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完璧な宗教
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俺の名前は奥洲天成。
商社マンだった俺は、海外出張中に宗教過激派のテロに巻き込まれてあえない最期を遂げた。
段々、死に方が過激になっているという指摘もあるが、ネタがさすがに少なくなってきたので勘弁してほしい。
『ネタは少ないわよねぇ。今のまま行くと来月の今頃は、従妹の話ばかりになっているかもね』
「そ、それは嫌だ。何とかネタを探さなければ」
『で、今回はどうするの?』
「今やどんな宗教も過激派ばかりで嫌になる。どうして、完璧な宗教が存在しないのだろうか? 神が本当にいるのなら、完璧な宗教が存在するはずなのに」
『完璧な宗教……あるわよ』
「何!? マジか? ちょっと怪しいぞ!?」
自分から言っておいて何だが「これは完璧な宗教です」なんて勧められたら、引くぞ。
女神だから大丈夫だろうと思いたいが、この女神も大概ポンコツだからな。
『……何か良からぬことを思わなかった?』
「そ、そんなことはない」
『まあいいわ。行ってらっしゃーい!』
「うわー!」
俺はどこに転生したのだろうか?
俺の知る欧州ではない。だが、中国や日本でもない。
「ここはどこだ?」
俺は近くを測量している男に聞いた。
「ここはテーシフォン近郊の村だよ?」
テーシフォン? ああ、パルティアとサーサーン朝の都クテシフォンはペルシア語だとテーシフォン読みが近いらしいな。
というか、この男、俺がこのあたりの地名を知らないことを不思議とは思わないのか?
「原理は分からないけれど、急に現れたところを見る限り、君が異界から転生してきたらしいということは理解している」
何だと!?
待て、今回は特別編ではないぞ!?
この男、のっけから俺が転生してきたことを理解しているだと?
只者ではない……
「ああ、紹介が遅れたね。私はマーニーと言う。人は私をマーニー・ハイイェーと呼んでいるね」
マーニー・ハイイェー?
ということは、この男はマニ教の開祖マニなのか。
何で測量なんかしているんだ?
「だって、宗教観作成にあたって、距離の感覚は必要だろう? 適当に距離を出して『現実味の無い距離だ』とか『実はめっちゃ近いじゃないか』とか後世に言われるのはバカバカしいじゃないか」
随分現実的な宗教家だな。
マーニーの現実的な路線は、測量だけではなかった。
「私の宗教観をはっきりさせておかないと、『あの人はこう言っていた』とか勝手に作られることはキリスト教を見ると明らかだからね。頭のいい人ならいいけど、あほなローマ教皇にそんなことを言われるイエスは本当に愚かだよ」
待て! そんなことを言ったら、この作品自体がバンされてしまうから!
「だから、あらかじめ読んでいい教典を指示しておくのさ」
なるほど……、準備がいいな。
というか、マーニーの宗教観は理路整然としているのだが、何というのか、あふれ出るような熱情を感じない。メガネをかけた知的キャラが淡々と語っているだけのような感覚も受ける。
メガネキャラっぽいのは宗教自体もそうだ。
当時のサーサーン朝の国教ゾロアスター教、更にはキリスト教諸派に土着の宗教を盛り込んだものとなっていて、一から最後まで組み立てられている。
端的に言うと隙がない。
ただ、狂おしいまでの熱情を感じないのはここでも現れている。
「ローマ法王みたいなのが出て来ると困るから、後々のこともきちんと考えておかないといけないし、組織も固めておこう。布教方法も整理しておこうか」
更に組織構築を整えていった。
おまけに、自分の死後の運営まできちんと組み立てていった。
「……他に決めることはあるかな? テンセー、どう思う?」
「いや、ないと思います」
確かに、マーニーは完璧に教義を確立させた。
そして、宗教家としては最後まで完璧だった。
