幕末日本に転生しましたが、現代知識を活かしてスポーツ振興に取り組みたいと思います

川野遥

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1章・渡米を目指す幕末転生少年

燐介、松陰と対峙する①

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 山口に連れられたのは下田でもかなり外れにある人気のない場所だった。
 ここだ、と案内されたのはうらびれた廃屋《はいおく》であった。中に誰かいるらしいということは夕闇の中、灯りがついていることから分かる。
 まずは山口が中に入って行った。
「松陰様、よろしいでしょうか?」
「どうした?」
「松陰様に会いたいという者がおりまして、お連れしました」
 山口の奴、俺には偉そうなのに松陰相手には凄いへりくだりようだな。
「小僧なのですが、ペリーに対して交渉する自信があるようなことを言っています」
「何?」
 あ、一応、声を落として話をしているみたいなんだよ。ただ、何といっても廃屋だから声が漏れまくりで全然秘密になっていない。何とも悲しい状況ってわけだ。
「……連れてきたまえ」
 お、松陰のゴーサインが出た。

 外からの見た目通り、中もボロボロだ。短期間の宿というつもりなのだろうが、俺だったら、こんなところは一晩だって御免だなぁ。
 今にも抜けそうでギシギシとなる床を歩き、奥の部屋に向かう。
 蝋燭《ろうそく》の灯りの前に正座している小男がいた。なるほど、確かに顔に二か所ほど疱瘡《ほうそう》の痕《あと》らしいあばたがある。
「ふむ、君が……。手前が吉田松陰だが」
 俺を視認するや、軽く会釈をしてきた。
「手前に協力すると山口君から聞いたが、真《まこと》かね?」
「ああ、本当だ」
 俺は慎重に近づこうとするが、「あ、そこは危ない」と指摘を受けて立ち止まる。
「それほど裕福な身ではないので、ね。このようなところで不便かもしれないがご容赦《ようしゃ》願いたい」
 そう前置きして、厳しい顔を向けてくる。
「さて、山口君が言うには、君はペリーと交渉する自信があると言うが、真かね?」
「もちろん」
「失礼を承知で言わせてもらえば、君に特別な閃きを感じるわけではない。どのように説得するつもりなのか教えてもらいたい」
 特別な閃きを感じない、というのは要は俺が平凡な奴に見えるということなんだろうな。確かに失礼な発言で、後ろで沖田が楽しそうに笑っている。
 こうなると沖田がついてきたのは完全に予想外だな。俺と松陰の交渉が聞かれたら、俺の正体に感づかれてしまうだろうし。
 とはいえ、今更帰れと言っても帰らないだろうし、諦めるしかない。
 今は松陰との交渉に集中だ。
「うーん、そんなに難しいことではないよ。俺はアメリカのことを松陰さんよりよく知っていて、それでペリーを納得させられると思っているだけ」
「ふむ……。君のような小僧が知っているというのは不可解だが……」
 松陰も迷いがあるらしい。山口に「どうしたものか」というような視線を向ける。これは向けられた山口も困ったようで「自分は分かりません」と情けない返事を返している。
「そういえばもう一つ聞かなければならないことがあった。君は一体どこの者だ?」
「俺? 俺は土佐から来たんだけど、今は江戸にいるね」
「土佐の許可はもらったのか?」
「いいや」
「……ということは、君も国抜けをするということか?」
「俺はアメリカに行かなければいけないからね」
 答えた途端、松陰が急に下を向き、プルプルと震えだした。
 あれ、俺、何かまずいことを言ったかな、そう思った途端、バン! と大きな物音を立てて松陰が立ち上がる。
「気に入った! うわっ!」
 あちゃあ、俺に踏み入れるな、と言ったところを自分で踏んでしまって、右足が床に沈んでしまった。何ともカッコ悪いところだが、悪びれる風もなく足を抜く。
「行かなければいかないから行動をする! その志《こころざし》や良き! 手前は君を同志として認めよう!」
 立ち上がり、高らかに宣言する松陰に対して、俺は呆気に取られてしまう。
 そういえば、松陰は行動の人物だ。当時なら問題になるようなことであっても、必要と感じればすぐにやろうとする。だから、俺がアメリカに行くことも松陰にとっては好ましい行動なんだろうな。
「ありがとう。俺がペリーを説得して、一緒に行けるようにしたいんだけど、一つだけお願いしたいことがあるんだ」
「何だろう?」
「アメリカにいるのは、一年ということにしてくれないかな?」
「何?」
 松陰の目が怪しく光った。
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