上 下
36 / 40

サインの短期決戦! 速攻で終わらせるとは言ってない

しおりを挟む
 「お務めご苦労スパーイ。人間達の国で長らく過ごすのは大変だっただろう」

 「問題無い。俺がいたのは1年ちょっとだからな」

 魔王軍の魔族と親しそうに会話をするのは部活でアナ達の先輩、スバーイである。
 彼は1年前から王国へ忍び込み、人間として生活していた。
 今日、この日のために準備を整えていたのだ。

 「この国は今宵で終焉を告げる。未練などあるまいな?」

 「無いな」

 キッパリと言い終えると、スパーイ達は作戦開始と言わんばかりに動き出す。
 だが、次の瞬間スパーイは魔族から引き剥がされるように鞭で引っ張られた。
 ゴリラのような肉体を持っているスパーイは力が強く重い。

 だと言うのに軽々持ち上げられた状況に思考が止まる。
 魔族の6人も一瞬で警戒心を上げる。

 「嬉しいですね嬉しいですね。ゴミ共を一斉に狩れるこの好機。何故1箇所に集まっているか分かりませんが、結果は変わりません。何故ならアーク様が殲滅を求めたから!」

 嬉々として語りながら、コツコツと足音を立ててやって来た女。
 露出が多く戦うような格好では決してないが、油断ならない相手だと本能が警告する。

 認識阻害で赤く見える瞳がうっとりと歪む。
 その先に映るのは当然魔族。
 身もよだつその瞳に魔族達は一斉に襲いかかる。

 「我らは上流の中でも上位に位置する!」

 「たとえ猛者だろうと、この数には手も足も出まい!」

 「あはっ!」

 小さくて短い声。
 ヒールがコツンっと高い音を鳴らす。

 刹那、銀色の閃光が魔族6人の手足を切断した。
 一瞬、そして同時。
 理解が及ばない神速の刃が女がいつの間にか握っていた刀から放たれた。

 「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」
 「お、俺の足があああ!」
 「なにが⋯⋯」

 阿鼻叫喚。
 魔族達はただ理解できない現実に翻弄され痛みに絶叫する事しか許されない。
 その悲鳴が、女を愉悦に浸らせる。

 「ああ良いですね。良いですね。拘束でじっくりといたぶるのも考えたのですが。やはり今回は短期決戦。素早く終わらせないといけません」

 残念そうに目を瞑る。
 女なら一撃で相手が死んだ事すら分からない状態で首を刎ねる事ができた。
 だが、それはしなかった。

 理由は単純。
 短期決戦だができる限りいたぶりたい。残虐性から来る理由だ。

 「お前達は怪人になる価値も無い。さぁ、十分楽しんだので終わらせましょう。苦痛に歪む姿を眺めるのは実に愉快ですが」

 名残惜しそうに見下げ、刀を振るい1人の魔族の首を刎ねる。
 全員一気にやらない。一人一人、丁寧に確実に刎ねる。

 (な、なんなんだコイツは!)

 いきなり現れたと思ったら、気づいたら全員が戦闘不能状態にされていた。
 女が現れてまだ1分も経過していない。

 (こ、こんな化け物。星魔でも中々いない。四天⋯⋯いや、側近クラスの強さがある!)

 スパーイは現状を把握して逃げ出した。

 ──今回の作戦は失敗。

 それだけ理解すると早々に身柄を隠し、再びスパイとして活動できる状態にする。

 (すまない。同胞達よ!)

 後ろ髪を引かれる想いだが、それでも魔王軍の未来のために逃げ出した。

 (あの強さ。そして露出癖のある格好⋯⋯情報とは違い刀を使っていたが、間違いない。アイツは⋯⋯)

 あの化け物は。

 「ヤベーゾの幹部怪人、サインだ」

 場面は戻りサインのところへ。
 逃げ出した2年生に興味など微塵も無く、ただ失うって行くおもちゃに思いを馳せていた。
 本当なら鞭で何回も打ち倒したい。力の差を分からせて絶望させたい。