キリスト同様に皇帝の怒りを買い、拘禁されて死ぬという殉教の最期を遂げたのだから。
時が流れた。
俺は別の使徒と共に中東を歩いていた。
「テンセー、もうすぐダマスカスだから、ここでも布教した方がいいんじゃないか?」
「いや、ダマスカスはスルーって書いてある」
「とすると、アレクサンドリアに行くの?」
「そのままコンスタンティノープルに行けと書いてある」
「そうかぁ。この辺りは歴史のある場所だし、布教してもいいと思うんだけどマーニー師の教えには逆らえないよねぇ」
"女神の一言"
開祖が何もかもを完璧に整えてしまったマニ教は、その後の発展性を失ってしまいました。
更に痛恨なことに開祖が全部整えてしまった文献はアラム語や中世ペルシア語で書かれておりましたが、これが次第と死語となっていき、伝播力が弱まっていきました。他の宗教なら翻訳すれば済む話ですが、布教方法までマーニーが指示していたものですから、修正することも教えに反するわけですからね。
それでも、10世紀くらいまでは各地に布教していったのですが、イランから中東にかけてはイスラームが支配する地域となり、次第に下火となっていきます。
西の方では、キリスト教が更に支配的となり、マニ教は姿を消しました。中世前期の代表的神学者とされるアウグスティヌスは当初マニ教を信仰しておりましたが、これを棄教してキリスト教に改宗しました。彼の体系的な神学論にマニ教の影響が入っていただろうというのは皮肉な話です。
ですが、マニ教自体もマーニーがキリスト教の理論などを取り入れつつ作ったものではありますので、あまり人のことばかり文句を言えません。
東はといいますと、中国ではかなり広がりを見せましたし、天山ウイグル王国では国教になりました。
ただ、これまた次第に弾圧されるようになり、下火になっていきます。そうした中でマーニーの意図に反した反体制的な傾向も強まっていき、悪循環を引き起こすこととなりました。
水滸伝でおなじみの方臘はマニ教徒だった可能性が高いと言われていますし、元末や清代に反乱を起こした白蓮教徒もその一派と言われています。
商社マンだった俺は、海外出張中に宗教過激派のテロに巻き込まれてあえない最期を遂げた。
段々、死に方が過激になっているという指摘もあるが、ネタがさすがに少なくなってきたので勘弁してほしい。
『ネタは少ないわよねぇ。今のまま行くと来月の今頃は、従妹の話ばかりになっているかもね』
「そ、それは嫌だ。何とかネタを探さなければ」
『で、今回はどうするの?』
「今やどんな宗教も過激派ばかりで嫌になる。どうして、完璧な宗教が存在しないのだろうか? 神が本当にいるのなら、完璧な宗教が存在するはずなのに」
『完璧な宗教……あるわよ』
「何!? マジか? ちょっと怪しいぞ!?」
自分から言っておいて何だが「これは完璧な宗教です」なんて勧められたら、引くぞ。
女神だから大丈夫だろうと思いたいが、この女神も大概ポンコツだからな。
『……何か良からぬことを思わなかった?』
「そ、そんなことはない」
『まあいいわ。行ってらっしゃーい!』
「うわー!」
俺はどこに転生したのだろうか?
俺の知る欧州ではない。だが、中国や日本でもない。
「ここはどこだ?」
俺は近くを測量している男に聞いた。
「ここはテーシフォン近郊の村だよ?」
テーシフォン? ああ、パルティアとサーサーン朝の都クテシフォンはペルシア語だとテーシフォン読みが近いらしいな。
というか、この男、俺がこのあたりの地名を知らないことを不思議とは思わないのか?
「原理は分からないけれど、急に現れたところを見る限り、君が異界から転生してきたらしいということは理解している」
何だと!?
待て、今回は特別編ではないぞ!?
この男、のっけから俺が転生してきたことを理解しているだと?
只者ではない……
「ああ、紹介が遅れたね。私はマーニーと言う。人は私をマーニー・ハイイェーと呼んでいるね」
マーニー・ハイイェー?
