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2みんな仲よし
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マイの胸までおばあちゃんがかけ布団をひきあげると、マイはいつものようにおねだりをしてきました。
「おばあちゃん、何かお話をして」
「何がいいのかね?」
「公園で遊んでいた時、おじいさんが犬を連れてきていたの。白い毛をした犬でちょこちょこと歩いていたわ。とっても可愛かった。だから犬の話をして。でも、どうしておばあちゃんは犬を飼わないの?」
すると、おばあちゃんは、少しの間、笑っていました。
「今はね。可愛いマイがいるから、犬なんか飼わなくてもいいんだよ。でも、小さい頃は犬を飼っていたんだよ」
「ほんとうなの? いいな。私も犬を飼いたいわ!」
「町中の人が犬を飼うのはたいへんだよ。動物を飼ってはいけないマンションがあるし、散歩させたくても、車が走っている所はあぶないからね」
「でも、公園がある所ならば、犬を飼えるわ」
「そうだね。私が子供の頃は、村に住んでいたので家のまわりは畑ばかりだったからね。犬を飼っても誰に迷惑をかけることはなかった」
「じゃ、おばあちゃんに飼われた犬は幸せだったのね」
「でも、今のようにドッグフードなんてなかったからね。食べる物は、残ったご飯に味噌汁をかけたものだった。それでも、私はみそ汁を作る時に使っただし子をなるべく入れてやっていたんだよ」
「おかずがだし子だけなの。それじゃ、私だって文句を言うわ。犬はお肉が食べたいはずよ」
「そうだよね。でも、私らもお肉を食べることはあまりなかった。近所に住んでいた猟師さんからもらったカモやイノシシの肉を食べることがあったけどね。そんな時は残った肉をご飯にまぜてあげたのよ」
「それなら犬も喜んでいたよね」
「ともかく、赤のお腹を空かせたくなくて、ご飯を洗面器いっぱいにしてあげていたんだよ。赤というのは、私が飼っていた犬の名前。それじゃ赤の話をしてあげるよ」
そう言ったおばあちゃんは 話を始めたのでした。
◆
赤は秋田犬で赤茶色のふさふさした毛をもつ犬でした。毛の色を見て赤と名づけたのはおとうさんです。赤のすむ犬小屋は古い家の廃材で作られ庭の端に置かれていました。
いつの間にか、赤にご飯をやることは、私の仕事になっていました。赤のご飯は、朝方と夕方の二回洗面器入れ、水はその隣に鍋に入れて犬小屋の前に置いてあげました。
学校から帰ってくると、私は必ず赤の様子を見に行ったのです。赤は犬小屋の中に入っていることもあるし、犬小屋の前に出ていることもありました。どんな時でも、私が赤に近づいて行くと、赤の方から私に寄ってきてくれ、シッポをふってくれたのです。
今日も学校から帰ってきた私は赤を見に行きました。赤はいつものようにシッポをふってくれたのですが、赤の目は庭の柵の方に向けられていたのです。
「何か、きているのかな?」
私も赤が見ている方に顔を向けました。柵の辺りがガサゴソと音がして何かが立ち去っていきました。
その時は野良犬かなと私は思っていました。野良犬ならば、襲われることがありますので、なるべく近づかないようにしなければと思っていました。でも、そのうちに私が顔を向けても、音をたてている物は隠れないようになっていました。体は細く、毛は明るい黄色でしたが少し汚れていたのでした。
「あれはキツネさんだね」
私はそう言って赤の方を見ました。赤は遠くを見るような目をしてキツネをみつめるだけで、吠えたりはしなかったのです。
寝る前に私は夜の散歩をさせるために赤を小屋から連れだしにいきます。それは家の外でトイレをしてもらうためです。その時、洗面器を見ると、夕方にあげたご飯は、まだ半分ほど残っていたのです。
「赤、ぐあいでも悪いの?」と聞きながら、私は頭をなぜてあげました。赤は嬉しそうにシッポをふってくれ、いつもと変わりはありませんでした。それに、翌日の朝になると洗面器は空になっていましたので、赤が食べてくれたものと安心をしていました。
その晩。まるい月が出て昼間のような明るさでしたので、思わず私はカーテンのすきまから外をのぞいてみました。
