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〜幕間〜
幕間.幼い頃のオーウェン(1) 双子の王子
しおりを挟む1章が完結したので、少しだけ番外編です。
(1)にはオーウェンの幼少期の話がチラリと出てくるため、アリスは出てきません。
◇◆
オーリアノッドに双子の王子が生まれた。そんな話が王都を中心に周辺国にまで話題となって広がってから何年か経った。
第2王子ルーカスはやんちゃで怖がりで泣き虫だ。でも、明るく優しくなんでも頑張る可愛らしい王子。そんな微笑ましい話が城に勤める者達の中で噂される一方、その双子の弟である第3王子オーウェンには乳母も側仕えも兄や両親ですらも手を焼き、困り果てていた。
ルーカスとオーウェンはやはり双子だからか、顔の造りはとてもそっくりで、同じ服を着せて同じ表情を浮かべたならば、本人たち以外見分けがつかない。髪型も所謂おぼっちゃまヘアにしてあり綺麗に切り揃えてある。顔も両親譲りの綺麗な顔をしているため、2人並べば微笑ましい"はず"なのだ。
「オーウェン様は...?」
「いつもの所よ」
第1王子であるクロードは神童と陰で言われるくらい優秀だったが、オーウェンも勉強に剣術、魔法、礼儀作法とその歳にしてはやけに上達が早かった。
「ルーカス様がああいうお方だからか、オーウェン様は静か過ぎて少し怖いわね」
「こら、こんな所でそんなこと言わないの。......早く洗濯物干してしまいましょう」
オーウェンもルーカスも見分けがつかないくらいそっくりだが、その浮かべる表情や何かをするときの行動は全然違う。
オーウェンは恐ろしいくらいに無表情だった。そして必要以上に喋らない。何にも喜ばないし、嫌がらない。そして何も欲しがらない。
控えめに言って子供らしくない。大袈裟に言って人間らしくない。そんな風に周りから言われていた。
しかし、王子たちが出席しないといけないパーティーなどの集まりは少ないながらもあり、そういう所では城での様子が嘘のようにルーカスと見間違うくらいにニコニコ笑い、饒舌にそれなりに子供らしく話す。その様はまるで二重人格のようだった。
「オーウェン!向こうであそぼう」
「.......」
「えー。おれ、一人じゃつまらない...!」
「.......」
オーウェンはその日もテラスでぼんやりと空を見上げていた。
彼は何もない時、基本的にそこから動かない。朝も昼も夕も夜もぼんやりと空を見上げ、庭に咲く花を見て、読書をして紅茶を飲む。毎日の授業や用事がない限り、晴れでも雨でもオーウェンは何が面白いのかそこにいる。
つまらない、楽しい、そんな感情すら顔には浮かばず、どの季節になっても彼はそこから離れない。周りの護衛たちからすれば、守りを固めやすいし、動かないから楽ではあるが、逆に得体の知れなさもあり、苦でもあった。
物心がついてオーウェンがそんな行動をするようになって、最初周りも困ってはいたが、特に問題はないのでしたいようにさせていた。オーウェンはクロードのようにふとした時に逃走しないし、ルーカスのように突拍子のないことをしたり、騒いだりしないから周りも落ち着いて見守ることができた。
そこにいるのが好きならと、雨が入らないように工夫したり、温度が一定に保たれるよう結界を張ったりしたし、季節の流れを感じられるようテラスから見える世界は彩りで溢れさせた。他にも夜にいることもあるからと灯りを工夫したり、座り心地の良い椅子や体に合わせたテーブルも用意したりなど、快適に過ごせるようできるだけの配慮をした。
「なんでだよー。オーウェン!」
「ルーカス」
「んー。.....じゃあ、おれもここにいる!」
「.......」
「...はいはい、勝手にするからなっ」
唯一の救いはルーカスがオーウェンの考えてることを何となく察せることだろうか。
双子だからなのかルーカスが一方的に話しているように見えて、二人はあれでコミュニケーションが取れているらしい。ルーカスはオーウェンと一緒にいるのが好きなようなので、オーウェンが素っ気なくても気にしなかった。
今日もいつものようにオーウェンの隣にある椅子に座り、紅茶を片手に焼き菓子を食べる。時々ルーカスがお菓子をオーウェンの口元に持って行けば、彼はパクリと食べた。それは周りの人間にとってとても和やかな時間だった。
少々行儀が悪いことをするにはするが、人の目が多くあるところでは何だかんだ2人ともその辺の子供よりは礼儀正しい。無理に色々言いつけて、二人のこの時間が台無しになるのは誰もが避けたがった。
「この前、兄上と薬草園の方に行ったんだ!オーウェンも行こう」
「.....」
「あした?明日、行ってくれるの?」
