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 さて、何故こうなっているのだろうかと疑問に思わなくもない。
 今、俺は自分の家のリビングで、ダンジョンに関する事を扱う番組を見ている。
 そこでは日本初の一級モンスターカードのオークションが扱われていた。

 現在夜の十時。
 そんな時間なのに俺達家族は愛梨を加えて、リビングでオークションの値が上がるのを見守っていた。

 「凄いな日向! ダンジョンってのは良く知らんが、もう二十億を超えとるよ。はっはっは! 大金持ちだな!」

 「そうね。でも、いつの間に探索者のバイトなんて始めてたのよ。危なくない?」

 「大丈夫ですよお義母さん。ダンジョンはデータ世界なので、死んでもアバターが壊れるだけです。ただ、その時の感覚を覚えてたりするだけですね」

 「死を乗り越えた戦士は強くなる! 良い事じゃないか!」

 「父さんは俺に死んでこいと? 後、戦士じゃないし」

 愛梨が食事中にオークションの話をしてしまい、そこから詰められた結果、白状してしまったのだ。
 ただ、配信や強制TSの事は話してない。
 ダンジョンに潜ってお金を稼いでいるくらいしか話しては無い。詳しく言っても二人には分からない。

 「まさか、専用番組でこんなにも大々的に報道されるとは⋯⋯」

 「日向くんも本当に無知だよね」

 「うるせぇ」

 「日本での一級ってかなり価値が高いんだよ。クランに何枚持っているかが、権威の証明に繋がるの。クラマスの持っているカードの強さがクランのイメージってのもあるけどね」

 「本当に凄いんだな」

 クラマスでも一級を一枚持っているか持ってないかのレベルらしい。
 二枚でも持っていたら、簡単に大規模クランには成長するとかしないとか。

 ⋯⋯それを既に二桁所持している俺はかなり『やべぇ』のである。
 クラン総出で高ランクダンジョンに挑み、運良く手に入れた一級のモンスターカード。
 それを俺は雑魚狩りして、ガチャを引けば手に入る。

 「苦労して手に入れる一級とオークションで落札する一級⋯⋯重みは一緒か」

 「切なくなるね~」

 父と母が酒を飲みながら、「お、一億上がった」と言っている。
 あれだけの金が手に入ればダンジョンに行かなくても生きていけそうな気がする。
 いや、間違いなく生きてはいけるだろう。

 でも、俺の目的はリイアたんに貢ぐ為なので、金は沢山欲しい。
 配信も続けたい。リイアたんに近づきたいから。

 それに正直、イベントに関しても気になってはいる。
 昔の俺ならダンジョン行くくらいならネットを見る、アニメを見るだった。

 「こりゃあ、凄そうだなぁ」

 「日向くんはこれから、どこで手に入れたかを聞かれそうだよね」

 「⋯⋯高ランク、Fって言っておこうかな?」

 「それだったら既に話題になっていてもおかしくないけどね。結局いくらで落札されるのやら」

 最終結果、35億円である。そこから10パーセント引かれた数字が俺の金となる。
 飲み物を持つ手の震えが止まらない。

 「35億ですって! 日向、やるじゃない!」

 「これで将来安泰だな! がはははは!」

 「父さん達もダンジョン行けば?」

 「めんどくさい」「興味が無い」

 父、母はこんなんである。ちなみに俺もそうだった。
 さて、明日はこの金を受け取りにギルドに向かい、そのままステータスなどを改造する権利システムを購入するか。
 これで日陰の状態が愛梨の友達にバレる心配は無くなるだろう。

 「「ん?」」

 俺と愛梨のスマホが同時に鳴った。例のアプリからの通知である。
 そこには『イベント告知』とあった。

 そして、ニュースが変わる。

 『ただいま皆様の方にも届いたと思います。神からの通知がありました。イベントの様です。速報となります。今から内容確認と⋯⋯』

 俺達はニュースには耳を貸さずにスマホの通知から飛ぶ。

 『バトルロイヤルイベント!~探して見つけて殺せ~』

 「物騒な」

 日本全域で行われる国内イベントらしい。
 日本内にしかこの情報は行かず、他国ではイベントはないらしい。
 参加したい人は申し込みをして、『プレイヤー』となる。

 プレイヤーは決められた日の決められた時間から強制的にイベント会場のデータ世界に入る。
 今回の範囲は日本全土だ。

 ルール説明が載っている。
 プレイヤーはプレイヤーを見つけて殺し、ポイントを獲得する。
 そのポイントの多さで順位が決められ、一位から三位は特別な報酬が貰えるらしい。
 モンスターカードはプレイヤー一人につき、一つしか使えない。
 完全な個人戦であり、パーティ設定などは無し。