すると、キツネが赤の残したご飯を食べていたのです。赤は声もあげずに、やさしい目でキツネを見続けています。やがて、キツネは私に気がついたのか、一瞬飛びあがり、「コン」と、ないて闇の中に消えていきました。
やがて私が縁側や庭にいても、キツネは赤のそばに現れるようになったのです。キツネは赤の鼻に自分の鼻をつけたり、お互いに体のにおいをかぎあったりして帰っていきました。
そのうちに、茶色のケイト玉のような動物もキツネについてやってくるようになりました。その動物がなんであるか、私はすぐにわかりました。
それはタヌキだったからです。
タヌキも赤やキツネと仲がよく、お互いにみつめあったり鼻をつけあったりしていました。
私は、洗面器にもっと多くのご飯を入れてやるようにしました。味噌汁の具にアブラゲや豚肉を入れて欲しいとおかあさんに頼むと驚いていました。それまで、私が食事のことで注文を出したことがなかったからです。でも、赤たちのためだとわかるとおかあさんは豚汁なんかも作ってくれだしました。それでも、私はおかずが足りていない気がしていましたので、台所にあるカツオブシを勝手に持ちだしてきて、それを赤のご飯にふりかけてやったりしていました。
月の出ている夜に、いつものように私が窓から外をのぞいていると、赤とキツネ、そしてタヌキとで輪を作り走りまわっていたのです。
「やっぱり、仲よしなんだ」と私は思わず声をあげてしまいました。
でも、よく年になると、キツネとタヌキは赤のいる庭にこなくなってしまいました。それは、森と村の間に自動車が走る高速道路ができてしまったからでした。ときどき、赤は淋しそうにキツネやタヌキがきてくれた畑の柵の方をみつめていました。
◆
「せっかく友だちができたのにねと言って私は赤の頭をなぜてやっていたんだよ」
「おばあちゃん、私に赤はいないわ」
「そうだね。でも白い犬を連れているおじいさんは毎日公園まできてくれているんだろう」
マイはうなずきました。
「じゃ、おじいさんの連れた白い犬にまた会えるね。その時に頭をなぜてあげるといいよ」
おばあちゃんにそう言われたマイは大きくうなずいていました。そして、おばあちゃんが両手でかけ布団をマイの首の辺りまであげてくれると、マイは安心をしたように目をつぶっていました。
「おばあちゃん、何かお話をして」
「何がいいのかね?」
「公園で遊んでいた時、おじいさんが犬を連れてきていたの。白い毛をした犬でちょこちょこと歩いていたわ。とっても可愛かった。だから犬の話をして。でも、どうしておばあちゃんは犬を飼わないの?」
すると、おばあちゃんは、少しの間、笑っていました。
「今はね。可愛いマイがいるから、犬なんか飼わなくてもいいんだよ。でも、小さい頃は犬を飼っていたんだよ」
「ほんとうなの? いいな。私も犬を飼いたいわ!」
「町中の人が犬を飼うのはたいへんだよ。動物を飼ってはいけないマンションがあるし、散歩させたくても、車が走っている所はあぶないからね」
「でも、公園がある所ならば、犬を飼えるわ」
「そうだね。私が子供の頃は、村に住んでいたので家のまわりは畑ばかりだったからね。犬を飼っても誰に迷惑をかけることはなかった」
「じゃ、おばあちゃんに飼われた犬は幸せだったのね」
「でも、今のようにドッグフードなんてなかったからね。食べる物は、残ったご飯に味噌汁をかけたものだった。それでも、私はみそ汁を作る時に使っただし子をなるべく入れてやっていたんだよ」
「おかずがだし子だけなの。それじゃ、私だって文句を言うわ。犬はお肉が食べたいはずよ」
「そうだよね。でも、私らもお肉を食べることはあまりなかった。近所に住んでいた猟師さんからもらったカモやイノシシの肉を食べることがあったけどね。そんな時は残った肉をご飯にまぜてあげたのよ」
「それなら犬も喜んでいたよね」
「ともかく、赤のお腹を空かせたくなくて、ご飯を洗面器いっぱいにしてあげていたんだよ。赤というのは、私が飼っていた犬の名前。それじゃ赤の話をしてあげるよ」
そう言ったおばあちゃんは 話を始めたのでした。
◆
赤は秋田犬で赤茶色のふさふさした毛をもつ犬でした。毛の色を見て赤と名づけたのはおとうさんです。赤のすむ犬小屋は古い家の廃材で作られ庭の端に置かれていました。
