上 下
16 / 40

新たな魔法少女のスカウト展開

しおりを挟む
 「全く。周りのレベルどころか貴族のレベルも高くは無い⋯⋯違う国の学園に行けば良かったわ。お金無いけど」

 溜息と愚痴を吐き出すのはアナのクラスメイトであり性格のせいでボッチとなった水色の髪が特徴の女の子。
 切る時間が勿体無いのか髪の毛はかなり長い。
 名前は『ルー』である。

 「帰ったら魔法の練習をしないと」

 最短距離で家に帰るため、路地裏を通る。
 人気が無く、いつもなら特に脅威は無い。
 しかし、今日ばかりは違った。

 「標的ターゲットはコイツかぁ?」

 「⋯⋯ッ! 誰!」

 「我が名はハンサム! ヤベーゾの新兵怪人なり!」

 「⋯⋯最近巷を騒がせている頭のおかしい連中の事ね」

 物影からにゅるりと現れた怪人ハンサム。
 その身体は二足歩行で人型のトカゲ。しかし顔は犬のハスキーに近い。
 武器にマチェットナイフを所持している。

 「見た目は魔族ね。それも雑種。汚らわしい」

 「魔族⋯⋯か。近いかもな」

 「え?」

 「今のは忘れろ。さもなくば手加減はできん」

 切っ先を向けられ、自分の命が狙われているのを確信する。
 狙われている理由は全く無いが、敵意を向けられたなら戦うのみ。

 「ワタクシ相手に手加減は考えない方が良いわよ。杖が無くとも⋯⋯王国騎士レベルのマナ制御が可能ですもの」

 「王国騎士にも位がある。お前はその中でも下位だ。吾輩には⋯⋯勝てんッ!」

 「良いわよ。吠え面を見せてもらうわね!」

 氷系魔法を得意とするのか、氷柱を形成してハンサムに放った。

 (ガード、回避。どっちにしろ二撃目を当てる)

 今度は氷柱の数を増やして次の攻撃の準備をする。
 最初の氷柱はハンサムに命中した。

 (刺さっ⋯⋯え?)

 氷柱は砕けた。
 破壊されたのか。防御されたのか。
 答えは単純。無抵抗だ。

 「この程度か。弱い。弱過ぎる」

 「嘘、でしょ。⋯⋯ワタクシの魔法はコロガルアルマジロの甲羅ですら貫通するのよ!」

 「弱小の魔獣を倒せる強さと言うだけで他よりも自分が優れていると思っていたのか?」

 ハンサムは一瞬で距離をゼロにした。

 (嘘! ちゃんと見てたのに⋯⋯分からなかった)

 ハンサムの手加減パンチがルーの腹を襲った。
 氷の魔法で盾を作るが間に合わない。
 念動力も収束力も足りない。

 元となるマナが集まらなければ魔法力があろうと意味は無い。
 防御が間に合わず、強い衝撃と痛みが腹部に広がる。

 「がはっ」

 「おっと」

 逆流した唾液を吐き出しながら宙を滑る。
 ドンっと地面に強く当たり、数回転がる。

 「ゴホゴホ」

 視界がグワングワンと揺れて上手くハンサムを捉える事ができない。

 「ワタクシは⋯⋯負けませんわ」

 マナを集める事が上手くできない。意識がハッキリしないから冷静になれない。
 マナの制御には思考力が必要となる。

 「終わりのようだな」

 ハンサムはルーに向かってマチェットナイフを振りかぶる。

 「シャー!」

 「む?」

 葉っぱが背中に生えた犬が現れた。
 威嚇によりハンサムの意識が一瞬そちらに向かう。

 「爆発ドーン!」

 「おっと」

 ハンサムを狙って爆撃魔法が上空より落ちて来て、瞬時に回避した。
 ルーを護るように立つ少女の背中を、クリアになって来た視界で収めた。

 炎のように紅く、希望のように輝かしい光を纏う少女。
 初めて会うのに、少女の背中からは安心感が感じられた。

 「たす⋯⋯けて」

 だからだろう。
 プライドも全て捨てて助けを求めた。

 「勿論です。私が護ります。それが私、魔法少女ジャベリンの使命だから!」

 「まほう⋯⋯しょーじょ?」

 「クハハ。現れたな魔法少女! 今日こそが貴様の命日だ!」

 ハンサムが本気で地面を蹴り、ジャベリンに接近する。

 「切断!」

 「お断りよ!」

 数年前にアップデートされたステッキの新機能『伸縮』を利用して長い杖にする。
 マナを杖に纏わせて耐久力を上げ、マチェットナイフを防ぐ。

 衝突時に発生する風圧で手加減されたパンチだったと自覚する。

 (ワタクシ相手に⋯⋯どれほど手加減していたと言うの⋯⋯それに、あの馬鹿力に耐えるなんて)