オーウェンはよくルーカスの「遊びに行こう」だとか、「何かしよう」という誘いを断るが、たまに断らないこともある。はしゃぐルーカスに引っ張られて付き合わされるのだが、そういう時のオーウェンもやはりテラスにいる時と変わらず何も変化がない。楽しいも不満も何もなかった。
◇◆
「ねえ、いつもオーウェンと何を話しているの?」
「オーウェンと?」
「そう」
「.....うーん、いろいろ!」
そんなある日、クロードはふとした疑問をルーカスに投げかけた。周りにいる者や3人の両親である国王も王妃もそれにはとても興味があった。オーウェン本人から読み取れない以上、ルーカス以外にオーウェンが何を言っていて、何を感じているのか分からなかったからだ。
「...色々、か。.....じゃあ、オーウェンは何が好きなんだい?」
「好き?.....うーん、本とお菓子。あとは星と花と...__」
そう言ってルーカスはオーウェンの好きなものを指を折りながら挙げていく。「いっぱいあるんだよなぁ」と言いながら挙げていくルーカスを見て、自分たちはオーウェンについて何も知らないんだと改めて痛感した。
それを聞いていた側仕えたちは、王に許可をとってメモ帳に慌てて挙がっていくものを書き記している。自分たちがいくら話しかけてもあまり話さないし、表情も変えないのでこの機会はとても重要だった。
「あとは、兄上がこっそりくれるお菓子と、本と...って、あれ?」
ルーカスは段々と先程も言ったことをもう一度繰り返して、「ん?」と首を傾げる。それからまた思い出したものを述べていく。
「__.....あとは、鳥も好き!いつも散歩はイヤがられるけど、綺麗な鳥がいたって言えばきてくれる」
「本当に沢山あるんだな」
段々と国王は顔色が悪くなる。あんなに気にしていても、少しも気づいてあげられることができなかったからだ。王である前に実の父親なのでショックだった。
貴族の裏での企みには割と気づけるし、ポーカーフェイスの中でも何を考えていそうなのか考えつくというのに、オーウェンに対してはそれが上手くいかずそれで困り果てていた。
「...じゃあ嫌いなものは?」
「嫌いなもの?.....苦いやつ?あれはね、おれも嫌い。あとは雷」
「雷?」
「オーウェンは雷の日はいつも俺といるじゃん」
「雷はルーカスが嫌いなだけだろ」
「違うよ兄上!おれも雷はヤだけど、それはオーウェンがイヤがるからで...!それが伝わってくるの!」
雨でも風でも雷でも変わらない、と思っていたオーウェンは実は雷が嫌いらしい。確かに思い返してみれば、雷の日はテラスには近づかない。しかし、それは雷の日、ルーカスがオーウェンと部屋に篭もり、しがみついて震えているからだ。
ルーカスにしがみつかれて、毛布を無理やり被せられてくっついている様子も思い浮かぶがやはり怯えているのはルーカスの方だった。オーウェンは顔色も表情も何も変えずされるがままだった。
「とにかくおれよりもオーウェンは雷を怖がってるんだからね!確かに見てもよく分からないけど、それでもオーウェンは...」
「ああ、別に疑ってる訳じゃないよ。そうだったんだね」
「うん」
ルーカスは素直な子だ。そして分かりやすい。嘘をつくこともあるが、大抵バレバレである。そんなルーカスの今日の表情は嘘を言っている時の顔とは違っていた。
国王はルーカスの頭を撫でながら優しい顔でそう言えば、ルーカスはこくりと頷いた。
「オーウェンの言ってることや、考えていることが分かるのならさ、オーウェンはいつも何を感じているの?オーウェンは何を見ている?」
「そんなに一気に尋ねると、ルーカスが混乱してしまいますわ」
オーウェンのことを少しでも知ると、他にも色々と聞きたいことができたらしい。国王はルーカスを質問攻めにし始めた。それを王妃は窘めながらも、表情からは興味津々なのがよく分かる。
「__オーウェンはね、まだ"宙ぶらりん"なんだよ」
「宙ぶらりん?」
何を言うのかと思えば、そんな言葉がルーカスから出てきて皆で首を傾げる。それがどういった意味で、幼い王子から出ているのかが分からなかった。
「オーウェンの世界には色がいっぱいだから、追いつくのがタイヘンなんだよ。そしてすぐに疲れるし、キツくなる」
「.....」
「だから"なじむ"のにいっぱい時間がないとダメだし、**を忘れないようにするためにいつも必死だよ」
ルーカスはそう言ってにっこり笑った。途中聞き取れない言葉があって、それを聞こうと思ったがその前にルーカスが口を開く方が早かった。
「__オーウェンには探し物があるんだよ」
「探し物?」
「うん。だから寄り道しているんだ...」
「.....それは何か、ルーカスは分かる?」
「知らない。でもオーウェンにとって"タイセツ"」
