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大学生になった私は、二年目に入っていた。
その日の午後。ショルダーバッグの紐がきれたので、新しいのを買うために中心街のデパートに出かけていった。
道路を歩いていた時に弘子と出会ってしまった。二人連れだった。思わず、私は弘子が腕を組んでいる男の顔を見た。しかし、隼斗ではなかった。少しの間、弘子の方を見たが、すぐに視線をはずした。彼女にかかわっていたいとは思わなかったからだ。それにバッグを買った後、書きあげた法学概論のレポートを提出しに、大学に行かなければならない。無視をしたように歩き出した私に弘子は面白くなかったらしい。男に「ちょっと待っててね」と言ってから、私の背に声をかけてきた。
「葉月、待ってよ。ちょっと、待ちなさいよ!」
私はしかたなく立ち止まり振り返った。弘子が近づいてくる。
「隼斗と付き合うの、もう止めたのよ」
隼斗と歩いていないのを見れば、それは分かることだ。弘子に真正面から見つめられた私は、どうしてこうなったのか聞きたくなった。
「なぜ、隼斗と別れなければならないの?」
「隼斗の家でやっていた会社が倒産したからよ。やっぱり、お金のなくなった人と付き合っては、いられないわ。それでなくても、片足なのよ」
何も知らない私は黙るしかない。
「つまりね。隼斗はもう私の王子さまじゃなくなったということ。そういうことよ」
弘子は言いたいだけ言うと、立たせた男のところに戻っていき、すぐに腕を組み歩き出していった。二人の背を見ながら、私は不安になりだしていた。弘子が乗り換えをするほど、隼斗に危機が起きている。どうなっているのか?、確かめなければならない。
私は大学に行くと、同じ文学部にいる由美を探した。この時間ならば、学生会館のロビーにいるはずだ。
思ったとおり、同じ部の女の子たちと丸いテーブルを囲んでいた。近づいて行く私を見つけると、手をあげてきた。私は由美の前にたった。
「経済概論はレポートを出すだけでいいそうよ」と、由美は私に大事な情報を教えてくれた。
「本当、よかった。試験を受けるよりはいいわね」
そう言いながら、私は開いている椅子の一つにすわった。察しのいい仲間たちはお互いに顔を見あわせると、立ちあがっていた。
「じゃ、英語のリスニングを受けてくるわ」
さっていく女子学生たちの方をみやってから、私は由美の方に顔を向けた。
「由美は、同北大学へ顔を出していたよね」
「あそこの男子は不知女子大学とよく合コンしてくれるからね。向こうの大学祭に顔を出したこともあるわよ」
「じゃ、理学部に入った隼斗がどうなったのか、知っている?」
「三宮隼斗ね。大学やめてしまったわよ」
「えっ」
「だって、隼斗のお父さんがやっている会社、倒産したそうじゃないの」
隼斗の父親は外国から雑貨類を輸入して国内販売をしている会社ムンクを経営していた。由美の話では、その会社が不渡りを出してしまったのだそうだ。
「お父さんに変わって、借金を待ってくれるように、あっちこっち隼斗は頭をさげてまわったそうよ」
「そんなこと、やっていたの!」
「借金を減らすために、今まで住んでいた家も売り払い、南区にあるアパートに住んでいるそうよ」
「アパートの住所はわかる?」
「葉月、ごめん。そこまでは分からないわ」
「どうしたら、隼斗に会えるのかしら?」
「隼斗のこと、今でも気にかけているんだ」
私は思わず頷いていた。そして、由美も私と同じ高校だったことに気がついた。
「そうそう、英文科の真知子が隼斗を都通りでみかけたと言っていたわよ。あの通りの中にある店で働いているんじゃない」
「そうなの?」
「行ってみるつもりでしょう?」
由美は私の顔を覗いている。そう、私の気持ちを読み取ろうとしていたのだ。私は笑ってしまった。きっと、誰かに私のことを話すに違いなかったからだ。