 ジャベリンはマナを2つの魔法にしている。
 一つは身体強化。身体能力を常に上げている。
 もう一つが耐久強化。ステッキの耐久力を向上させている。

 「せい!」

 「おっと」

 ハンサムを弾き飛ばし、ステッキのサイズを元に戻す。

 「ヤベーゾ。女の子を狙うなんて許せない」

 「クハハ! だからどうした!」

 「私がアナタを倒します」

 「やれるモノならやってみろ!」

 互いに接近して、振り下ろされるマチェットナイフを後ろ蹴りで弾く。

 「何っ!」

 テコンドーの後ろ蹴り。
 集めれるだけマナを足に収束させる事で全身の身体強化よりもキックの威力を上げられる。
 最大限強化した一撃で相手の体勢を崩した。

 「素晴らしい技術だ」

 「セーギさんはもっと強いけどね」

 ステッキの先端をハンサムに押し付ける。

 「必殺【チャック・ダン】小規模バージョン」

 「ぐああああああ!」

 爆炎に包まれたハンサムは身を焦がし、姿を消した。
 くるりと回転して、倒れているルーに手を伸ばす。
 太陽のように眩しい笑顔と共に。

 「大丈夫?」

 「す、凄い」

 「え?」

 「わ、ワタクシの魔法でも傷一つ付かなかったのに」

 「ありがとう。ちっさい頃から訓練してるからね」

 「そ、それならワタクシもそうですよ」

 素直に伸ばされた手を取って、立ち上がる。
 ルーは勇気を振り絞り、ジャベリンに質問する。

 「貴女みたいに、ワタクシも強くなれるでしょうか?」

 「なれるよ。絶対に」

 「⋯⋯ッ! はい! ありがとうございます!」

 「じゃあね。私はコレで!」

 ジャベリンは足裏を爆破させて大ジャンプを駆使して姿を消した。
 手に残る温もりと高鳴り落ち着きのない心臓を感じながら、帰路に着いた。

 (魔法少女)

 その言葉が頭から離れない。
 自分を護ってくれた強く頼もしい背中が忘れられない。

 家に着く。
 ドアを開けた瞬間に感じるのは男女が交わった時に発生する鼻を摘みたくなる悪臭。
 部屋は体液と道具、惣菜のゴミなので常に散らかっている。

 その、はずだった。

 「え?」

 ドアを開けた瞬間に感じたのは芳醇なバラの香り、部屋は新品のように綺麗だった。
 毎日母親が男を連れて汚すため掃除を諦めた部屋がピカピカだったのだ。

 驚きのあまり立ち尽くす。

 「勝手ながら掃除させて貰った」

 「誰ッ!」

 部屋の正面には見た事のない高級そうな木製の机と椅子が置かれ、紅茶を嗜む純白のオーバーコートに身を包んだ男がいた。

 「我が名はセーギ。魔法少女を集め悪の組織ヤベーゾと死闘を繰り広げている、スゲーゾの創設者であり魔法少女の指導者だ」

 「魔法少女!」

 その言葉は胸を高鳴らせる。

 「ルーよ」

 「ワタクシの名前⋯⋯」

 「魔法少女になる気は無いか? 弱きを護り強きを挫く正義のヒロイン。他者を護る志が己を更なる高みへと押し上げる。コレは任意だ。受け取るも、受け取らぬも君次第」

 「教えてください。スゲーゾ、ヤベーゾ。アナタ達は何なのですか?」

 「世界の真実を知る時、帰還の扉は閉ざされる」

 真実を知れば戻る選択肢は無い。
 つまり、今この場で魔法少女としての道を決めれば知れると言う事だ。

 数年前から頭角を現した両組織。
 片方には命を狙われ、片方には護られた。

 セーギが差し出した先端が氷マークのステッキ。
 受け取り魔法少女となり真実を知るか、受け取らずに何も知らずに生きるか。

 「何も知らずに学園生活を送り、平和と言う幻に囚われ生き続けるか。真実を知り理不尽の現実に抗う道を選ぶか。選択権は君にある」

 「ワタクシは⋯⋯」

 ルーの母親は毎日顔の違う男を連れて来る。
 父親は他の女の家で寝泊まりしている。
 現状維持を続けるか。

 魔法少女として世界の真実を知り、新たな茨の道を進むか。
 誰かを護る強い意志はルーには無い。
 しかし、強くなりたい意志は強かった。

 「なります。ワタクシは、魔法少女に!」

 「その覚悟しかと受け入れた。先輩との顔合わせだ。明日、この場所に指定した時間に来るが良い。その時、魔法少女としての使命を授ける」

 「うっ」

 窓が閉まっていると言うのに突風が室内に起こり、顔を腕で隠した。
 収まった時にはセーギの姿は在らず、残ったのは1枚の紙だった。
 住所と指定した時間。

 「魔法少女。ワタクシが⋯⋯あの人のように⋯⋯」

 どんなにカッコイイ人なのだろうかと、想像しながら今日を終える。

 翌日、助けてくれた人と思われる少女と顔を見合わせた。
 そして絶句する。

 「あ。昨日の子だ。昨日は大丈夫だった?」

 「同じ制服⋯⋯それどころか⋯⋯クラスメイトッ!」

 「そうだよ! 覚えてくれたの! 嬉しい! 私はアナ。よろしくねルーちゃん」

 「そんな⋯⋯嘘」

 自分とは正反対で苦手のタイプであるアナが、憧れを抱いていた魔法少女の正体だった。
 憧れとは⋯⋯まやかしである
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

お疲れエルフの家出からはじまる癒されライフ

アキナヌカ
ファンタジー
僕はクアリタ・グランフォレという250歳ほどの若いエルフだ、僕の養い子であるハーフエルフのソアンが150歳になって成人したら、彼女は突然私と一緒に家出しようと言ってきた!!さぁ、これはお疲れエルフの家出からはじまる癒されライフ??かもしれない。 村で仕事に埋もれて疲れ切ったエルフが、養い子のハーフエルフの誘いにのって思い切って家出するお話です。家出をする彼の前には一体、何が待ち受けているのでしょうか。 いろいろと疲れた貴方に、いっぱい休んで癒されることは、決して悪いことではないはずなのです この作品はカクヨム、小説家になろう、pixiv、エブリスタにも投稿しています。 不定期投稿ですが、なるべく毎日投稿を目指しています。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...