幸せになりたい!

矢野 零時

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3寿退社

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 新年を迎える前に、理江はパレスホテルに行って結婚式場の予約取り消した。当然、違約金を払わなければならなかった。次の日の朝早く。理江は総務課長に会いにいった。課長室の前にすわっている秘書の高山が席を外したすきに、軽くノックをしたあと課長室に入っていった。
「課長、おはようございます」
 理江が挨拶をすると、課長は少し驚いたような顔をした。
「おはよう。鈴木くん、なにかね?」
 そう言って、総務課長は課長室に置いてある応接セットに理江をすわらせ、自分も向かい側にすわった。
「課長、会社を辞めさせていただきたいと思いまして」
 理江は手に持ってきたバッグから退職届を出して、彼の前においた。
「いよいよ、結婚が決まったんだね?」
 理江は笑っていたかったのだが、それができなかった。
「違うのかな。じゃ、どうして会社を辞めたいのかね?」
「私、いま分岐点にいると思うんです。新しい生き方をしたいと思いまして」
 どうやら、自分の気持ちを素直に言えたと思う。
「そうか、あまり人のプライバシーに入り込みたくはない。きみがどうしてもと言うのならば、退職することは了解をしたよ。君の後ガマをすぐにさがさなければならないな。人事課長にも話をしておくよ」
「ありがとうございます」
 そう言って、理江は課長室から出てくることができた。
 理江はいつもと違う行動をしている。職場のデスクに理江が戻ると、斜め向かいの席に座っていた恵美がわざわざ立ってきた。
「なんか、あったんですか?」
 このままでは、課の中のみんながこちらに視線を向けてしまう。理江は恵美を給湯室に連れて行った。
「恵美の想像どおりよ。退職願を出してきたの。会社、やめるのよ。でも、理由は結婚じゃないの」
「忠之さんと結婚するのじゃなかったんですか?」
 すっかり理江には、ばれてしまっている。昼を恵美と一緒に取らずに外に出ることがあったから、後を付けられていたかもしれない。
「でも、正式に会社を辞める日はちゃんと教えるわ。正式な日にちは、まだ決まってないのよ」
「う~ん、でも」
「恵美、あなた二股かけていると話をしていたことあったでしょう」
「営業の佐藤純一さんと広報の山口浩介さん。二人とも二股かけられているとは知らないんでしょう?」
 恵美はおしゃべりなだけ、自分のことも隠しきれない性格だった。
「えっ、それ言われたら、困る。お願い、本当のことは誰にも言わないで」
「じゃ、私の事で知り得たことも秘密ね」
 やがて、人事課から、理江の退職の日が知らされた。その日は、理江は自分の持っている中で一番シックな服、ブラウン色のドレスをえらんだ。席にいると、秘書がやってきて、課長室に呼ばれた。課長から退職の辞令交付を受けたのだ。課長室から出ると、それを手に課のみんなの席をまわり、挨拶をして歩いた。
 挨拶をし終わった理江が課の出入口までくると、課のみんながやってきてくれた。恵美が花束を持ってきて、理江に渡してくれたのだ。
「鈴木くん、長い間、ごくろうさま」
 係長がそう言ってくれると、みんなが拍手をしてくれ、エレベターに乗り込むまで送ってくれたのだった。
 
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