その日の午後。ショルダーバッグの紐がきれたので、新しいのを買うために中心街のデパートに出かけていった。
道路を歩いていた時に弘子と出会ってしまった。二人連れだった。思わず、私は弘子が腕を組んでいる男の顔を見た。しかし、隼斗ではなかった。少しの間、弘子の方を見たが、すぐに視線をはずした。彼女にかかわっていたいとは思わなかったからだ。それにバッグを買った後、書きあげた法学概論のレポートを提出しに、大学に行かなければならない。無視をしたように歩き出した私に弘子は面白くなかったらしい。男に「ちょっと待っててね」と言ってから、私の背に声をかけてきた。
「葉月、待ってよ。ちょっと、待ちなさいよ!」
私はしかたなく立ち止まり振り返った。弘子が近づいてくる。
「隼斗と付き合うの、もう止めたのよ」
隼斗と歩いていないのを見れば、それは分かることだ。弘子に真正面から見つめられた私は、どうしてこうなったのか聞きたくなった。
「なぜ、隼斗と別れなければならないの?」
「隼斗の家でやっていた会社が倒産したからよ。やっぱり、お金のなくなった人と付き合っては、いられないわ。それでなくても、片足なのよ」
何も知らない私は黙るしかない。
「つまりね。隼斗はもう私の王子さまじゃなくなったということ。そういうことよ」
弘子は言いたいだけ言うと、立たせた男のところに戻っていき、すぐに腕を組み歩き出していった。二人の背を見ながら、私は不安になりだしていた。弘子が乗り換えをするほど、隼斗に危機が起きている。どうなっているのか?、確かめなければならない。
私は大学に行くと、同じ文学部にいる由美を探した。この時間ならば、学生会館のロビーにいるはずだ。
思ったとおり、同じ部の女の子たちと丸いテーブルを囲んでいた。近づいて行く私を見つけると、手をあげてきた。私は由美の前にたった。
「経済概論はレポートを出すだけでいいそうよ」と、由美は私に大事な情報を教えてくれた。
「本当、よかった。試験を受けるよりはいいわね」
そう言いながら、私は開いている椅子の一つにすわった。察しのいい仲間たちはお互いに顔を見あわせると、立ちあがっていた。
「じゃ、英語のリスニングを受けてくるわ」
さっていく女子学生たちの方をみやってから、私は由美の方に顔を向けた。
「由美は、同北大学へ顔を出していたよね」
「あそこの男子は不知女子大学とよく合コンしてくれるからね。向こうの大学祭に顔を出したこともあるわよ」
「じゃ、理学部に入った隼斗がどうなったのか、知っている?」
「三宮隼斗ね。大学やめてしまったわよ」
「えっ」
「だって、隼斗のお父さんがやっている会社、倒産したそうじゃないの」
隼斗の父親は外国から雑貨類を輸入して国内販売をしている会社ムンクを経営していた。由美の話では、その会社が不渡りを出してしまったのだそうだ。
「お父さんに変わって、借金を待ってくれるように、あっちこっち隼斗は頭をさげてまわったそうよ」
「そんなこと、やっていたの!」
「借金を減らすために、今まで住んでいた家も売り払い、南区にあるアパートに住んでいるそうよ」
「アパートの住所はわかる?」
「葉月、ごめん。そこまでは分からないわ」
「どうしたら、隼斗に会えるのかしら?」
「隼斗のこと、今でも気にかけているんだ」
私は思わず頷いていた。そして、由美も私と同じ高校だったことに気がついた。
「そうそう、英文科の真知子が隼斗を都通りでみかけたと言っていたわよ。あの通りの中にある店で働いているんじゃない」
「そうなの?」
「行ってみるつもりでしょう?」
由美は私の顔を覗いている。そう、私の気持ちを読み取ろうとしていたのだ。私は笑ってしまった。きっと、誰かに私のことを話すに違いなかったからだ。
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