黒き回廊

矢野 零時

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 T市へは山田課長と一緒に高橋は戻ってきた。山田課長が連絡をすると、小林部長が一席設けてくれた。高級料亭で土地購入契約成功の祝盃をあげてくれた。その場で、小林部長は、計画課課長補佐への昇進の確約をしてくれたのだった。久しぶりいい気分で酒を飲み、高橋は家に帰った。
 高橋が家に近づいていくと家の前で誰かが立っていた。それは綾乃だった。こんな時間に外に出てきているなんて、前に話を聞いていたストーカーにでも遭遇したのだろうか?
「どうした?」
「あなた!」
 妻は強張った顔を高橋の方に向けた。口をもごもごさせていた。言葉を探し出そうとしているようであった。
「何かあったのかい?」
「麻理恵がいなくなってしまったんです」
「今日も、幼稚園は行ったんだろう?」
「帰ってきたら、すぐに家を出ていってしまったんですよ」
「いつも、幼稚園から帰ってきたら、おやつを食べて、テレビマンガのあつ子ちゃんを見ているんじゃなかったのかい?」
 高橋が言っていることは、前に妻から聞かされていた娘の生活だった。
「外にいるとしても、そんなに遠くに行っているわけがない。捜してみるしかないだろう?」
「はい」
「まずいつも遊んでいる小公園の方に行ってみよう」
 二人で、小公園に行ってみた。
 小公園には砂場にブランコ、滑り台があるだけの小さな公園だった。水銀灯が一本立てられていて、淡い光で公園全体を照らしていた。高橋は、何度も砂場の方に顔を向けていた。砂場で遊ぶことが好きで、いつもそこにかがんだ麻理恵がいたからだ。滑り台の登り口に行き声をあげた。
「麻理恵、麻理恵、お父さんだよ」
「麻理恵ちゃん、出てきてちょうだい」
 妻も声をあげていた。
 高橋は、何度も叫び喉が嗄れ出していった。
「別れて捜そう、私はコンビニの前にいってみる。綾乃は、住宅街の方を見て歩いてくれ」
 妻は頷くと小走りで住宅街に向かって走り出していった。
 コンビニは繁華街に続く商店が並んでいる所にある。コンビニの前から通りが明るくなっていた。高橋は、コンビニの駐車場になっているところを見まわした。車が三台止まっていた。車の周りをまわり、かがんで下をのぞいてみた。やはり麻理恵はいなかった。店の中に入る。
 この遅い時間にかかわらず人がいた。老夫婦が店で用意されているカゴを手に買い物をしていた。若者がブックスタンドの前に立ち、並んでいるマンガ雑誌を手にとって読んでいる。店員に小さな女の子が見かけなかったどうか、聞いてみた。首を横に振られるだけだった。それでも娘がどこかに隠れている気がして、高橋は七回も店の中を見てまわった。しかし、店の中に麻理恵を見つけることができなかった。外に出ると繁華街に向かって歩いてみた。足が痛くなり出す。こんな距離まで歩いてくるわけがない。
 もしかしたら、妻の方が見つけているかもしれない。そう思った高橋は、くるりと向きを変え、戻ることにした。小公園までくると妻が水銀灯の下でただずんでいた。
「麻理恵はいたのか?」
 妻は首を横に振っている。
「もしかしたら、帰っているかもしれないわ」
「そうだな。馬鹿な子じゃない。頭も普通の子よりいい」
 俊治がそう言うと、綾乃の顔がゆがんでいた。
 並んで歩き、やがて家の玄関ポーチまでやってきた。玄関ドアを俊治が押すと、ドアは開いた。鍵をかけずに家を出てきていたので開いただけだった。だが、もしかしたら・・・。高橋は娘の名前を呼びながら、靴を脱ぎ捨てると飛び込んでいった。そして、部屋の中を見てまわった。遅れて家の中に入ってきた妻は悲しげにそんな高橋を見つめていた。くずれるようにソファの上に高橋は腰を下ろした。疲れた体が悲鳴をあげている。もっと休んでいたかったが、もはや他に手は思いつかない。
「警察に届けてくるよ」
 再び高橋は意を込めてソファから立ち上がった。そして、家から外に出ていった。ガレージから車を出すと、それにのり、この地域にある警察署の前で車をとめ署の中に飛び込んでいった。
 署に入ると当直担当の警察官が応対にあたった。机を間に高橋はすわらせられ、まず名前をなのることから始まった。
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