 制限時間は二十四時間、空腹は感じるらしいが睡魔には襲われないらしい。
 死んだらその時点で脱落となり、イベントは終了。
 安置などは存在しないので、ひたすら日本中を探して他プレイヤーを倒さないといけない。

 自分がイベントに参加した地点の近い位置にランダムテレポートされるらしい。
 イベント中のデータ世界は二十四時間、現実時間は一時間と時間加速システムが用意されている。

 装備は予め設定を済ましておく必要がある。
 後からショップで買ったり、装備を変えたりする事は不可能らしい。
 他プレイヤーからはドロップする可能性があるとか。

 レベル的な差は無く、皆が均一のレベルになるらしい。
 勝敗を分ける点はプレイヤーの技量、スキルの量と質。
 何よりもモンスターカードの性能だろう。

 だが、他にもある。
 プレイヤー同士の共闘⋯⋯今回のルール的に難しいかもしれないが、やる人はいるだろう。
 集団でポイントを集めた人を襲ったら効率は良いだろうからな。

 ポイントを貯めた人を倒せば、そのポイントも全部自分のモノになるらしい。

 「⋯⋯イベントフィールドにはお助けアイテムもある、と。愛梨はどうすんだ?」

 「ん~私は、どうしようかな? 日向くんは参加するの?」

 「せっかくだし、参加しようかな」

 「なら私も参加する」

 「そんなもんかね」

 「そんなもん」

 俺達が会話を始めると、「邪魔者は退散しますね~」と言うノリで二人が去って行く。
 そんな事する必要ないと思うが⋯⋯だって幼馴染だぜ?
 相手は一般的に超が付く程の美人で学校でも人気、対して俺はデブスだ。
 そんな気持ちなんて互いに出んよ。

 「ま、良いか。それでイベントだけど。どうする? 一度合流して一緒にやるか?」

 愛梨は人差し指を自分の唇を立てて、「うーん」と考え出す。
 そして薄らと唇を細めた。

 「初めてのイベントだし、自由にやろっか。ペアプレイにこだわらずさ」

 「そうか。まぁ、一応どんな風に進めるか、決めておくか。時期は⋯⋯明日かよ!」

 まさかの月曜日である。
 確かに月曜日は祝日休みとなっているので、学生諸君も問題ないだろう。

 「時間は14時から15時の一時間ね。データ世界では二十四時間過ごすのか」

 ま、そのくらいの時間なら既に日陰状態で経験しているし問題ないか。

 「今回のイベントって要するに、合法殺し合いだよね」

 「だな。ダンジョン内だとそう言うのって珍しい?」

 「いや。レアエネミーを倒した報酬を得る為にPKは普通に行われるよ。探索者を専門に狩る人だっているし。殺人衝動って奴? それを満たしている人は多いよ」

 「なんと迷惑な」

 「まぁ、その場合、審査が入って、問題なければアバターは無料で復活するから、少しアイテムを落とすくらいで済むけどね。元々装備してある物は落ちないよ」

 「案外親切設計なんだな」

 とりあえず、俺の方針としては、モンスターカードはなるべく温存する立ち回りにしようと思う。
 モンカドは使った時点から登録されるらしいので、俺の手札はかなりある。
 まぁ、結局は『アレ』を使うだろうけど。

 「愛梨にもモンカド貸そうか?」

 「大丈夫だよ。前にも言ったけど、私はモンスターを使う程に弱くなるから。弱体化って言うか、本気を出せないって表現が正しいかな」

 「へぇ。ま、互いに楽しもうや」

 「うん」

 一瞬愛梨の顔が曇った気がするが、気のせいだろう。
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