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9取調室(2)
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「私も、どうして田村さんが、そんなことをしたんだろうと考えましたよ」
「そうですよ。私がそんな犯罪を起こす必要などない。だから、私が生田を殺した犯人に力を貸したりはしない」
佐川は、ちらりと田村の方に視線を走らせていたが、モノローグのように再び話し出した。
「生田弁護士事務所に置かれている書類を調べさせてもらっています。すると、アメリカでのタバコ裁判について、詳しく調べていることがわかりました」
秋山は顔をあおざめ口をつぐんでいた。
「ごぞんじでしょう。タバコによる肺ガン、心臓病などの健康被害について訴訟が行われ、1997年3月にタバコメーカー、リゲット・グールプがタバコの習慣性と発ガン性を認めてしまった。これを契機にタバコにかんするアメリカ政府による訴訟や個人による訴訟が増え出していった。肺ガンになった女性の訴訟に対して、2000年3月にサン上級裁判所は2000万ドル、日本円では80億円ですか、賠償金の支払いを命じる評決を出しているんですよ。この流れと同じことを生田はブレーキとアクセルの問題についてできると考えた」
佐川は今度は片眉をあげた。
「そこで、私は貴社の企画開発室に生田がここに来たことがないか聞きに行ってみた。企画開発室では、どうして刑事がここに来るのかという顔をしていましたがね。やはり、生田がそこに行っていましたよ。まあ、もう少し話を聞いてくださいよ」
佐川は、そこで深い深呼吸を一つした。
「ある町工場が、ワンペダルでブレーキとアクセルを踏む変えることができる装置を作り、あなたの会社の車につけることを提案した。だが、それをあなたの会社は断っている。それを付けてさえいれば、老人たちの交通事故はふせげたはずだ。もう一度言いますよ。そもそも、これを採用してさえいれば、誰もブレーキとアクセルの踏み間違いなどしないことだった。これを前提にして、生田弁護士は刑事事件で本当の加害者はあなた方だと言おうとしたんですよ」
「馬鹿な、そんなことはどの自動車会社もやっていない。たしかに、いまはCIを使った高度な制御システムの開発を行い、それを車にのせ出している。刑事さんが言っている装置も別添えで売り出している状況だよ。そもそも車にのっている人たちも、今までのブレーキやアクセルの構造で車を動かしてきたのだから、それを当然だと考えてきているんですよ。それをいまさら問題にすること自体がおかしいことだ」
そこで佐川が真正面から田村をみつめた。
「そうでしょうな。日本人は争いごとが嫌いなようです。いや真実を見ないで生きていくことが楽だと考えているからかもしれませんね。だが、生田は、気づいてしまった。隠されている真実を」
「馬鹿な。そんなことを広められたら、私の会社は、いや自動車業界がどうなると思う。株は下がりは、多額の賠償金が発生するかもしれない。つぶれる会社だって出てくる。そんなことをされたら、広報をまかされた私はどうなると思う。この事件はあくまでも個人レベルの問題で終わらせることを会社から言い付けられているんだ」
「つまり会社の意向どおりにするために、生田を殺したということですね」
田村の代わりに佐川は大きくうなずいて見せた。
「あなたたちの不作為のおかげで、老人だけでなく車を運転している人たちがブレーキとアクセルを踏み間違がえ、事故を起こして人を死なせている。これは殺人事件じゃないですか? いや、これから起きる交通事件もまたあなた方が犯人になる可能性がある!」
佐川は目を大きく見開いて田村を見つめた。
「そうですよ。私がそんな犯罪を起こす必要などない。だから、私が生田を殺した犯人に力を貸したりはしない」
佐川は、ちらりと田村の方に視線を走らせていたが、モノローグのように再び話し出した。
「生田弁護士事務所に置かれている書類を調べさせてもらっています。すると、アメリカでのタバコ裁判について、詳しく調べていることがわかりました」
秋山は顔をあおざめ口をつぐんでいた。
「ごぞんじでしょう。タバコによる肺ガン、心臓病などの健康被害について訴訟が行われ、1997年3月にタバコメーカー、リゲット・グールプがタバコの習慣性と発ガン性を認めてしまった。これを契機にタバコにかんするアメリカ政府による訴訟や個人による訴訟が増え出していった。肺ガンになった女性の訴訟に対して、2000年3月にサン上級裁判所は2000万ドル、日本円では80億円ですか、賠償金の支払いを命じる評決を出しているんですよ。この流れと同じことを生田はブレーキとアクセルの問題についてできると考えた」
佐川は今度は片眉をあげた。
「そこで、私は貴社の企画開発室に生田がここに来たことがないか聞きに行ってみた。企画開発室では、どうして刑事がここに来るのかという顔をしていましたがね。やはり、生田がそこに行っていましたよ。まあ、もう少し話を聞いてくださいよ」
佐川は、そこで深い深呼吸を一つした。
「ある町工場が、ワンペダルでブレーキとアクセルを踏む変えることができる装置を作り、あなたの会社の車につけることを提案した。だが、それをあなたの会社は断っている。それを付けてさえいれば、老人たちの交通事故はふせげたはずだ。もう一度言いますよ。そもそも、これを採用してさえいれば、誰もブレーキとアクセルの踏み間違いなどしないことだった。これを前提にして、生田弁護士は刑事事件で本当の加害者はあなた方だと言おうとしたんですよ」
「馬鹿な、そんなことはどの自動車会社もやっていない。たしかに、いまはCIを使った高度な制御システムの開発を行い、それを車にのせ出している。刑事さんが言っている装置も別添えで売り出している状況だよ。そもそも車にのっている人たちも、今までのブレーキやアクセルの構造で車を動かしてきたのだから、それを当然だと考えてきているんですよ。それをいまさら問題にすること自体がおかしいことだ」
そこで佐川が真正面から田村をみつめた。
「そうでしょうな。日本人は争いごとが嫌いなようです。いや真実を見ないで生きていくことが楽だと考えているからかもしれませんね。だが、生田は、気づいてしまった。隠されている真実を」
「馬鹿な。そんなことを広められたら、私の会社は、いや自動車業界がどうなると思う。株は下がりは、多額の賠償金が発生するかもしれない。つぶれる会社だって出てくる。そんなことをされたら、広報をまかされた私はどうなると思う。この事件はあくまでも個人レベルの問題で終わらせることを会社から言い付けられているんだ」
「つまり会社の意向どおりにするために、生田を殺したということですね」
田村の代わりに佐川は大きくうなずいて見せた。
「あなたたちの不作為のおかげで、老人だけでなく車を運転している人たちがブレーキとアクセルを踏み間違がえ、事故を起こして人を死なせている。これは殺人事件じゃないですか? いや、これから起きる交通事件もまたあなた方が犯人になる可能性がある!」
佐川は目を大きく見開いて田村を見つめた。
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