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第29話平凡兄は妹を問い詰める

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「そう。結構深刻ね」

 1日で調べあげ、まとめた資料を麻美から受け取り確認している雪姫。
 その内容が典型的であり、何よりもそれを可能にしている地位に桜井財閥が関わっている事だった。
 いや、正確には桜井財閥の名前を勝手に使っているが正しい。

 桜井財閥もこれでは面目丸つぶれも良いところだ。
 雪姫は成る可く自分の内で解決したいと思っていた。
 だが、こうなっては頼る他に方法は存在しない。

(だけど)

 めっちゃ頼りたくない。頼りにしたくない。出来れば自分の内で解決したい。
 そして拓海にお礼を言われたい。
 雪姫の中はそれに充満されていた。
 しかし、そんな事は不可能であり、一刻も早く解決したいので、仕方ない。

「桜井凛桜を呼んでちょうだい」

「はーい!」

「なっ!」

「残念聞いてました」

 昨日たまたま凛桜と麻美がすれ違い、麻美は無意識に雪姫との会話を思い出した。
 凛桜は拓海と出会ってから前を向くようになった。
 そして、瞳に秘めた何かを見た凛桜は麻美をストー⋯⋯監視していたのだ。

「任せて貰いましょう! 家の名が下がるような馬鹿は粛正待ったナシよ! じゃ」

 それだけ言って凛桜は自分の部屋に戻って、電話を掛けた。
 自分の父親に向けて。
 部屋を出る前に資料を借りて何処かはきちんと把握している。

「──て事で、頼める?」

『分かった。まさかそんな事に成っているとは。もっと警戒が必要だな』

 大きいところ程敵は多い。少しでも突く場所があれば奥まで突いて来るだろう。
 早速対処に入る。

「ま、今回はこっちの汚点を見つけてくれた事に感謝して、この後は干渉しないようにしましょうかね」

 汚点にはしっかりとケジメを取って貰う。

 ◇

 翌日の中学では愛海をいじめていた女達は居なくなった。
 ボス格の女は何処かの孤児院に預けられたようだが、その詳細はここの人達は誰も知らない。
 そして、これを黙認していた担任含め関係者全員が退職となった。
 一気に教師陣営が様変わりした事に驚く生徒は、愛海のクラス以外だった。

 これにより愛海は恐怖の対象となった。
 愛海と関わったら自分もこうなる。家族も大変になる。
 そんな的外れな事が皆の中に出来上がったのだ。

 愛海は帰宅後、ベットに寝転ぶ。
 その顔は笑顔だった。
 これで、兄が買ってくれた物が壊れる心配が無くなったのだ。
 愛海にとってそれはとても嬉しい物だった。
 ニツキが愛海に話掛けてはいたが、愛海は適当にあしらった。
 もう、愛海の邪魔をする奴はいない。
 久しぶりに兄妹が居ない時に感情が出て来る愛海。条件付きでしか開かなかった愛海の感情の扉が開いている。

 数時間後に拓海達も帰った。
 拓海は愛海の部屋のドアをノックし、返事が来てから中に入る。

「どうしたのお兄ちゃん」

 兄が近くに居るとどんな事があっても心の底から嬉しい愛海。
 そんな愛海の胸の高まりを一瞬で消す一言を拓海は放つ。

「なんで、隠してた」

「え」

「学校の事」

「⋯⋯」

 笑顔が一瞬で消えた。
 今までの嘘が、積み重ねて来た嘘と信用が、根元からガラガラと崩れて行く。
 愛海は1歩、また1歩と下がって行く。

「雪姫、さんから、聞いたの」

 愛海は賢い子だ。
 こんな時期に転校生が来る事も珍しいのに、さらに同時に2人なんて本来有り得ないだろう。
 他のクラスとのバランスが取れない。
 だからこそ、何となく分かっていた。
 天月にバレた次の日に転校生なんて、都合良すぎるってもんだ。
 自己紹介もしてないのに自分の名前を呼んでくるニツキ。
 ある程度の予想はしていた。