 アークの命令を最優先に考えるので、遊ぶ時間は無い。
 惜しい。
 これ程までにおもちゃが近くに沸いてくれたのに、遊べないのだから。

 「ヤベーゾ⋯⋯サイン⋯⋯だったか?」

 あと2人まで減った魔族。死を覚悟し冷静になった1人が問いかける。
 仲間の逃げる時間稼ぎをするのだ。

 「ええそうです。それが何か?」

 「刀を使う⋯⋯なんて情報は無かったぞ」

 「ええ。今まで必要なかったので。まぁ、ヒールと言う戦いにくい靴の時点で本気では無い事はお分かりだと思いますが」

 「それで⋯⋯」

 質問していた魔族の首を刎ねる。
 質問されるのが億劫に感じた訳では無い。
 ただ、順番的に刎ねられるタイミングだっただけだ。

 「魔族は痛みに強いで、単純に四肢を斬っただけでは、すぐにつまらなくなりますね」

 「化け物め!」

 「怪人ですよ。化け物ではありません」

 「何が目的なんだ! お前達の目的はなんだ! この国を破壊したかと思えば助け! そしてその強さがありながら毎回魔法少女に負ける演技をする理由は!」

 サインはマスクで隠れた口元を大きく歪ませる。
 きっと表情全てが見えたら悪魔だと言われただろう。

 だが、目元だけでも十分に狂気的な笑みを浮かべていると分かる。

 「お前達みたいなゴミをこの世から消すため。それだけです」

 「⋯⋯ゴミ?」

 「私から家族を家を友人を⋯⋯全て、全てを奪ったお前達!」

 「復讐心⋯⋯か」

 「ええ。それが半分。もう半分は我が全てを主に捧げたので、主の望みを叶えるためです」

 最後の首を刎ねる。
 後は数だけを楽しむために沢山魔族がいる場所、それでいて魔法少女がいない場所に足を運ぼうとした。
 しかし、ここで予想外の邪魔者が入る。

 「逃げて来た先輩がいると思ったら⋯⋯ヤベーゾの露出魔か!」

 容姿の優れた男。ルーシャ流に言えば主人公みたいな奴!
 名をルベリオンと言う。

 騎士家の生まれで憧れは実の父。しかし、ヤベーゾと魔法少女のせいで酒に溺れた父。
 彼の愛国心は強く、そしてヤベーゾと魔法少女には強い敵対心を持っている。

 剣を抜き、サインに向ける。

 「剣の高みを目指すモノならこの勝負、逃げたりはせんな?」

 「剣の高み? くだらない。この世界はマナが頂点。そんなくだらない剣は捨ててしまいなさい」

 「なん、だと」

 サインは呆れながらルベリオンに振り返る。
 既に彼女の中では「露出魔」と言われて相当苛立っている。
 『人間』だからまだ五体満足でいられると理解していない。

 「剣を極めたところで何になる? 魔獣を斬れるか? 魔族を斬れるか? 答えはノーだ! マナが無くてはソイツらは斬れない!」

 「剣の道を行く先にマナの極地があるのだ」

 「迷信ね」

 先に鍛えるのはどっちが良いか。
 ルベリオンは剣、サインはマナ。

 「正しい方は勝者のみ。参る!」

 ルベリオンが地を蹴って加速する。
 サインは刀を地面に突き刺し、鞭を太もものベルトから取り出す。

 上手く操り、ルベリオンのボディに強い打撃を与えて吹き飛ばした。

 「がはっ!」

 「正しい方? 馬鹿馬鹿しい」

 サインが地面を踏みしめると、強い揺れが起こりクレーターが広がる。

 「正しいとか正しくないとか、関係ないでしょ。強さが全てなのよ!」

 「⋯⋯い、今の攻撃、は」

 「ええ。マナは使ってません。言ったでしょ。強さが全て」

 ルベリオンはその言葉を聞いても絶望せずに立ち上がる。
 何故なら、騎士だから。

 「違う。人の価値は強さじゃない。何かを護る、心だ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

世界を滅ぼす?魔王の子に転生した女子高生。レベル1の村人にタコ殴りされるくらい弱い私が、いつしか世界を征服する大魔王になる物語であーる。

ninjin
ファンタジー
 魔王の子供に転生した女子高生。絶大なる魔力を魔王から引き継ぐが、悪魔が怖くて悪魔との契約に失敗してしまう。  悪魔との契約は、絶大なる特殊能力を手に入れる大事な儀式である。その悪魔との契約に失敗した主人公ルシスは、天使様にみそめられて、7大天使様と契約することになる。  しかし、魔王が天使と契約するには、大きな犠牲が伴うのであった。それは、5年間魔力を失うのであった。  魔力を失ったルシスは、レベル1の村人にもタコ殴りされるくらいに弱くなり、魔界の魔王書庫に幽閉される。  魔王書庫にてルシスは、秘密裏に7大天使様の力を借りて、壮絶な特訓を受けて、魔力を取り戻した時のために力を蓄えていた。  しかし、10歳の誕生日を迎えて、絶大なる魔力を取り戻す前日に、ルシスは魔界から追放されてしまうのであった。

神様に貰ったスキルで世界を救う? ~8割方プライベートで使ってごめんなさい~

三太丸太
ファンタジー
多種族が平和に暮らす世界<ミリテリア>。 ある日、神様から人々に『別世界<フォーステリア>の魔物がミリテリアを侵略しようとしている』と啓示があった。 動揺する人々に、神様は剣術や魔法などのスキルを与えていった。 かつての神話の様に、魔物に対抗する手段として。 中でも主人公ヴィトは、見た魔法やスキルをそのまま使える“模倣(コピー)”と、イメージで魔法が作り出せる”魔法創造(クリエイトマジック)“というスキルを授かった。 そのスキルで人々を、世界を守ってほしいという言葉と共に。 同様に力を授かった仲間と共に、ミリテリアを守るため奮闘する日々が始まる。 『何となく』で魔法を作り出し、たまに自分の魔法で死にかけるヴィト。 『あ、あれいいな』で人の技を完璧にパクるヴィト。 神様から授かった力を、悪戯に使うヴィト。 こっそり快適生活の為にも使うヴィト。 魔物討伐も大事だけれど、やっぱり生活も大事だもの。 『便利な力は使わないと勿体ないよね! 練習にもなるし!』 徐々に開き直りながらも、来るべき日に備えてゆく。 そんなヴィトとゆかいな仲間たちが織成す物語。 ★基本的に進行はゆっくりですごめんなさい(´・ω・`) ★どうしたら読んでもらえるかなと実験的にタイトルや校正を変えたり、加筆修正したりして投稿してみています。 ★内容は同じです!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

処理中です...