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竜也の気苦労
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「最初の態度は良くなかったぞ」
「あんまり違わないでしょ」
「⋯⋯そうか?」
「そう」
兄さんと莉耶の会話。
今日、兄さんと共に活動している人と買い物しに行ったらしい。
莉耶がその人に対してどんな態度を取ったのか、想像に難くない。
部屋へと戻った莉耶を追い掛けて、ドアをノックして返事を待ってから中に入る。
「何?」
「良くない態度を取ったらしいな」
「ムッ。聞いたの?」
「聞かなくても分かる」
相手が男性だったとしても、少なからず悪い態度をしていただろう。
莉耶は兄さんにダンジョン攻略を辞めて欲しいと願っているからだ。
俺も兄さんの命を考えて辞めて欲しいとは思っているが、それが俺達のためだと理解しているから莉耶程は思ってない。
「兄さんに彼女ができると思って心配だったか?」
「は、はぁ?」
顔を赤らめてアワアワと否定する。
八割くらい確信しての発言だったが、想像以上に威力が高かったらしい。
「違うしっ! そんなんじゃないし!」
「分かりやすいな」
「な、ななにを、何を言ってるのかなぁ? かなぁ?」
許可を取ってからベッドの上に座り、椅子に座る莉耶と目を合わせる。
「わ、私はただ」
俯きながら、今日の光景を思い出しながら愚痴る。
「家族の輪を乱そうとする女が気に食わないだけ。4人の家族なんだよ」
「⋯⋯変わらないだろ」
「変わるよ!」
莉耶は家族の仲を誰よりも強く想っている。異常に思える程に。
尋常じゃない思想の裏に何があるのか知らないが、きっと何かあるのだろう。
恋愛に関しては誰よりも冷徹で嫌悪する。
「まぁそれは良いとして、兄さんの仕事仲間に対して適切な態度は取ったのか? もしもそれで兄さんとの仕事を辞めたらどう責任を取ったんだ?」
「寧ろ良いでしょ。元の形に戻るんだから」
「それは違うぞ。今の二人のチャンネル知ってるよな? 独りの時よりも再生数も登録者の伸びも断然良い」
「それは⋯⋯そうだけど。兄さんが企画を変えたりすればそんなの簡単に⋯⋯」
俺達は配信について詳しく知らないが、そう簡単にはいかないだろう。
実際の結果が既に出ている。
「それに今の兄さんは凄く楽しそうだ。それを奪うつもりか?」
「うっ」
独りの時は晩御飯に間に合わない時間までやる事や連絡を忘れる事は無かった。
兄さんも家族第一に考えていたからだ。
それが今は忘れる事もある。それだけ集中しているのだ。
集中できるほどにのめり込める。それは楽しんでいるからだ。
「莉耶、君の嫉妬心や我儘で兄さんを振り回すな」
「それは⋯⋯分かってる。分かってるんだよ」
理解はしているが、納得はできないって顔をする。
これ以上この話を深堀しても平行線か。話を変える事にした。
「俺達は昔に誓ったはずだ。いっぱい勉強して将来沢山稼いで、母さんも兄さんを楽させるって」
「⋯⋯その相手がいなくなったら、意味無いじゃん」
不貞腐れた様に、ボソリと小声で呟いた。
俺もそれには同意するが、迷惑を掛けるのはまた別の話だ。
莉耶も頭の中では良くない事をしていると理解している。
だけど心がその理解を拒んでいる。
「今の兄さんは楽しそうだろ? だったら俺達はそれを尊重するべきだ。⋯⋯何よりも、兄さんは俺達のために頑張ってるんだからな。楽しめるなら、楽しんで貰うべきだ」
「知ってるよ。悪かったって⋯⋯感じてる」
「感じるだけか?」
「思ってる!」
「なら良い。次会う機会があれば、しっかりと改めろよ。夜分に邪魔したな」
俺は部屋を出るべくドアに手を掛ける。
「⋯⋯次は結婚報告だったりしてな」
「⋯⋯ッ!」
「冗談だ。だから怒るな。枕を投げるな」
投げられた枕をキャッチしてから軽く投げ返し、廊下に出る。
「客観的に兄さんを分析すれば惚れる要素はゼロだから問題ない。これは兄ちゃんが確信してる事だ」
「⋯⋯ブラコンめ」
「同じだろ。そして兄二人はシスコンでもあるぞ」
「知ってる」
リビングで休んでいる兄さんに会いに行く。
「はぁ。言い過ぎたかなぁ」
莉耶を叱った事に後悔している兄さん。
「そんな事無い」
「竜也! いつの間に!」
「兄さんは俺達を叱る事が滅多に無いから。互いに慣れてないだけ」
「で、でもさ竜也。これで莉耶に嫌われたどうしよう? ただでさえかなりの反抗期なのに!」
反抗期⋯⋯?
