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強敵に協力し合う展開ってマジやばくね?

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 「さーて。ボクやるよ~」

 可愛らしい声とは真逆の怪力で線路を破壊し妨害するファウスト。
 ニシシ、と白い歯を見せながら笑い、ぞろぞろと出て来る護衛騎士に目を向ける。
 数は十を軽く超えている。そのどれもが手練だろう。

 「何者だ貴様!」

 護衛騎士の1人がファウストに向かって問いただす。
 その言葉を聞いて、キラキラと目を輝かせるファウストはルーシャに用意して貰った言葉を心底楽しそうに語る。

 「ボクはヤベーゾのナンバー怪人、ファウスト! 今後増える傑作の1つで原点にして頂点! ⋯⋯ま、今日だけしか会わないから悪い夢として忘れてね」

 キランっとウインクする。
 幼さを含ませながらも美しさがある可愛らしいファウスト。
 ドキリと騎士達の心を一瞬にして掴んだ刹那、全員の意識が一撃で刈り取られた。
 一瞬の気の緩みで生み出された隙を見逃さなかった。

 「⋯⋯このタイミングだっけ? それじゃ、さようなら~」

 命を刈り取る攻撃。
 だが、それを許さない氷の魔法攻撃が天より飛来する。

 バックステップで回避し、現れた水色の魔法少女をニヤリと見詰める。
 タイミングな完璧で自分自身を褒める。

 「来たね魔法少女。君を倒しに来たよ」

 「戯言ね。貴方じゃ、ワタクシを倒せない」

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 セミロングの白髪に長い袖で手を隠し、ギザギザとした歯をしている。
 常にニコニコとした笑顔を崩さない。