ルーカスもやはりそこら辺の子どもよりも賢く、言葉も表現も沢山知っていて色々なことを語る。あまり理解できない部分もあるが、それでもルーカスが続ける言葉を聞いていく。
「オーウェンは"それ"を探してて、寄り道して遠回りしているから"ああ"なんだよ」
「.......」
「オーウェンって、イジワルだし、すぐおれのことだますし、おれで遊んでくるやつだけど、兄上のことをすっごく"そんけー"してて、いつも何もかもヘタクソで、でも、人のこと見てるし、話もちゃんと聞いてくれるし、やさしーよ?」
オーウェンが意地悪で、ルーカスのことをからかって遊んでいることも、クロードのことを凄く尊敬していることも知らなかったからみんなポカンとする。ただ確かにあの分かりにくさは色んな意味でルーカスの言う通り、"何もかもヘタクソ"だ。
__でも、優しいのは何となく知っていた。
朝から多忙で腹を空かせながら傍に控えていれば、気づいているのかお菓子を周りに配ってくれる。ルーカスが廊下を駆けて転びそうになっていれば、誰よりも先に手を引っ張って止めるし、誰かが困り事をしていれば本を探してきたり、メモを渡すように促してくる。その他にもオーウェンは、確かに周りを見て、話を聞いて、必要なら何かをするし、ルーカスに頼んでしてもらったりもする。
どうしてもその様子から近寄り難く、壁を作っていたのはこちらだったのかもしれない。と、思い返せば色々なことがあったのに、変に距離を置いていたことに今更恥ずかしくなった。
ある程度オーウェンの話が終わり、話を聞いていたものは自分の仕事に戻っていく。ここにはいないオーウェン付きの者たちに何人かは急いで情報を共有しに行ったらしい。今聞いたものをそのまま伝えたいようだった。
国王と王妃、クロード、そしてルーカスと彼らの側近や護衛たちだけになると、ふと思い出したようにルーカスが王妃に近づいた。
「母上!」
「どうかしたのですか?」
王妃は3児の母には見えないくらい美しく若々しい笑顔で、息子の言葉を待つ。ルーカスは「んー」と頭を左右に振ったあと、父を見て兄を見てそれからまた王妃を見た。
「オーウェンが言っていたのですが」
「オーウェンが?」
「母上の体調は大丈夫か、と」
「わたくしの?」
最近体調を崩した覚えのない王妃は何を言っているのか分からず、不思議そうな顔をした。
「最近、"母上は?"とか、"海はどうなの?"って言ってくるから」
「海?.......__あら、まあ」
一瞬だけ首を傾げた王妃だが、ルーカスの言葉をゆっくり咀嚼嚥下し、それからゆっくり夫を見遣った。同じタイミングで国王も自分の妻を見つめた。
王家では男の子だとそれぞれ太陽・月・星に喩える。それが女の子だと、海・風・大地で喩えるのだ。4人以上生まれればもちろんその先にも続きはあるが、ここ何代かは一夫一妻であるため基本的に喩えはそれがよく知られていた。
例えば、クロードは太陽、ルーカスは月、オーウェンは星という感じだ。それぞれのミドルネームにそれを意味する言葉が入れられている。
つまり、オーウェンが気にする"海"というのは、王妃が第1王女を懐妊しているかもしれない、ということだ。
多忙であったり、生活の場の違いから家族の中で一番会わないだろうオーウェンが、1番先にそのことを勘づいているかもしれない、ということに王妃は何だか申し訳なさを覚えたが、それと同時に、まだ時間は沢山あるのだからこれからはもっと一緒にいる時間を作ろう、とも思った。
「.....誰か医師を」
国王は静かにそう言った。その命令が下る前に誰かが呼びに行ったらしい。明らかに雰囲気の変わった部屋にルーカスは戸惑った。
「母上、やはりオーウェンの言う通りどこか悪いのですか?」
「....わたくしは大丈夫よ。ルーカスはオーウェンの所に行ってきなさい」
「ルーカス、行こうか」
「兄上?」
不安そうに見てくるルーカスの頭をそっと撫でて彼女はそう言った。母に促されて頷きはしたが、中々母の傍から動こうとしない。空気を呼んだらしいクロードがルーカスと手を繋いで引っ張ると、そのまま部屋を出ていった。
それから数ヶ月後、国にはまた嬉しい知らせが届く。そしてまた少し経った頃には、王妃が第1王女を出産し、国中が数年前と同様にお祭り騒ぎになった。
◇◆
どこか地球に馴染み深いところがあるため、太陽や月、星と言う概念があります。それぞれ関係性や性質はあまり地球と変わりないかも。ただ世界観は凝ってないため地球温暖化的な要素等はございません。ファンタジーなので。フィクションなので。ご都合主義なので!!(必死)
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