反抗期の女子は喜んで料理なんてしないと思うのだが⋯⋯まぁ良いや。
「その程度で嫌う程の愚か者でも馬鹿者でも無い。それと、莉耶はしっかりと反省しているから頭に⋯⋯」
「そんなの分かってるよ。年上の人と話す機会は滅多に無いし緊張したんだろ。まぁ、流石に酷すぎたけど」
もしもこのまま喧嘩っぽい状態が続くなら本格的に動くつもりだったけど、問題なさそうだな。
「竜也、俺また兄さんに戻れるかな?」
「血縁的にも戸籍的にも兄さんだから。俺達の縁が切れる事は無いよ」
「そ、そうだよな?」
「そうそう」
翌朝、無言の朝食を終える。日曜日で俺も部活が無かった。
「えっと、俺この後ダンジョン行ってくるね」
「帰りは?」
「今日は練習だから晩御飯には間に合うように帰って来れる」
「弁当いる?」
「お願いできる?」
「⋯⋯うん」
まだぎこちない所はあるが、少しすればいつも通りに戻れるだろう。
莉耶がもっと素直になればこんな事にもならないだろうけど。
◆◆◆
「彩月、おまたせ」
「大丈夫だよ~。それじゃ、練習して行きますか」
「おうよ」
ダンジョンに向かっている最中、彩月が隣に並ぶ。
俺の顔をジーッと見てくる。
「何かね」
「べーつにー」
「意味の分からない行動はしないでくれよ」
「⋯⋯たださ。怪我はしちゃダメだよ。それを言いたかった」
「お互い様だろ。痛いのは嫌だし、死ぬのは以ての外だ。ノーダメこそが至高であり最速クリアに必須条件だ」
「ふふ。そうだねー」
何か心配な事でもあるのか、そんな事を言って来た。
莉耶と会話して何かあったのだろうか?
上手く踏み込む手立てが思いつかないので、聞き出せない。
或いは心配事でもあるのか?
彼女は一度死にかけた立場だからな。
「彩月」
「ん?」
「俺が最適のルートを案内する。だから⋯⋯その。信じて欲しい。俺を。絶対に君が傷つく事はさせないから」
「⋯⋯」
目を開いて、硬直する。
何か引っかかる事でもあるのか、次の言葉を待っていると。
彩月は目を泳がせ髪の毛をクルクル弄っていた。顔を俯かせたので表情が見えなかったが、少し頬が赤かった。
「そ、そんな事!」
刹那、大きく叫んでピシッと俺の荷物を指差す。
「結構説得力無いよね!」
「安心しろ。計算上問題無い!」
「現実は厳しいんだよ! 計算だけじゃ失敗するかもだよ!」
「だからの練習だ。行くぞ!」
「危険な事はダメだよ。絶対にダメだらね!」
「そしたらこのRTA失敗するぞ」
「⋯⋯莉耶さんに怒られないよね、私?」
「俺が止めるから安心しな」
キランっと歯を見せながら親指を立てる。
俺の自信に向けられたのは冷ややかな目だった。
うん。実際土曜日は上手くできなかったからね。信頼感ないよね。知ってた。
その後、ダンジョンの中で練習を繰り返した。
「⋯⋯うぅ。何とか怪我無く終わったけど、本番は怖いなぁ」
「確かに。想像以上の恐怖体験だな。あんまり味わえないぞ」
「味わいたく無いよ。⋯⋯そうだ。多分来週辺りには収益化の審査通りそうだよ。あと少しだね」
「まじか。早いな。分かった。覚えておく」
彩月が自らチャンネルの管理をしてくれている。
代わりに俺はダンジョンのルートを考えるのに力を入れている。
数日後、準備を終えた俺達はダンジョンへとやって来た。
タイミングまであと1時間だろう。
「配信始めるよ」
「はーい!」
カメラを起動して配信を始める。藁やレンガなどの準備した道具も確認。
「今日の標的は『陸鳥の天邪鬼』」
「最速攻略時間は28分28秒!」
「タイマーコミット、ダンジョンRTA、始めます!」
「やっちゃうよー!」
「あんまり違わないでしょ」
「⋯⋯そうか?」
「そう」
兄さんと莉耶の会話。
今日、兄さんと共に活動している人と買い物しに行ったらしい。
莉耶がその人に対してどんな態度を取ったのか、想像に難くない。
部屋へと戻った莉耶を追い掛けて、ドアをノックして返事を待ってから中に入る。
