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◆第1章 ゆっくりと籠に堕とされていく金糸雀

001.女たちの仁義なき戦い、を見つめる私

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*初心者です。お手柔らかに。
*ムーンライトノベルズ様でも公開しております。
*このお話はR18です。18歳未満の方はお引き取りを。

◇◆


「うわあ、またやってるよ」


 アリス・シェッドスフィアは、今日も今日とて彼女たちのお互いに手は出さないくせして、割と激しい攻防を傍観していた。


 傍から見ればベンチに座ってのんびりと日向ぼっこをしている可憐なご令嬢であるが、アリスの視線をよく辿ってみる。そこには何とも恐ろしい女の戦いが繰り広げられており、彼女の視線はそれに釘付けだ。アリスはニコニコと幸せそうに笑いながらその光景をただ見ていた。



「殿下に近づかないで下さる?殿下はとても忙しいお方であるというのに、貴女は殿下の周りをウロウロと......」

(おお、エイダ様。遠目からでも怒ってるのが丸わかりだわ。今日も可愛い、美しい。素敵です。うふふ)

「ええ~。殿下はとっても懐の広い方であるというのに、エイダ様はと~っても狭いのね。私はただ殿下のお手伝いがしたいだけで~」

(わあ、ミラさんはミラさんで今日も調子よくクネクネしてるなあ。喋り方もあのエイダ様を煽ってて尊敬しちゃうなあ。相変わらず声がとっても可愛らしい)



 といった風にアリスは2人やその取り巻きが学園の至る所でバチバチしているのを観戦することが好きという、なんとも奇特な趣味があった。


 ちなみに恋愛対象はもちろん男性である。しかし、目の保養の対象は女性で、年齢・容姿・性格問わず自分の中での好きな点を見つけて、それを眺めて、心の中で勝手に「うふふ」と笑うのが好きである。本当に奇特である。



「__......シェッドスフィア嬢」


(わあ、あの二人次は殿下じゃなくて、殿下の側近候補を取り合ってる......。まあどちらも殿下の婚約者ではないものね。殿下の婚約者は確か卒業式から少し経ったくらいに決めるとか何とか......)


「……シェッドスフィア嬢」
「えっ!?...あ、はい!」
「.....やっとこっちを見ましたね」
「お、オーウェン様。いつからそこに......」


 ようやく誰かに呼ばれていることに気がついたアリスは、慌ててそちらを向いた。そこには最近見慣れた顔があって、内心またやらかしたと焦る。


「いつから、ですか。......5分は経ちますね」
「あらまあ......」


(以外に咄嗟に言葉が出てこない......)


 アリスは思わず苦笑を零す。つられてオーウェンも「はは」と笑う。2人は暫し意味もなく笑い合った。ただただ笑い合った。


(うん。何話していいか分からないわ.....)


 アリスはまだまだ続く闘いに視線を戻した。いつものようにニコニコとしながら、バチバチ火花の散る血の流れない戦場を見つめ、オーウェンはそんなアリスをニコニコとしながら見つめる。


 そんななんとも不思議な光景が最近よくひっそりとだが繰り広げられている。


(うーん、視線が痛いわ.....)


 穴が開きそうなほど見つめられるため、最初はそれはもう死ぬほどドキマギしていたが流石に慣れた。ここ2週間ほどオーウェンはアリスの横を陣取ると、気が済むまでそばに居るのだ。理由はよく分からない。正直そこまで興味がない。


「今日も素敵ですね」
「ですね。とってもいい天気だわ」
「......」
「......」


 アリスは時々オーウェンから発される言葉も聞くように注意をしながら、相変わらず自分の何とも奇妙な趣味を楽しむことにしている。ただ彼の言葉の意図をよく捉えていないので、返しはちょっと斜め上だ。それでもオーウェンは笑顔を崩さずアリスを見つめた。



 最近アリスの趣味である名付けて『バチバチ!!女の仁義なき闘いを傍観する時間』に邪魔......と言ったら流石に無礼か。うん、不敬だな。__......えっと、新参者(?)が現れた。


 その名もオーウェン・オーリアノッド。何を隠そう彼はこの国、オーリアノッドの第3王子様である。オーウェンは1つ上の王太子殿下(エイダとミラが先程まで争ってた原因のお方)の弟君だ。


 オーウェンは第2王子と双子である。ちなみにオーウェンの双子の兄である第2王子のお名前はルーカスだ。2人とも顔立ちはそれなりに似ているが、髪型が全然違うので見分けるのは簡単だ。後は目の色の深さ?濃さ?が違うと個人的に思う。



「ねえ、シェッドスフィア嬢...」
「はい、なんでしょうか?」


 アリスが女たちの闘いを見るのに割と気が済んできたところを見計らったかのようにオーウェンが声をかける。アリスは首を傾げながら、オーウェンの方を向いた。


「髪に何か付いてますよ....。取るからじっとしてて」
「はい、分かりました」


 アリスはオーウェンに言われた通りじっとする。オーウェンが身体ごとアリスに近づいてきた。


(ん?何だか近くない?)


 アリスは少し不思議に思ったが、親切にしてくれている相手に失礼かと思い、そのまま無言で固まる。オーウェンが1番近づいてきたその時、何やら「きゃー」だの「うぉおお」だの黄色い歓声やら野太い声やらが聞こえてきて、そちらが気になってしまう。


(何?もしかして先程の闘いに新たな風でも吹いたの?)


