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◆1章.永遠の微睡みを揺蕩う
001.眠り姫はどうやら魔王様を引っ掛けまして
しおりを挟むR18です。18歳未満の方はお引き取りくださいませ。
◇◆◇
「なんで、なんでなのっ!」
__私は何故か昔から変なものによく好かれた。
興味あるもの以外は全て無視の奇人と名高いとある教授、学園の美術室に出るゴースト、私を手違いで誘拐した盗賊の頭、深淵の森に住むドラゴン、元暗殺者に、滅多に人の目に映りたがらない精霊、__……。
挙げれば挙げるほど一般人が中々会う機会もないようなものばかりに色んな意味で好意を向けられてきた。
体質上、人よりも外での活動はしていない割に何故かよく分からないものがいつの間にか周りに溢れているのだ。
最初はビビり散らかしていた両親も兄たちも屋敷の使用人たちも段々と慣れてきた訳だが……。
「いやあ、お嬢。一体どこから引っ掛けてきたんですか?"噂の魔王様"なんて……」
「知らないわよぉぉ!」
私、セシーリア・デュアラーツはそう叫びながらベッドに突っ伏した顔を上げて侍従兼護衛のヴィルデを睨んだ。
彼は目が合うなり「現状が心底面白い」とでも言うように真っ赤な目を三日月型に歪めニヤニヤ笑っている。
それにムカついたので枕をポイッと投げてみたが、軽く避けられた。流石"元暗殺者"だ。動きが無駄に滑らかなことにはムカつくけれど。
まあある程度鍛錬している者なら、"ひ弱な乙女"の投げた"ただの枕"なんて避けられるだろう。その"ただの枕"は彼を通り過ぎて後ろの壁にドゴッと大きな音をして落ちている。私付きの侍女エミリーは冷や汗をかきながらその枕を横目に見ていた。
「お嬢、言っとくけどさ、アンタ全然か弱いお姫様じゃないからな」
「うるさい」
確かにふわふわと軽めの枕投げただけてあんな大きな音は中々出せないだろう。
「いつもいつも寝てんのに、どっからそんな力が出てんのか不思議だわ……」
「そうよ。なんでいつもいつも寝て過ごしてるはずの私のところに"あんなもの"が届いてるのよ……!」
今日の朝、私の元に届いたのは求婚の手紙である。しかも相手は隣国の皇太子ノア殿下だ。この国の国王の元をしっかりと介して手続きされて運ばれてきた手紙の内容は要約すると「私と婚約したい」というものだった。
「どっかで会ったことありましたっけ?」
「……ないわ。"魔王様"だの"悪魔"だのと噂の皇太子様と会ったことがあるなら覚えているはずだもの」
そう。求婚してきた皇太子殿下は大陸中に"おっそろしい~"噂や異名を持つ方だ。まだ皇太子であるはずなのに皇帝よりも存在感がある気がする。
隣国は存在自体が昔から随分と様々な分野で恐れられ、そしてその技術力から羨まれている。
この国と隣国は何故か昔から随分と仲が良い。期間で言うと数千年単位で仲が良いらしい。前世の記憶からそれを考えると気が遠くなりそうだ。
他国だと彼の噂で民はビクビクするだろうが、この国との仲が良いので、うちの国の人達は「いやあ、おっそろしいねー」と笑うだけだ。
とにかく何故か仲が良いので、お互いの国の貴族や王族で婚姻を結んでいたりもするのだが、今回は何故私が選ばれたのか全く分からないのだ。
「本当にないんですか?……ほら、物語でよくあるやつとか?なんだっけ?小さい時に会ったことあって、結婚の約束してたとか」
「小さい頃は今よりも眠気が酷くて社交の場に出るようになったのは学院に入学する直前なの。もう知ってるでしょ?」
その頃にはもうヴィルは私に付いているのだから、彼が知らないなら私は知らない。だから会ったことなどある訳ないのだ。
「ふうん。じゃあどうしてお嬢なんでしょうね?」
「本当にね。この体質じゃ王族だとか皇族だとかには向いてないのに」
「しかも向こうの国、余程のことがない限りは一夫一婦制ですよ?」
「そ、そうだったわ……!え、なんで私なの!ねえ、なんで?ヴィル」
ヴィルデの愛称であるそれで彼を呼ぶと、首を傾げつつも相変わらずニコニコとしている。いつも軽いが、こんな話題でも変わらない態度で寧ろ安心してしまった。
「本当にどうしてでしょうね?流石に向こうもお嬢の体質は知っているはず。というか国王を介して手紙が来ている時点である程度の個人情報流れてますよ」
「そうよね。お父様が一応私の縁談見繕うのに出している情報と私の体質と魔法に関しては知られてそう」
前世よりもちょっと個人情報の扱いは緩いが、もちろん機密を発信しているわけではないし、調べればわかる内容が多い。
貴族や王族の結婚はお互いの利だとか血だとか昔の縁からのものが多いので、婚約する前や婚約の際にそれ相応の情報を互いに渡している。
ちなみにお互いの情報に関しては、関係者以外に漏らせないような工夫が手紙に魔法で施されている。悪意を持って周りに広めることはできないし、婚姻を本当に結ばないなら見た者から忘却させるような魔法も掛かるらしいので、魔法って本当に凄い。
「しかも婚約から結婚までの期間が半年って何!?普通最低でも1年、長くて"数十年"でしょ?」
「何かお嬢の能力か血筋か人柄かで相手がどうしても結婚したいところがあったんでしょ」
「人柄は会ったことないから、能力か血筋よね。能力は……、癒しの力が欲しいのかしら?でも向こうにも優秀な治癒魔法ができる方は沢山いるだろうし、血筋は……」
と、色々と考えてみるが全く検討もつかない。私の体質が王妃だとか皇太子妃だとかに向かないと分かっているはずだろうに私を選んだ理由が本当に謎だ。
確かに早い子だと小さいうちから縁談のための情報を親が出しているが、婚約の話はでても、結婚じたいは割と"遠い未来"の話だったはずなのだ。この前までは。
「ま、……セシーリアお嬢様。ご婚約おめでとうございます。私、ヴィルデたいっへんに感激しておりま~す」
「お嬢様、おめでとうございます~」
「おめでとうございます」
急に「コホン」と咳払いをして畏まったヴィルデと、ヴィルデとの会話をずっと黙って聞いていた侍女のエミリーと護衛騎士のラーシュもぱちぱちと拍手をした。みんな反応が軽い。
確かに他人事だろうけど、向こうが許可してくれれば私専属のあなた達も漏れなくこれからずっと関わる相手だぞ。本当に結婚するなら。
「……うう、寝る。もう寝ます」
「ありゃ、拗ねました?」
不貞腐れてベッドに突っ伏すと、3人が苦笑する声が聞こえてくる。
(いつかは婚約や結婚する、とは思ってたけど私は"まだ18歳よ"。早すぎる……。しかも相手は隣国の皇太子って荷が重すぎるわ)
前世とは違い、"この世界の常識"ではあまりにも早い婚約にセシーリアは深く息を吐いた。
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