いつの間にか、赤にご飯をやることは、私の仕事になっていました。赤のご飯は、朝方と夕方の二回洗面器入れ、水はその隣に鍋に入れて犬小屋の前に置いてあげました。
学校から帰ってくると、私は必ず赤の様子を見に行ったのです。赤は犬小屋の中に入っていることもあるし、犬小屋の前に出ていることもありました。どんな時でも、私が赤に近づいて行くと、赤の方から私に寄ってきてくれ、シッポをふってくれたのです。
今日も学校から帰ってきた私は赤を見に行きました。赤はいつものようにシッポをふってくれたのですが、赤の目は庭の柵の方に向けられていたのです。
「何か、きているのかな?」
私も赤が見ている方に顔を向けました。柵の辺りがガサゴソと音がして何かが立ち去っていきました。
その時は野良犬かなと私は思っていました。野良犬ならば、襲われることがありますので、なるべく近づかないようにしなければと思っていました。でも、そのうちに私が顔を向けても、音をたてている物は隠れないようになっていました。体は細く、毛は明るい黄色でしたが少し汚れていたのでした。
「あれはキツネさんだね」
私はそう言って赤の方を見ました。赤は遠くを見るような目をしてキツネをみつめるだけで、吠えたりはしなかったのです。
寝る前に私は夜の散歩をさせるために赤を小屋から連れだしにいきます。それは家の外でトイレをしてもらうためです。その時、洗面器を見ると、夕方にあげたご飯は、まだ半分ほど残っていたのです。
「赤、ぐあいでも悪いの?」と聞きながら、私は頭をなぜてあげました。赤は嬉しそうにシッポをふってくれ、いつもと変わりはありませんでした。それに、翌日の朝になると洗面器は空になっていましたので、赤が食べてくれたものと安心をしていました。
その晩。まるい月が出て昼間のような明るさでしたので、思わず私はカーテンのすきまから外をのぞいてみました。
すると、キツネが赤の残したご飯を食べていたのです。赤は声もあげずに、やさしい目でキツネを見続けています。やがて、キツネは私に気がついたのか、一瞬飛びあがり、「コン」と、ないて闇の中に消えていきました。
やがて私が縁側や庭にいても、キツネは赤のそばに現れるようになったのです。キツネは赤の鼻に自分の鼻をつけたり、お互いに体のにおいをかぎあったりして帰っていきました。
そのうちに、茶色のケイト玉のような動物もキツネについてやってくるようになりました。その動物がなんであるか、私はすぐにわかりました。
それはタヌキだったからです。
タヌキも赤やキツネと仲がよく、お互いにみつめあったり鼻をつけあったりしていました。
私は、洗面器にもっと多くのご飯を入れてやるようにしました。味噌汁の具にアブラゲや豚肉を入れて欲しいとおかあさんに頼むと驚いていました。それまで、私が食事のことで注文を出したことがなかったからです。でも、赤たちのためだとわかるとおかあさんは豚汁なんかも作ってくれだしました。それでも、私はおかずが足りていない気がしていましたので、台所にあるカツオブシを勝手に持ちだしてきて、それを赤のご飯にふりかけてやったりしていました。
月の出ている夜に、いつものように私が窓から外をのぞいていると、赤とキツネ、そしてタヌキとで輪を作り走りまわっていたのです。
「やっぱり、仲よしなんだ」と私は思わず声をあげてしまいました。
でも、よく年になると、キツネとタヌキは赤のいる庭にこなくなってしまいました。それは、森と村の間に自動車が走る高速道路ができてしまったからでした。ときどき、赤は淋しそうにキツネやタヌキがきてくれた畑の柵の方をみつめていました。
◆
「せっかく友だちができたのにねと言って私は赤の頭をなぜてやっていたんだよ」
「おばあちゃん、私に赤はいないわ」
「そうだね。でも白い犬を連れているおじいさんは毎日公園まできてくれているんだろう」
マイはうなずきました。
「じゃ、おじいさんの連れた白い犬にまた会えるね。その時に頭をなぜてあげるといいよ」
おばあちゃんにそう言われたマイは大きくうなずいていました。そして、おばあちゃんが両手でかけ布団をマイの首の辺りまであげてくれると、マイは安心をしたように目をつぶっていました。
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