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営業部の真正面の壁に大きな紙がはられ、今年度の営業社員たちの売上高が棒グラフで表示されている。そして、売上が増えた社員は、その都度、棒グラフの棒が伸びていく。中古マンションを売る業務を会社の仕事に加えることを提唱して採用された社員が売り上げをあげだし、高橋は三位までさがってしまっていた。
計画部の総務課に電話をして小林部長が部長室にいるのを確かめると、すぐに高橋は部長室に行った。秘書に会いたい旨を告げると室内にいる部長に電話をしていた。
「お会いになるそうです。どうぞ」
名前をなのりながら、高橋は部長室に入っていった。
「きみが高橋くんだったか?」
小林部長は、高橋に応接セットのソファにすわるように促し、自席の椅子から立ち上がってきて、高橋の前のソファにすわった。
「三年前になるかな。うちの女の子を助けてくれたことがあったね。ありがとう。彼女は本当に感謝していたよ」
「そうですか?誰がいても、あの場面に会えば、同じことをしたと思いますよ」
「ところで、今日はなにかね?」
小林部長にそう言われたので、すぐに高橋は赤江村にマンション団地を造ろうとする計画をぜひとも実施して欲しいと言ってみた。
「今までも、きみが計画課にいろいろアイデアを出したり、協力をしてくれていることは知っているよ。だが、その計画は知っているんだろう。多額の資金が必要になるし建設工期も長い。だから失敗はできない。それなのに、地主が土地を売ろうとしないんだよ」
「じゃ、土地の購入ができれば、この計画を進めてくれますか?」
「もし、それができるようになったら、それ専属のチームを作らなければならない。課長補佐ぐらいの役職が必要だね」
小林部長が言ったことは、土地の購入契約をとってくれば、昇任させてやるとほのめかしているようなものだった。小林部長は、ソファから立ち上がり、机の引出しからフアィルを持ち出してきて、高橋に手渡した。高橋がその中を見ると、計画案と一緒に土地の所有者の名前と住所を記載した資料が入っていた。
「これは極秘にしてもらわなければならない。難しさは、持ち主が最近死んでしまったことだよ。だが、相続をすることになった若い奴がなぜか、うちとの契約にのりきじゃない」
「わかりました。土地購入の交渉やってみます。しかし、価格はどうしますか?」
「それは、きみにまかすよ。そこに書いてある価格の倍になってもかまわないと思っているんだよ」と言って、小林部長は笑っていた。小林部長に頭をさげて、高橋は立ち上がった。
高橋は、営業課に戻るとすぐに庶務専用棚から休暇簿を持ってきた。一度自分の机を前にして、休暇簿に明日から一週間の休暇を書いた。営業課長の石島の方を何度も振り返り、石島課長が手をすいたと思えた時、高橋は自分の席から立ち上がり、石島課長の前に行き、休暇簿を差し出し決済を願い出た。
「たしかに、年休は余っているとは思うが、きみの担当のマンションで売れてない部屋が、かなりある。今、年休をとらなければならないのかね」
高橋は、思わず新しい計画のことを話したくなった。だが、小林部長に口止めされている。本当のことを明かすわけにはいかない。
「申し訳ありません。突然、私的な用事ができたものですから」
高橋が頭をさげると、いやそうな顔をしながら、石島課長は印を押していた。
珍しく午後七時前に高橋は帰宅をした。玄関ホールに腰をおろして靴をぬいでいると、妻が飛んできた。
「あなた」と言った妻の顔が青かった。
「どうした?麻理恵の具合でも悪いのか?」
妻は大きく首を横にふってから、右手に持っていたコンセントのタブを高橋に差し出した。その後ろに、麻理恵が妻の影のようについてきている。思わず、高橋は娘の顔を見てほっとしていた。
「それはなんだ?」
「あなた見て、これ盗聴器だと思うの?」
会社から空腹で帰ってきた高橋は、すぐにでも夕食をとりたかった。だが、そんなことを言い出せる気配ではない。妻の差し出した物を手にとると、すぐに階段下の部屋に行った。そこは物入れの場所にしかすぎなかったのだが、そこを書斎に作り変えていた。高橋は机の上に置かれたパソコンを開いて、盗聴器について検索し出した。
やがて、一枚の画像を映し出して手を止めた。
「これと同じだな。間違いない。盗聴器だ。しかし、うちを盗聴なんかしてどうするつもりなんだ?」
そばにきて、いっしょに画面をみつめていた妻の方に顔をあげた。
「しかし、いつ盗聴器をしかけたのだろう?」
「あたし気持ちが悪いわ」
「お前がいない時に入ってきて仕掛けたはずだ」
「あたしが家にいない時なんて、たくさんありますよ。主婦ですから。スーパーへ買い物にいったり、具合が悪くなった麻理恵を病院に連れていったり」
「でかける時には、ちゃんと鍵をかけているんだろうな」
その問いに、綾乃は答えない。おそらく、鍵をかけないで家を空けたこともあったに違いない。「あいつだわ。あいつに決まっているわ」
「あいつって、誰だ?」
「カーテンの隙間に目をやった時に見たわ。こちらの方を見ていた男よ」
「また、その話か。ともかく用心したほうがいいな。出かける時は戸締りをちゃんとして置いた方がいいぞ」
妻は頷きながら台所に戻っていった。やがて、食卓テーブルに、焼き魚に肉豆腐、ナスの漬物、シジミの味噌汁、夕食の料理が並んだ。すでに麻理恵は自分の席について待っていた。自分の席についた高橋はすぐに言った。