 アリスはその正体が知りたくて、動けないほんの僅かな時間ですら惜しかったが、相手が相手であるので我慢する。ようやくオーウェンが離れた。


「取れましたよ。うん、もう大丈夫」
「ありがとうございます。オーウェン様」


 オーウェンはアリスから離れるなり意味深に笑って、それからペロリと自分の唇を舐めた。その行動に「??」とアリスがなった時、また「キャーー」だとか「うぉおお」とかいった声が聞こえて、今度こそアリスはエイダやミラがいた方を見やった。


(ん?あれ?)


 しかし、既にそこには2人やその取り巻きはいない。先程までの火花が嘘であったかのように先程まで見つめていた場所には何も見えなかった。


(え?じゃあ一体どうしてあんなに歓声が上がっていたのだろう?)


 歓声を上げたであろう学院の生徒たちに視線を移す。彼ら彼女らは何故かこちらをちらちら伺っているようだ。


(何?何で?……ああ。ここにオーウェン様がいるからみんな見ているのかしら?)


 何故こちらをちらちら見てくるのかがよく分からず、アリスは首を傾げる。あの目立つ2人とその取り巻きがいなくなったことで、どうやらオーウェンに視線が移ったようだ。アリスはそう考えることにした。


「シェッドスフィア嬢、そろそろ中に入りましょう。最近は体調は良さそうですが、今日は少し風が冷たい」
「確かにそうですね。そろそろ入りましょうか」
「ええ」

 アリスは幼い頃よりあまり身体が強い方ではない。成長し少しはマシになったが、たまに無理をすると高熱に倒れることがあるのだ。


 過保護な両親や兄たちのせいでそのことが割とほかの貴族に知られているため、アリスの体調を気遣ってくれる人は有難いことに多くいる。ただこれに関してのアリスの噂が少し尾ひれがつきすぎていて「どうしたものか」となることもあるにはある。



「どうぞ、手を」
「お気遣いありがとうございます」
「当然のことです」


 先に立ち上がったオーウェンがアリスに手を伸ばしてきた。アリスは有難くその手に自分の手を置き立ち上がる。それからゆっくりと学院の中に向かって歩き出す。ゆったりとアリスの歩幅に合わせて歩くオーウェンに心の中で「流石だわ」と思いながらアリスはそっとその横顔を見上げた。



 ◇◆



「あ、アリスさん!」
「あら、どうされたの?」
「わたくし、わたくしバッチリ見ましたわっ!」
「??」


 教室に入るなりアリスと仲の良いご令嬢の1人が声を掛けてきた。何故か興奮しているらしい彼女の頬がふんわり色付いている様に「可愛らしいわ」と相変わらず心の中で考えながら、話を聞く。


(バッチリ見た?.....一体何を?私の知らないうちに何か面白いことでもあったのかしら)


 アリスは彼女の顔をぱちぱちと瞬きをしつつ見つめる。彼女はそんなアリスに対してにーっこりと笑みを深くした。


「オーウェン様と北校舎近くのベンチで、そ、その。き、キスされていたでしょう?」
「...........へ?」
「そんな顔をしても見た方は沢山いますのよ?」
「...?オーウェン様と誰が口付けを?」
「だからオーウェン様とアリス様が!」


(待って、待って!どういうこと?私がいつオーウェン様と口付けを??)


 アリスはポカンと彼女を見つめながら、必死に『北校舎近くのベンチ』というワードに関する記憶を検索しては引っ張り出す。それは簡単に見つかった。だって経った数十分前の出来事だ。



 __『髪に何か付いてる...。取るからじっとしてて』


(タイミング的にはアレしかないわよね.....)


 アリスはオーウェンがとった行動の中で1番の密着した瞬間を思い出す。そういえば距離がものすごく近かった。角度を変えればそんな風に見えたかもしれない。そして、あの後すぐの意味深に唇を舐めた仕草__。


(いや、まさか。オーウェン様に限ってそんな計画的なことなさるはずが.....)


「ご、誤解ですわ。髪に付いていたものを取ってもらっただけで」
「もう、照れなくていいですわよ。お似合いではないですか。誰も2人の間柄を疎むことはしないと思いますよ」


(いや、疎む疎まないの心配の前に、まずその口付け云々が誤解なんだってば.....)


 アリスを見て、「うふふ」と笑った彼女は「応援していますわ」と残してさっさと席に着いてしまった。その場に残ったままのアリスは、色々な人から刺さる生暖か~い視線に気が遠くなりそうだった。


(な、なんということ.....。この視線の感じ、みんな私とオーウェン様がキスしたと思ってない?)


 そんなことを思いながらそっと視線を彷徨わせる。パチリと目が合った友人の何人かが、こっそりウィンクしたり、「お・め・で・と♡」と言った具合に口パクを寄越したりしてくる。


 そんな中、この時間同じ授業を取っているオーウェン様の双子の兄であるルーカス様だけは「ごめんな」という風に小さく頭を下げてきた。


 教室の生暖かい雰囲気の居づらさと、王族の方に頭を下げさせたことへの罪悪感を抱えながらアリスはようやく自分の席に着いた。



 __悪役令嬢VSヒロインの攻防の片隅で、確信犯並びに計画的犯行を行ったオーウェンとの攻防がゆっくりと開幕していく。


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