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◆1章.永遠の微睡みを揺蕩う

002.この世界の(私にとっては)びっくりな常識

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「そういえば"魔王様"って何歳だっけ?」


 婚約の手紙が届いた翌日、流石に不貞腐れるのにも疲れながらいつも通り遅起きした私はヴィルデにそう尋ねる。

 ヴィルデや兄たちが隣国の皇太子であるノア殿下のことを"魔王様"と昨日も今日も呼んでいたので、セシーリアもついついそう呼んでしまっていた。


「んー、確か25歳?26歳?だったかな?俺の"半分"も生きてないんだなー。まだまだ若造だね」
「25歳ですよ。そう言うヴィルもまだまだ若造ですけどね」
「そういや、ラーシュって何歳だっけ」
「152歳ですね」
「なーんだ。まだ100歳代なら若いじゃん」


(前世だったら耳を疑う会話だわ……)


 素晴らしい美形でニコニコしているヴィルデとラーシュの会話に私は思わずそんなことを考える。


 そう。前世の記憶がある私にとっての「この世界のビックリ案件 その1」は、世界の平均寿命が学園の教科書曰く"大体500歳ほど"であることだ。

 国や大陸、種族でも違うので、国ごとに見れば寿命が100歳ほどの前世の世界に近い国や、逆に数千歳ほどの国もある。だから世界の平均寿命が500歳となっているけれど、私の国や隣国の寿命はもっともっともっと長い。

 まあだからといって数百年、数千年という歳月はやはりとても長いらしいけど。1000歳くらいまで生きるからと言って、成人年齢は国にもよるが大体18歳ほどだ。


 うちの国では基礎教育とか含めて学ぶ学校が12歳から16歳までで、貴族のそれからの生活は家の手伝いや自分磨き、旅、冒険者をする、色々な学問を学びに学校に通う、興味のあることの研究をする、お茶会やパーティーなどで社交をする、などさまざまだ。

 親があと数百年は元気そうなら貴族の男子でも普通に冒険者になって各国を飛び回ったりするし、女子だとお金があれば各国の美容やらファッション、健康などを学びに行ったりする。

 ちなみに習い事も人生長いからか平民、貴族問わず盛んだったりする。


 若いうちは割と色々と好きに生きてる人が多いので、普通に300歳を超えて初めての婚姻だとかの人も多い。寧ろよく考えたら私のように10代で婚約や結婚(私は今のところ予定だが)する人の方が圧倒的に少ない。

 見た目もある一定の年齢超えるまでほぼ変わらず若いままなので、見た目は20代の超イケメンな貴公子が「最近、孫が生まれてさ。可愛くって」的な話をしているのを聞いた時には、分かっていても普通に混乱した。

 見た目がおじさん、おばさんくらいだとその国にもよるが大体700~900歳の間くらいで、おじいちゃん、おばあちゃんな見た目の人はさらに上だ。だが、数千歳でも見た目が30代な人もいるので、正直見た目は全く年齢の判別の参考にならない。


 私、セシーリアは18歳、相手は25歳。7歳差なんて前世で言う感覚だとほぼ同級生だ。世の中には数百歳差カップルもたくさんいらっしゃるので。

 ちなみに平均寿命が約1000歳とちょっと(正確な数字は知らない)のこの国で、私の侍女エミリーは50歳、護衛騎士のラーシュは152歳、護衛兼侍従のヴィルデは53歳である。ちなみにヴィルデは平均寿命が約1200歳くらいの遠い国出身なので感覚がまたちょっと違うみたいだ。

 みんないい年齢だなって感じだけど、全然若造だ。まだまだ前世の記憶が軽く存在する私の頭は混乱する。前世の年齢足しても全然この世界ではおばちゃんにすらなれない。


「皇太子とかってもうちょっと年月経ってから婚約しないっけ?慎重に選ぶとか何とかで……」
「うーん、やっぱりどうしてもお嬢じゃないとダメな理由があるとか?」


 昨日から何回か口にした疑問を思わずぽつり。


 王族とかの人って、国王様が元気なうちは100歳超えてからようやく婚約候補決めて~とかっていう国もあるのに何故まだ2桁の年齢でこんなことになってるんだ?