 見ててイライラする。
 さっさと終われせましょうか。

 「貫け!」

 氷の剣を生成して放つ。その速度は並大抵の魔法士とは比べ物にならない。
 同世代でもワタクシ程魔法の制御に長けた人間はいない。

 「ふぁいや~」

 ファウストと名乗っていた怪人は右袖から龍のような厳つい顔を出して、軽い言葉と同時に龍の口から炎を放った。
 まるで火炎放射器。

 でもね。
 ワタクシの氷はそんな温い炎じゃ溶けないわ。

 「貫きなさい!」

 「ありゃ。手加減し過ぎたか。ボクうっかり」

 今度は左の袖から剣の刀身を出して斬り裂いた。
 袖の中がどうなっているか分からなかったが、もう手札は割れた。

 「それでは終わらせましょうか。必殺⋯⋯」

 「あー! ダメだよそれじゃ」

 「えっ」

 騎士との戦いでは目で追えた。
 余裕で倒せる相手だった。

 しかし、眼前へと移動したファウストのスピードは先程の比では無かった。
 まるで初めてハンサムと戦った時のような⋯⋯絶対的な力の差を感じる。

 「ぱーんち」

 「ぐはっ」

 稚拙な声音とは裏腹にとても重いパンチを繰り出された。
 脳が揺らぐ。
 地面を転がり、立ち上がる。

 「おかしいわ⋯⋯」

 先程まで龍の頭だったはずの右袖は頭が無くなり、中にしっかりと拳が握られていた。
 袖の中身は一体どうなっていると言うのか。

 「動揺してるね」

 焦点の定まらない瞳を見破られ、動揺している事を悟られる。
 フットワークの軽そうな言動とは違い、洞察力が非常に優れている。

 「もしかしてボクの体に興味あるの?」

 「ええそうね。とても興味深いわ」

 会話をしながら攻略の糸口を探る。
 大丈夫。
 力の差を感じても勝てるわ。
 セーギ様よりも強者の力を感じないもの。

 「良いよ。教えてあげる」

 「え?」

 敵に塩を送るとは⋯⋯一体何を考えているの?
 分からないわ。

 だけど、こちらとしてはありがたい話。
 嘘か真はワタクシがじっくりと後で確認すれば良いだけですわ。
 今のうちに攻略の糸口を探し出す。

 「まず右手はね。さっきの火を出すドラゴンの頭。伸びるタイプのケロベロスの頭。後は盾になる亀の甲羅になるんだ」

 言いながら順番に見せてくれる。
 先程の赤い龍の頭、三つの狼の頭、亀の甲羅。

 「左手は剣、戦斧、戦鎚になるの」

 剣、斧、槌に左手を切り替えてくれる。
 本当に⋯⋯ちゃんと見せてくれた。

 「⋯⋯どうして、手を隠しているの。戦いにくいでしょう」

 相手の思考が分からず混乱しているのか、こんな質問を投げ掛けた。
 答えてくれる筈も無い⋯⋯が。

 「可愛いから」

 「え?」

 「だーかーらー。可愛いからこうしてるの。萌え袖って奴? 萌えない?」

 燃える? それを見たら燃えるの?
 違う違う。ワタクシは燃えて無いわ。
 つまり、相手はその理由を教える気は無いと言う事。

 まだ何か隠している。

 「ボクは可愛く思われたい。ママにもお姉ちゃんにも主人にも⋯⋯もちろん、敵の君もねへカート」

 「そう。それでは、参りましょうか」

 「どこからでも来て良いよ。あ、忘れるところだったけどもう1つ見せるね。使わないけど」

 ファウストの背中から大きな蜘蛛の足が生えて来た。
 先端は鋭くまるで剣⋯⋯まだ、手札があった。
 足をしまってワタクシを見据える。背筋を凍らせる邪悪な微笑みと共に。

 「さっきの可愛くないから使いたくないんだよね。ボク、可愛いの好きだし可愛く思われたいの。へカート。ボクの手札は見せたよ。本気で掛かって来て」

 「望むところですわ!」

 氷の剣を放ちながら地面を凍らせ自分の得意なフィールドに変える。
 その直後に新たな氷の剣も生成を始める。
 手数で押し切る。

 怪人や怪獣は周囲のマナを基本使わない。
 自分の身体スペックだけで戦おうとする。
 つまり、魔法による物量で押し切る事が可能。

 「単調だな~」

 左手を戦鎚に変え、地面に向けて振るった。
 強い振動はまるで自然災害の地震。
 氷の地面を元に戻し、衝撃波だけで全ての剣を破壊した。

 「くっ」

 すぐに距離を取るべく後ろに下がる。

 「遅いよ」

 だが、ワタクシが退るよりも先に狼の頭が伸びて両肩をホールドする。
 それでも魔法は使える。すぐにこの狼の頭を切り離す。

 「防御も学びな~」

 「ああああああああああ!」

 肩に食い込む狼の牙。魔法の具現化ができなかった。
 強烈な痛みの中、ファウストに引き寄せられ顔面に残った一つの狼の頭がワタクシの顔に頭突きを決めた。

 「がはっ」

 「あちゃ。やりすぎた?」

 鼻から血が流れ出す。折れた?
 ⋯⋯強い。
 今までの怪人、怪獣のどれよりも圧倒的に強い。

 「えーい」

 「がはっ」

 それに躊躇が無い。
 躊躇いなく腹に食い込むキックを決められた。

 「ゴホゴホっ」

 咳き込み、ギリギリ立ち上がる。
 まだ全力を出している様子が見えない。
 なのに、ワタクシは満身創痍。

 「やばい。やり過ぎちゃった。これじゃお姉ちゃんに叱られるよ。⋯⋯君さぁ、弱過ぎでしょ」

 「⋯⋯はぁん?」

 ワタクシを見下し、ニヤニヤと笑いながら軽口を叩く。
 ワタクシの大っ嫌いな人種と同じ。

 「⋯⋯ワタクシを」

 「ん?」

 「ワタクシを見下すな!」

 怒りのままマナを集める。
 周囲の事なんて頭に入ってない。

 「必殺! 【フローズン・ファング】! 砕け散れ!」

 氷の牙で奴を倒すっ!

 ⋯⋯しかし。

 「名誉挽回の火炎放射~」

 右手の龍頭から放たれる業火で完全に溶けた。

 「嘘⋯⋯でしょ。ワタクシの、ワタクシの全力が」

 力が抜けて地面に倒れる。
 ワタクシでは⋯⋯勝てない?

 視界がグワングワンと揺れる。
 真っ暗に染まる。

 「これは⋯⋯夢?」

 「うげっ。かなり絶望しちゃったよ。⋯⋯ま、良いか。それじゃ、トドメって事で」

 炎を蓄えた龍がワタクシの方を向く。
 トドメ⋯⋯ワタクシはここで⋯⋯死ぬ?

 そう考えると、少しだけ楽な気持ちになってしまった。

 「させない! 必殺! 【チャック・ダン】!」

 ファウストを中心に大爆発が起こる。
 完全な不意打ちにも関わらず回避している⋯⋯規格外だ。

 「私の仲間はやらせない。私が守る!」

 ワタクシの前に降り立ったのはアナ⋯⋯いや、ジャベリン。
 初めて守られた時のように安心感のある背中だった。

 「どうし⋯⋯」

 「ごめん!」

 助けに来た早々に謝罪が入った。

 「安全な場所に避難させるのに時間が掛かった。本当にごめん」

 「どうして、謝るの?」

 ワタクシが独断専行して無様を晒していると言うのに。
 どうして、見下す事も笑う事も無く、ただ純粋な心で心配してくれるの?