「入るよ」

「いや」

「ダメだ。1から全部話して貰うぞ」

 愛海を無理矢理ベットに座らせて、その隣に拓海が座る。
 拓海は自分が兄として不甲斐ないと感じる。
 兄として、しっかりと愛海の事を見てやればもっと速く対象出来たかもしれない。
 実際そんな事はない。
 もしもそんな運命のレールがあると言うのなら、拓海がこの場所に居る事自体難しい。

 愛海は自分がもっと天月を強く説得しておけば良かったと後悔する。
 互いに的を大きく外した後悔と無念の中、会話は続く。

「どうして、話さなかった」

「な、にを? もしかして、授業参観? お兄ちゃん、バイトで忙しいから、いつも出さなかっただけだよ? それに、3年に成ってからまだ始まってないし! それに、高校と被っちゃうしね」

「違う」

「あ、あれかな? 受験の事? 大丈夫! 授業も予習復習して、テスト対策も並行して⋯⋯」

「違う」

「⋯⋯あ、修学旅行? 大丈夫。中一の頃と同じようにする必要ないよ? 行く必要ないよ? お兄ちゃんその時すっごく頑張ってくれたしね。楽しかったし、もう良いんだよ」

「違う」

「⋯⋯⋯⋯あ、もしかして⋯⋯」

「いい加減にしろ。分かってんだろ」

「⋯⋯ごめん、なさい」

「なんで黙ってた」

「お兄ちゃんや海華に迷惑掛けたくなくて」

「こんなの言われて迷惑なんて思うか! たった3人の家族だろ!」

「掛かるよ! もしもあの子の両親に反抗したらバイトだって難しくなるかもだったんだよ! そしたら、今後の生活も大変だし。中卒なんて今時正式雇用も難しい。だから高校には行って欲しい。そんな中、お兄ちゃんは2人分の学費を必死に稼いで、3人分の生活費を必死に稼いでくれていた! そんなお兄ちゃんに無駄な重みを背負わせたく無かったんだよ!」

「それが違う! それで愛海が背負っていたら、意味がないんだよ。俺はお前達の事が1番大切だ。何時も言ってんだろ。困っている時、大変な時、なんでも相談しろって。俺が解決するからって」

「無理だよ。今は雪姫さん達が居るけど、昔のお兄ちゃんには無理だよ。一般の高校生があの子達に逆らってはダメなんだよ」

「そんな事⋯⋯」

「あるんだよ! 中一の時、私に優しくしてくれた人が居た! そのせいで同じターゲットに成って、慣れて無かったその子は不登校になった! その子は数日後には引っ越したんだよ。桜井財閥の手が届かない遠方に!」

「⋯⋯」

「確かにお兄ちゃんにとって私が辛いのは嫌なのかもしれないけど、だけど! それで私さえ我慢していたらお兄ちゃんと海華も救われるし⋯⋯」

「勘違いすんなよ」

「え」

「愛海、お前は母さんの背中を見て、そんな考えに成っているのかもしれない。だけど、自分が犠牲になれば他の人が助かるなんて事はねぇんだよ! 大切な人が犠牲に成っていたら救われても笑えねぇよ! 愛海はそれで俺達が助かるとか思ってんならそんな考え海に捨てちまえ! 俺は、愛海の事知った気に成って何も知らなかった! 兄として反省すべき事、恥ずるべき事だ! だから愛海、これからもっと色々ときちんと教えて欲しい」

 一拍置いて、拓海は言った。

「じゃないと、俺は笑われ者になっちゃうよ」

 その後、2人は本音で話し合う事と成った。
 徐々に心に鎖を付けていた愛海の心が解放されて行く。
 鎖が1つ、また1つと消える度に溢れ出て来る感情がある。
 今まで流さなかった涙。今まで言わなかった泣き言。
 その全てを兄にぶつけた。

 愛海は妹であり母ではない。
 全てを抱え込むのは上のやる事だ。
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