 確かに結婚適齢期は16歳からではある。16歳で結婚する人なんて滅多にいないけど。そういえば友人でまず20代までに結婚した人いない気がする。


 父は今120歳、母は100歳、長兄が48歳で次兄が30歳、それで私が18歳だ。

 何か普通に考えたら凄い数字だけど、まあ一般家庭の年齢差である。寧ろこんなに若い年代ばかりの家庭が珍しい。父方の祖父母が急逝したために、ものすごく若いうちから家を父が継いだためにこうなったのだが、他の家は特に両親の年齢は高めだ。

 ちなみに早くに結婚すると凄い子沢山になりそうなイメージもあるが、残念ながら前世よりも子どもができる確率は低いみたいなので、結婚するタイミングを見誤ると後継問題が大変になることもあるとかなんとか。


「相当訳アリか、お嬢に他に嫁いで欲しくないんでしょうね。早めに跡継ぎ欲しい状況とか?」
「まあ一応皇太子様だし、早めに跡継ぎができるのは良いかもだけれど、その相手候補が私というのが分からないわ。私に他に嫁いで欲しくないなら、婚約者をしばらく続けるだけで良いだろうし」
「お嬢はほら、魔法と体質が逆に特殊過ぎるからそれを見込まれたとか?」
「うーん、そうなのかなあ」


 散々言っている"私の体質"というのは、簡単に言うとめちゃくちゃ寝ることにある。1回の睡眠時間が人より長いし、お昼寝の回数も多い。小さい頃なんか早寝、遅起き、朝食、ちょっと活動、昼寝、活動、昼食、昼寝、活動、昼寝、夕食、早寝、遅起き……のサイクルで生きていた。いや、もっと昼寝の回数が多かったかもしれない。

 とにかく、2人の兄たちと比べるとさすがに異常だと思ったらしい両親が医者やら神官やらに見せたところ、どうも私の魔力には"癒し"の力が多いらしい。そして魔力も常人の数倍以上ある。

 癒しの力を含んだ大量の魔力が体内を巡っているせいで、常日頃から眠いのだ。もちろん人の傷を癒したりなどの力は割と貴重なのでありがたいが、"付属性質デメリット"が"過眠体質?"お昼寝体質"?的なやつなので、ちょっとなんだかなあって感じだ。

 まあ、いくら魔力量は多くても、珍しい魔法は使えてもこの"デメリット"のお陰で私は扱いづらいはずだ。見込まれることなんてあるだろうか。


「隣国でも"眠り姫"の異名を轟かせます?」
「いやよ、恥ずかしい」


 そう、私の二つ名?的なものは"眠り姫"なのだ。まあ、よく寝てるからそう呼ばれるのは仕方ない。でも、良い歳して"姫"って付くと恥ずかしくない?この感覚私だけなの?

 ちなみに、前世の世界の価値観だと字面は、めちゃくちゃ怠惰なご令嬢だよねー。分かるわぁ。寝てばっかりのぐうたら令嬢。そう僻まれそうだが、この世界はちょっと違う。この世界では、自分の持つ魔力の属性で最も強いものの"デメリット"を被る者が一定数存在するのが常識だ。


 "デメリット"は魔力量が多ければ多いほど顕著に出る。私のように自分の魔力の影響を体質にもろに受けている人がいるので、学園生活でも意外と周りから何も言われない。小っ恥ずかしい異名は付いたけどね。

 例えば、氷魔法に特化したタイプだと常に冷え性だとか氷使いのくせに寒がりだったりするし、逆に寒さに対して無敵になる。他の例だと、私のように癒しの魔力がある場合はどんな怪我も忽ち治るなんて体質の人もいる。

 そう、"デメリット"という呼び方の癖して、人によっては明らかに利のある体質になる者がいるのだ。普通に混乱するから最初に名付けた人はタンスの角に小指を思いっきりぶつけて欲しい。


「やっぱりこんな"デメリット"持ってるのになんで手紙が来たのか分からないっ」
「まあまあ、お嬢」
「ん?」
「諦めが肝心ですよ」


 相変わらずニコニコ顔のヴィルデがそう言ってくるので、また枕を投げた。


「おっと」


 残念ながら今回は簡単に掴まれてしまった。


「うう、ヴィルのアホ」


 私は、ベッドのシーツに顔を押し付けてモゴモゴとそう言い放った。
 
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