上 下
17 / 40

第7話深追い 1 北東はどっちだ!

しおりを挟む
 ビルは、鞭をふるい、軽快に馬車を走らせていた。その隣に忠司がすわり、後ろの荷台に、花音がすわった。
 花音の後ろには、水の入った樽が積まれ、ベーコンや燻製にされたソーセジ、それにチーズは木箱に入れておかれている。またフライパン、包丁などの調理器具も積まれている。さらに、フランスパンが20本近く、袋に入れてつまれていた。フランスパンは表面が固くなって、日持ちが良いパンだ。
 積まれている品々はハルカ村の店々をビルが走り回って買ってくれたものだ。もちろん、お金は村長が全部出してくれている。本当にありがたいことだった。
 手持ちぶたさのせいか。小腹がすいたせいか。花音は、フランスパンを一つ袋から出して食べ出ていた。
「食べ物は大切しないといけない。だから。食べるのは半分にしとけよ」と、忠司は声を荒げた。
「王子様も、食べたいだけでしょう。はい」と言って、花音はフランスパンを半分にちぎり、忠司の方に投げてよこした。
「しょうがないな」
 忠司は受け取ったフランスパンを手にしたが、まず「ビル、たべるかい?」と聞いてみた。
「いえ、そんな暇はありません」と、ビルは怒ったように言っている。無理はない。ビルは、少しでも早く、第三駐屯地につこうと、馬を走らせていたからだ。
 しかたなく、忠司は手にしたフランスパンにかじりついた。歯ごたえがありすぎる。だが、何べんもかんでいると、口の中にフランスパン特有のうまみが口の中に広がってくる。

 俺には、分かっている。未知の世界にきて、次から次へと現れる獣人を前にして、恐怖を感じないわけがない。本当は怖いのだ。だが、物を食べていると、なぜか落ち着いてくる。それは食べ物が俺のエネルギーや血肉になってくれるからかもしれない。
 なんとか、フランスパンを食べ終えたころだ。やがて、周りから木々がなくなり、草地になった。その草も短かくなり、平原と化していた。
「本当に、獣人がいる場所なんてあるのかい?」
「王子、やってきましたよ」と、ビルが忠司に声をかけた。たしかに、遠くで砂ほこりが立っている。ビルは遠眼が利く。
 砂埃がだんだんと大きくなり、こちらに近づいてくるのが忠司にも分かるようになった。
「馬の群れだな。野生の馬かな?」
「いや、王子違いますよ。敵です」
「敵?」
 たしかに群れは、馬だった。だが、普通の馬ではなかった。体は馬なのに、顔だけは人の者がいる。反対に体は人なのに、貌だけが馬の者。さらに、普通の馬なのに、人間の両手が付いている者、人間の姿をしているのにその後ろに馬の体が付いている者だっている。
 それらの馬たちが、大声を上げて、こちらに向かってくる。そして、馬の獣人たちは手に剣や槍を持っていたのだ。
 
「俺が、ここで、こいつらを、やつけてやるよ。その間、ビルは馬車を走らせて、少しの間、逃げ回ってくれ」と言って、忠司は馬車から飛び降りた。ビルは鞭を激しく振って馬を走らせ、忠司から離れていった。
 オリハルコンの剣をかまえている忠司に馬の化け物たちは近づいてくる。彼らは、忠司に向かって持っている槍をつきだし、剣を振り下ろしてくるのだ。忠司は、それらを受けて青竜刀と化していた剣を振っていたが重すぎる。化け物の馬たちは、奇声をあげながら、忠司の周りをグルグルと回り出していた。忠司のスキをみて、少しづつ傷をつけて、倒そうと考えているのだ。
 剣よ。もっと軽くなってほしい。と、忠司は思った。すると、オリハルコンの剣から、声が聞こえてきたのだ。
 それでは、切れもよくした斬馬(ざんばけん)に変えましょう。
 やはり、オリハルコンは只者ではない。 
 すぐにオリハルコンの剣は軽くなり、薄い剣になっていた。忠司はまるで踊るように体を回転させながら、剣を振った。剣に触れた馬たちの首は切られ、馬たちの体から離れていく。まるで、馬たちの首は、ばらまれた花のように忠司の周りに散らばっていた。
 怪馬たちは数頭になると、逃げだそうとしだした。
「逃がすか!」
 忠司は、生き残っていた怪馬の一頭に飛びついた。その怪馬は、人の上体が馬の背についている。馬の背にのると、背後から首を絞め、首に剣をつきつけた。
「俺をのせて、逃げた奴らの後をおえ」
「わかった。わかった」
 怪馬の首に忠司は剣をつきつけ続けている。
「さあ、走れ」
 忠司がいうと、怪馬は走り出した。すごい早さだ。勢いで忠司を振り落とそうと思っているからだ。
 いままでやったことのない裸馬にのることなど、俺にできるわけがない。本来ならば俺は落ちていたと思う。だが、筋力が増強している。そのおかげで、馬に乗り続けていられる。これは守護神ヘラが俺を守ってくれているからだ。
 やがて、遠くにいくつも並ぶテント小屋が見えてきた。それは、モンゴル遊牧民が作って暮らしているゲルに似ていた。テント小屋を前に、忠司たちがのってきた馬車がとまっていた。どうやら、逃げるつもりが追われて、ビルは馬車を第三駐屯地に向かって走らせてしまったのだ。
 その馬車の上に立ってビルが斧をふり、馬車から少し離れた場所で花音が二刀の剣を振ってたくさんの怪馬たちを相手に戦っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

処理中です...