「何?」
「良くない態度を取ったらしいな」
「ムッ。聞いたの?」
「聞かなくても分かる」
相手が男性だったとしても、少なからず悪い態度をしていただろう。
莉耶は兄さんにダンジョン攻略を辞めて欲しいと願っているからだ。
俺も兄さんの命を考えて辞めて欲しいとは思っているが、それが俺達のためだと理解しているから莉耶程は思ってない。
「兄さんに彼女ができると思って心配だったか?」
「は、はぁ?」
顔を赤らめてアワアワと否定する。
八割くらい確信しての発言だったが、想像以上に威力が高かったらしい。
「違うしっ! そんなんじゃないし!」
「分かりやすいな」
「な、ななにを、何を言ってるのかなぁ? かなぁ?」
許可を取ってからベッドの上に座り、椅子に座る莉耶と目を合わせる。
「わ、私はただ」
俯きながら、今日の光景を思い出しながら愚痴る。
「家族の輪を乱そうとする女が気に食わないだけ。4人の家族なんだよ」
「⋯⋯変わらないだろ」
「変わるよ!」
莉耶は家族の仲を誰よりも強く想っている。異常に思える程に。
尋常じゃない思想の裏に何があるのか知らないが、きっと何かあるのだろう。
恋愛に関しては誰よりも冷徹で嫌悪する。
「まぁそれは良いとして、兄さんの仕事仲間に対して適切な態度は取ったのか? もしもそれで兄さんとの仕事を辞めたらどう責任を取ったんだ?」
「寧ろ良いでしょ。元の形に戻るんだから」
「それは違うぞ。今の二人のチャンネル知ってるよな? 独りの時よりも再生数も登録者の伸びも断然良い」
「それは⋯⋯そうだけど。兄さんが企画を変えたりすればそんなの簡単に⋯⋯」
俺達は配信について詳しく知らないが、そう簡単にはいかないだろう。
実際の結果が既に出ている。
「それに今の兄さんは凄く楽しそうだ。それを奪うつもりか?」
「うっ」
独りの時は晩御飯に間に合わない時間までやる事や連絡を忘れる事は無かった。
兄さんも家族第一に考えていたからだ。
それが今は忘れる事もある。それだけ集中しているのだ。
集中できるほどにのめり込める。それは楽しんでいるからだ。
「莉耶、君の嫉妬心や我儘で兄さんを振り回すな」
「それは⋯⋯分かってる。分かってるんだよ」
理解はしているが、納得はできないって顔をする。
これ以上この話を深堀しても平行線か。話を変える事にした。
「俺達は昔に誓ったはずだ。いっぱい勉強して将来沢山稼いで、母さんも兄さんを楽させるって」
「⋯⋯その相手がいなくなったら、意味無いじゃん」
不貞腐れた様に、ボソリと小声で呟いた。
俺もそれには同意するが、迷惑を掛けるのはまた別の話だ。
莉耶も頭の中では良くない事をしていると理解している。
だけど心がその理解を拒んでいる。
「今の兄さんは楽しそうだろ? だったら俺達はそれを尊重するべきだ。⋯⋯何よりも、兄さんは俺達のために頑張ってるんだからな。楽しめるなら、楽しんで貰うべきだ」
「知ってるよ。悪かったって⋯⋯感じてる」
「感じるだけか?」
「思ってる!」
「なら良い。次会う機会があれば、しっかりと改めろよ。夜分に邪魔したな」
俺は部屋を出るべくドアに手を掛ける。
「⋯⋯次は結婚報告だったりしてな」
「⋯⋯ッ!」
「冗談だ。だから怒るな。枕を投げるな」
投げられた枕をキャッチしてから軽く投げ返し、廊下に出る。
「客観的に兄さんを分析すれば惚れる要素はゼロだから問題ない。これは兄ちゃんが確信してる事だ」
「⋯⋯ブラコンめ」
「同じだろ。そして兄二人はシスコンでもあるぞ」
「知ってる」
リビングで休んでいる兄さんに会いに行く。
「はぁ。言い過ぎたかなぁ」
莉耶を叱った事に後悔している兄さん。
「そんな事無い」
「竜也! いつの間に!」
「兄さんは俺達を叱る事が滅多に無いから。互いに慣れてないだけ」
「で、でもさ竜也。これで莉耶に嫌われたどうしよう? ただでさえかなりの反抗期なのに!」
反抗期⋯⋯?