ということは、この男はマニ教の開祖マニなのか。
何で測量なんかしているんだ?
「だって、宗教観作成にあたって、距離の感覚は必要だろう? 適当に距離を出して『現実味の無い距離だ』とか『実はめっちゃ近いじゃないか』とか後世に言われるのはバカバカしいじゃないか」
随分現実的な宗教家だな。
マーニーの現実的な路線は、測量だけではなかった。
「私の宗教観をはっきりさせておかないと、『あの人はこう言っていた』とか勝手に作られることはキリスト教を見ると明らかだからね。頭のいい人ならいいけど、あほなローマ教皇にそんなことを言われるイエスは本当に愚かだよ」
待て! そんなことを言ったら、この作品自体がバンされてしまうから!
「だから、あらかじめ読んでいい教典を指示しておくのさ」
なるほど……、準備がいいな。
というか、マーニーの宗教観は理路整然としているのだが、何というのか、あふれ出るような熱情を感じない。メガネをかけた知的キャラが淡々と語っているだけのような感覚も受ける。
メガネキャラっぽいのは宗教自体もそうだ。
当時のサーサーン朝の国教ゾロアスター教、更にはキリスト教諸派に土着の宗教を盛り込んだものとなっていて、一から最後まで組み立てられている。
端的に言うと隙がない。
ただ、狂おしいまでの熱情を感じないのはここでも現れている。
「ローマ法王みたいなのが出て来ると困るから、後々のこともきちんと考えておかないといけないし、組織も固めておこう。布教方法も整理しておこうか」
更に組織構築を整えていった。
おまけに、自分の死後の運営まできちんと組み立てていった。
「……他に決めることはあるかな? テンセー、どう思う?」
「いや、ないと思います」
確かに、マーニーは完璧に教義を確立させた。
そして、宗教家としては最後まで完璧だった。
キリスト同様に皇帝の怒りを買い、拘禁されて死ぬという殉教の最期を遂げたのだから。
時が流れた。
俺は別の使徒と共に中東を歩いていた。
「テンセー、もうすぐダマスカスだから、ここでも布教した方がいいんじゃないか?」
「いや、ダマスカスはスルーって書いてある」
「とすると、アレクサンドリアに行くの?」
「そのままコンスタンティノープルに行けと書いてある」
「そうかぁ。この辺りは歴史のある場所だし、布教してもいいと思うんだけどマーニー師の教えには逆らえないよねぇ」
"女神の一言"
開祖が何もかもを完璧に整えてしまったマニ教は、その後の発展性を失ってしまいました。
更に痛恨なことに開祖が全部整えてしまった文献はアラム語や中世ペルシア語で書かれておりましたが、これが次第と死語となっていき、伝播力が弱まっていきました。他の宗教なら翻訳すれば済む話ですが、布教方法までマーニーが指示していたものですから、修正することも教えに反するわけですからね。
それでも、10世紀くらいまでは各地に布教していったのですが、イランから中東にかけてはイスラームが支配する地域となり、次第に下火となっていきます。
西の方では、キリスト教が更に支配的となり、マニ教は姿を消しました。中世前期の代表的神学者とされるアウグスティヌスは当初マニ教を信仰しておりましたが、これを棄教してキリスト教に改宗しました。彼の体系的な神学論にマニ教の影響が入っていただろうというのは皮肉な話です。
ですが、マニ教自体もマーニーがキリスト教の理論などを取り入れつつ作ったものではありますので、あまり人のことばかり文句を言えません。
東はといいますと、中国ではかなり広がりを見せましたし、天山ウイグル王国では国教になりました。
ただ、これまた次第に弾圧されるようになり、下火になっていきます。そうした中でマーニーの意図に反した反体制的な傾向も強まっていき、悪循環を引き起こすこととなりました。
水滸伝でおなじみの方臘はマニ教徒だった可能性が高いと言われていますし、元末や清代に反乱を起こした白蓮教徒もその一派と言われています。
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