「明日から出張にいくことになった。一週間ぐらいは家に帰っては来れないと思う」
「どこへ出張するんですか?」
「赤江村だよ」
計画部の総務課に電話をして小林部長が部長室にいるのを確かめると、すぐに高橋は部長室に行った。秘書に会いたい旨を告げると室内にいる部長に電話をしていた。
「お会いになるそうです。どうぞ」
名前をなのりながら、高橋は部長室に入っていった。
「きみが高橋くんだったか?」
小林部長は、高橋に応接セットのソファにすわるように促し、自席の椅子から立ち上がってきて、高橋の前のソファにすわった。
「三年前になるかな。うちの女の子を助けてくれたことがあったね。ありがとう。彼女は本当に感謝していたよ」
「そうですか?誰がいても、あの場面に会えば、同じことをしたと思いますよ」
「ところで、今日はなにかね?」
小林部長にそう言われたので、すぐに高橋は赤江村にマンション団地を造ろうとする計画をぜひとも実施して欲しいと言ってみた。
「今までも、きみが計画課にいろいろアイデアを出したり、協力をしてくれていることは知っているよ。だが、その計画は知っているんだろう。多額の資金が必要になるし建設工期も長い。だから失敗はできない。それなのに、地主が土地を売ろうとしないんだよ」
「じゃ、土地の購入ができれば、この計画を進めてくれますか?」
「もし、それができるようになったら、それ専属のチームを作らなければならない。課長補佐ぐらいの役職が必要だね」
小林部長が言ったことは、土地の購入契約をとってくれば、昇任させてやるとほのめかしているようなものだった。小林部長は、ソファから立ち上がり、机の引出しからフアィルを持ち出してきて、高橋に手渡した。高橋がその中を見ると、計画案と一緒に土地の所有者の名前と住所を記載した資料が入っていた。
「これは極秘にしてもらわなければならない。難しさは、持ち主が最近死んでしまったことだよ。だが、相続をすることになった若い奴がなぜか、うちとの契約にのりきじゃない」
「わかりました。土地購入の交渉やってみます。しかし、価格はどうしますか?」
「それは、きみにまかすよ。そこに書いてある価格の倍になってもかまわないと思っているんだよ」と言って、小林部長は笑っていた。小林部長に頭をさげて、高橋は立ち上がった。
高橋は、営業課に戻るとすぐに庶務専用棚から休暇簿を持ってきた。一度自分の机を前にして、休暇簿に明日から一週間の休暇を書いた。営業課長の石島の方を何度も振り返り、石島課長が手をすいたと思えた時、高橋は自分の席から立ち上がり、石島課長の前に行き、休暇簿を差し出し決済を願い出た。
「たしかに、年休は余っているとは思うが、きみの担当のマンションで売れてない部屋が、かなりある。今、年休をとらなければならないのかね」
高橋は、思わず新しい計画のことを話したくなった。だが、小林部長に口止めされている。本当のことを明かすわけにはいかない。
「申し訳ありません。突然、私的な用事ができたものですから」
高橋が頭をさげると、いやそうな顔をしながら、石島課長は印を押していた。
珍しく午後七時前に高橋は帰宅をした。玄関ホールに腰をおろして靴をぬいでいると、妻が飛んできた。
「あなた」と言った妻の顔が青かった。
「どうした?麻理恵の具合でも悪いのか?」
妻は大きく首を横にふってから、右手に持っていたコンセントのタブを高橋に差し出した。その後ろに、麻理恵が妻の影のようについてきている。思わず、高橋は娘の顔を見てほっとしていた。
「それはなんだ?」
「あなた見て、これ盗聴器だと思うの?」
会社から空腹で帰ってきた高橋は、すぐにでも夕食をとりたかった。だが、そんなことを言い出せる気配ではない。妻の差し出した物を手にとると、すぐに階段下の部屋に行った。そこは物入れの場所にしかすぎなかったのだが、そこを書斎に作り変えていた。高橋は机の上に置かれたパソコンを開いて、盗聴器について検索し出した。
やがて、一枚の画像を映し出して手を止めた。
「これと同じだな。間違いない。盗聴器だ。しかし、うちを盗聴なんかしてどうするつもりなんだ?」
そばにきて、いっしょに画面をみつめていた妻の方に顔をあげた。
「しかし、いつ盗聴器をしかけたのだろう?」
「あたし気持ちが悪いわ」
「お前がいない時に入ってきて仕掛けたはずだ」
「あたしが家にいない時なんて、たくさんありますよ。主婦ですから。スーパーへ買い物にいったり、具合が悪くなった麻理恵を病院に連れていったり」
「でかける時には、ちゃんと鍵をかけているんだろうな」
その問いに、綾乃は答えない。おそらく、鍵をかけないで家を空けたこともあったに違いない。「あいつだわ。あいつに決まっているわ」
「あいつって、誰だ?」
「カーテンの隙間に目をやった時に見たわ。こちらの方を見ていた男よ」
「また、その話か。ともかく用心したほうがいいな。出かける時は戸締りをちゃんとして置いた方がいいぞ」
妻は頷きながら台所に戻っていった。やがて、食卓テーブルに、焼き魚に肉豆腐、ナスの漬物、シジミの味噌汁、夕食の料理が並んだ。すでに麻理恵は自分の席について待っていた。自分の席についた高橋はすぐに言った。
「明日から出張にいくことになった。一週間ぐらいは家に帰っては来れないと思う」
「どこへ出張するんですか?」
「赤江村だよ」
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