反抗期の女子は喜んで料理なんてしないと思うのだが⋯⋯まぁ良いや。
「その程度で嫌う程の愚か者でも馬鹿者でも無い。それと、莉耶はしっかりと反省しているから頭に⋯⋯」
「そんなの分かってるよ。年上の人と話す機会は滅多に無いし緊張したんだろ。まぁ、流石に酷すぎたけど」
もしもこのまま喧嘩っぽい状態が続くなら本格的に動くつもりだったけど、問題なさそうだな。
「竜也、俺また兄さんに戻れるかな?」
「血縁的にも戸籍的にも兄さんだから。俺達の縁が切れる事は無いよ」
「そ、そうだよな?」
「そうそう」
翌朝、無言の朝食を終える。日曜日で俺も部活が無かった。
「えっと、俺この後ダンジョン行ってくるね」
「帰りは?」
「今日は練習だから晩御飯には間に合うように帰って来れる」
「弁当いる?」
「お願いできる?」
「⋯⋯うん」
まだぎこちない所はあるが、少しすればいつも通りに戻れるだろう。
莉耶がもっと素直になればこんな事にもならないだろうけど。
◆◆◆
「彩月、おまたせ」
「大丈夫だよ~。それじゃ、練習して行きますか」
「おうよ」
ダンジョンに向かっている最中、彩月が隣に並ぶ。
俺の顔をジーッと見てくる。
「何かね」
「べーつにー」
「意味の分からない行動はしないでくれよ」
「⋯⋯たださ。怪我はしちゃダメだよ。それを言いたかった」
「お互い様だろ。痛いのは嫌だし、死ぬのは以ての外だ。ノーダメこそが至高であり最速クリアに必須条件だ」
「ふふ。そうだねー」
何か心配な事でもあるのか、そんな事を言って来た。
莉耶と会話して何かあったのだろうか?
上手く踏み込む手立てが思いつかないので、聞き出せない。
或いは心配事でもあるのか?
彼女は一度死にかけた立場だからな。
「彩月」
「ん?」
「俺が最適のルートを案内する。だから⋯⋯その。信じて欲しい。俺を。絶対に君が傷つく事はさせないから」
「⋯⋯」
目を開いて、硬直する。
何か引っかかる事でもあるのか、次の言葉を待っていると。
彩月は目を泳がせ髪の毛をクルクル弄っていた。顔を俯かせたので表情が見えなかったが、少し頬が赤かった。
「そ、そんな事!」
刹那、大きく叫んでピシッと俺の荷物を指差す。
「結構説得力無いよね!」
「安心しろ。計算上問題無い!」
「現実は厳しいんだよ! 計算だけじゃ失敗するかもだよ!」
「だからの練習だ。行くぞ!」
「危険な事はダメだよ。絶対にダメだらね!」
「そしたらこのRTA失敗するぞ」
「⋯⋯莉耶さんに怒られないよね、私?」
「俺が止めるから安心しな」
キランっと歯を見せながら親指を立てる。
俺の自信に向けられたのは冷ややかな目だった。
うん。実際土曜日は上手くできなかったからね。信頼感ないよね。知ってた。
その後、ダンジョンの中で練習を繰り返した。
「⋯⋯うぅ。何とか怪我無く終わったけど、本番は怖いなぁ」
「確かに。想像以上の恐怖体験だな。あんまり味わえないぞ」
「味わいたく無いよ。⋯⋯そうだ。多分来週辺りには収益化の審査通りそうだよ。あと少しだね」
「まじか。早いな。分かった。覚えておく」
彩月が自らチャンネルの管理をしてくれている。
代わりに俺はダンジョンのルートを考えるのに力を入れている。
数日後、準備を終えた俺達はダンジョンへとやって来た。
タイミングまであと1時間だろう。
「配信始めるよ」
「はーい!」
カメラを起動して配信を始める。藁やレンガなどの準備した道具も確認。
「今日の標的は『陸鳥の天邪鬼』」
「最速攻略時間は28分28秒!」
「タイマーコミット、ダンジョンRTA、始めます!」
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