで、黒い刀でも傷を与えられた。
 しかし、虐滅刀よりも深くは無い。

 「甘いな!」

 「なっ!」

 回避したタイミングで足を鞭に掴まれた。

 「〈オーラ付与〉」

 「それは前線で戦うような人が使うスキルだろ」

 〈オーラ〉〈覇気〉と言ったスキル達は物理攻撃でモンスターを倒し続けて、100レベルに到達すると手に入る。
 購入不可。
 俺が今、欲しいスキル。カッコイイから。

 性能も良いしね。

 「落ちろ!」

 地面に向かって叩きつけられる。
 瞬時にクロス斬りで地面を叩き、衝撃は和らげた。

 「邪魔だよ!」

 斬ろうとしたら逃げられた。

 「しまっ!」

 俺の背後に大きな熊の影が現れる。
 モコモコ本人が所持しているモンスターだ。
 そして、無防備の俺に巨大な手が振り下ろされる。
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