上 下
28 / 42

28泉池公園の攻守

しおりを挟む
 次の日、シルビアたちは再び泉池公園にいき、改めて紫石花を見ていた。警護兵士たちに隙があれば、池に入り込み、紫石花を奪い盗ってやろうと考えていたからだ。盗った紫石花を入れるために、ロダンは木製のコップに水をたっぷりと含ませた土を入れて腰にさげていた。さらに、逃げ出した時に誰が盗ったか分らないようにするために、マスクで顔を隠し、頭巾をかぶっていたのだった。

 警護兵士たちは五時間ごとに交代をして、警護を続けていた。少しの間も、隙を作ろうとはしない。そして、少し前に、警護兵士の交代が終ったばかりの時だった。 
 鎧で身を固めたシーザーが現れたのだ。腰に竹あみの籠をつけていた。採った紫石花をその中に入れようと考えているのだ。シーザーの目は紫石花にむけられ、シルビアが近くにいることなど気づきもしない。
 池の周囲をかこっていた大理石の枠をシーザーがのり越えようとすると、すぐに女像像の彫刻がのった台座から警護兵士たち二人が現れたのだ。警護兵士たちも池の中に入り剣をふって、シーザーを池から追い出し始めた。だが、シーザーはそれで引き下がったりしない。剣を何度も激しくふると、ついに警護兵士二人を切り倒していた。警護兵士たちは池の中に落ちていき、水を真っ赤に染めていた。池の周りにいた人たちは叫び声をあげて逃げ出していった。
 すると、台座から新たな警護兵士が現れたのだ。シーザーよりは頭一つ背が高い男だった。男は、大剣を握っていた。
「そう言えば、王の所に紫石花を欲しいと言ってきた男がいたそうだな。それはあんたか!」と、大男は声をはりあげていた。
「だから、どうしたというんだ」
 シーザーも負けないほどの大声をあげた。
「まずは、俺をたおすことができなければ、紫石花に触れることはできんぞ」
 そう言って大男は大剣をシーザーにむかってふりおろしてきた。シーザーは剣を持つ両手に力をいれて、その剣を受けとめた。だが、シーザーは、はじきとばされ、池の外に押し出されていった。さらに大男は大剣をふりおろしてくる。何度も受けているうちに、シーザーの両腕はしびれ出していった。ついに、大剣はシーザーの剣をはじき飛ばし、シーザーの右肩に傷をつけていた。もはや、右腕が動かない。このままでは、倒されてしまう。そう思ったシルビアはシーザーを助けにでていこうとした。だがロダンはシルビアの手をつかみ、身体を抱いて押さえたのだ。
 魔法の使えないシルビアがでていっても、シーザーを助けることができないことをロダンは見抜いていたからだ。必死にロダンがシルビアを押さえている間に、大剣はシーザーの脇腹を切りさき、シーザーはただの丸太とかしたように大地に倒れていった。
「こらえてくだされ。こらえて」
 ロダンは低くかすれた声を出していた。シルビアは怒りで体を震わし続けた。

 やがて、この国の下働きの者二人が棺桶の木箱をラクダがひく荷車にのせて運んできた。彼らはシーザーを箱の中に入れると蓋をして再び荷車にのせ、ラクダにひかせて来た道を戻っていった。
「シーザーを助けてあげることができなかったわ」
 そう言ったシルビアは、シーザーが持ってきた竹籠が落ちていたのを拾いあげていた。それがまるで形見であるかのように。
「そうですな。悲しいことですが、弔いだけは私たちがしてあげなければなりません」
 もう一度自国に戻り、多くの兵を連れてくるしかないとシルビアは思った。だが、ここではシルビアは魔法を使うことができない。普通の兵士同志の争いになることを考えるとダランガ国が必ず勝てるとは言えなかった。

 二人がホテルに戻ると、オラタル国の警護兵士たちがやってきて、シーザーが使った部屋に残っていた物をすべて持っていくのを見ることになった。
 少なくともシーザーが埋葬をされたならば、シルビアは一番先に手をあわせたいと思っていた。そこで、シルビアは埋葬にたずさわっていた下働きの者たちをロダンにさがさせた。夕刻に彼らが居酒屋にいるのを見つけると、ロダンはシルビアに知らせ、二人でそこにのり込んだ。彼らにどんどんと酒をおごって飲ませ、シーザーはいつどこに埋葬されたのか、聞き出そうとした。すると、下働きたちは笑っていた。
「埋葬なんか、していないよ」
「えっ、あなたがたは、棺桶にいれて遺体を運んでいたでしょう?」
「そうだよ。遺体を運んで行った先は、墓地じゃない」
「じゃ、どこなのですか?」
「王宮だよ。そこに王さまたち専用の食材置き場ある」
「えっ、それはどういうこと?」
「あんたらは、勘違いをしているんだ」
「なにを勘違いしているというの?」
「紫石花を他国に出させないのは、そうするとそれを盗みに来る者がやってくるからだよ。盗人ならば、殺してもかまわないし、誰も同情をかけたりしないでしょう。だから、外に持ち出させないようにしているのですよ」
「どうして、そんなことするの? よく分らないわ」
「王さまたちは、人を食べるグール、食人鬼なんだよ。国民を食べると、それがばれてしまう。それが分からないようにするためには、外から来る者を盗人にして、彼らを殺して、それを食べているんだよ。だから、墓地に盗人を埋めることはないのさ」
 シルビアは震え出していた。隣で話を聞いていたロダンは怒りで赤い顔をしていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

ゆったりおじさんの魔導具作り~召喚に巻き込んどいて王国を救え? 勇者に言えよ!~

ぬこまる
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界の食堂と道具屋で働くおじさん・ヤマザキは、武装したお姫様ハニィとともに、腐敗する王国の統治をすることとなる。 ゆったり魔導具作り! 悪者をざまぁ!! 可愛い女の子たちとのラブコメ♡ でおくる痛快感動ファンタジー爆誕!! ※表紙・挿絵の画像はAI生成ツールを使用して作成したものです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

処理中です...