 「来たねジャベリン。ボクが君を倒してあげる」

 「倒すのは私です。魔法少女ジャベリン、正義を背負う限り絶対に倒れない!」

 「眩しいねっ! でも残念。現実はそう甘く無いんだよ!」

 ファウストが加速してジャベリンに迫る。
 爆撃魔法で応戦するも全てガードされる。
 肉弾戦に入っても、身体能力とセンスの差でジャベリンが押される。

 「強い⋯⋯」

 「水色とは違って、君は中々にやるねぇ!」

 煽るファウストの回し蹴りを受けてジャベリンがワタクシのところまで転がる。

 「だい⋯⋯」

 ワタクシの心配する言葉よりも先にジャベリンは立ち上がる。
 同時に逆流した血を口から吐き出していた。

 「バカにするな!」

 空気が振動する怒号が響き渡る。

 「ん?」

 「へカートは人一倍努力してるんだ。放課後も1人で魔法の練習をしてるんだ。強くなるために努力してるんだ! 水色とか、見下した風に言うな!」

 「⋯⋯ッ!」

 ジャベリンは⋯⋯アナはワタクシを見てくれていた。
 表面的な強さじゃなく、内面を見てくれていた。
 家庭環境のせいで遠巻きに見られるだけだったワタクシを。

 「私は負けない。どんなに敵が強くても、仲間を守る。それが魔法少女だ!」

 ジャベリンの紅の髪が赤く、染まって行く。
 彼女の熱い闘志に応えるが如く、烈火の如き真っ赤な髪。

 「⋯⋯ジャベリンッ! ワタクシは」

 そうじゃないか。
 アナはずっとワタクシに寄り添ってくれた。ワタクシを見てくれていた。
 なのに⋯⋯なのに、苦手なタイプだからと敬遠して遠ざけていたのはワタクシですわ。

 「どんな状況だろうと友や仲間は見捨てない。魔法少女の教え」

 ファウストがジャベリンに迫る。
 力の差は歴然で、地面を転がるのはジャベリン。
 しかし、どれだけ攻撃され地面を転がっても立ち上がる。

 ワタクシと違って、心が全く折れない。
 あれが⋯⋯真の魔法少女。

 「ワタクシ⋯⋯ワタクシも、⋯⋯魔法少女ですわ!」

 ジャベリンの攻撃に合わせて氷柱を回転させて放つ。
 想定外の攻撃で反応の遅れたファウストの頬を掠める事に成功した。

 「立つんだね。寝てたら苦しくないのに」

 「へカート!」

 「目が、覚めましたわ。ワタクシも魔法少女。どんな強敵だろうと、諦めませんわ!」

 意識が覚醒し、周囲のマナを精密に察知できる。
 髪が海底のように真っ青に染まって行く。
 普段以上にマナを感じ、操る事ができる。

 不思議な感覚。そして高揚感。
 同時に冷静になる思考。
 冷静に状況を見極め、正しい最善の選択をする。

 「ジャベリン」

 「う、うん!」

 ワタクシに声をかけられ、キョドりながらも返事をする。
 その反応になるのも、ワタクシのせい。
 きっとやり直せる。ワタクシから歩み寄りさえすれば。

 ワタクシの憧れ、ワタクシの目指す先。
 ジャベリン、貴女の隣に立てる魔法少女になってみせるわ。

 密かな思いを抱え、ワタクシはステッキをファウストに向ける。

 「ワタクシの魔法にジャベリンの魔法を合わせてくださいまし。相手の意表を突くしか、勝ち目はありませんわ」

 「分かった。信じるよ、へカート」

 「ええ。ワタクシも、貴女を信じてますわ」

 魔法の強さで言えばワタクシの方に分がある。でも、心の強さでは勝ち目が無かった。
 心が強く誰とでも仲良くなれる彼女なら、ワタクシの魔法に魔法を合わせる事ができる筈。
 後は、彼女の魔法に耐えられる魔法をワタクシが使うのみ。

 「貫け!」

 氷柱を形成し、ファウストに向かって放つ。
 炎対策として高速の回転を乗せる。
 固めたマナの量を考えれば⋯⋯ファウストの本気でも溶けはしない!

 「加速しろ!」

 ジャベリンが氷柱を押し込むように爆撃し、超加速した氷柱がファウストの腹を貫いた。
 深々と刺さり、先端は背中の後ろにまで伸びていた。

 「⋯⋯凄いね」
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