上 下
20 / 55
四章

モラハラ再びと、決心3

しおりを挟む

言えなかったわたしは、それから十年以上、すこしピリピリした朝を迎えている。

すべて準備し終わって、テーブルにほかほかの朝食が並ぶ。6時半、裕一が出てきた。わたしはいつもより大きく「おはよ」と声をかけた。
彼は訝しげにこちらを見て、ふん、と言ったような顔で頷くと黙って食卓につく。

わたしは、そんな彼の様子を見てひとつ、心を決めた。

(やっぱりちゃんと次のパート探そう。正社員じゃなくても、なんでもいい。ネットのハンドメイドショップだけじゃなくて、外に出よう)

昨日のことは、もう話すタイミングを失ってしまったし、話しても良い反応なんて期待できない。自分のお金で妻が遊んでいると愚痴る感覚のひとに、楽しかったなんて言えるわけがなかった。



 リビングのテーブルに朝日が差し込む。夫は丁寧に箸を使い黙々と食事をとっていた。
わたしはキッチンで洗い物をはじめる。穏やかな朝の食事風景。
「今日は、帰っても夕食なにもない、なんてことはないよね? さすがに」

食事を終えると、ネクタイを締めながら彼は咎めるような口振りで尋ねてきた。また、昨日の電話での会話が頭に浮かんでとっさに「ごめん」と出そうになるのをどうにか踏ん張って、ゆっくり頷く。

「うん。今日は予定ないから」

 そういえば、あの電話。誰と話していたのだろう。

ふと、そんな疑問が頭に浮かんだけれど、なぜか尋ねることはできなかった。

穏やかな朝なのは、外側だけだ。互いに伝えたいことが違いすぎて、相手が地平線の向こうにいるように遠い。歩み寄る努力をしなければと言うけれど、わたしにはあまり自信がなかった。



裕一が出かけたあと、わたしも朝食を取ってから、さっそく吉村さんへのメールを書きはじめた。昨日のお礼と、Blueのオーナーが同じ高校出身だったことを伝える。彼女のびっくりする顔が浮かんですこし楽しい気持ちになった。

(そういえば吉村さん、次の仕事が決まりそうって言ってたよね。まだ求人してるか聞いてみよう)

 文面を確認してからメールを送信する。それから洗濯機を回し、部屋の掃除を手早く済ませる。家事にひと段落つけたわたしは、コーヒーを淹れてパソコンを開き、携帯と両方で求人サイトのチェックをはじめた。

数時間後。
わたしはがっくりとうなだれて画面を見つめていた。
(なかなか、見つからない)
主婦に人気の店などは希望の時間帯がすぐに埋まってしまい、面接までもたどり着けなかった。
前が飲食店のホール業務だったから、やっぱり経験のある職種のほうがいい。
(でも、選り好みしてちゃダメだよね。もっと範囲を広げてみよう)

だが、電車で二、三駅、夕方までの時間帯、となるとやはり限られてしまう。わたしは冷たくなったコーヒーを口に含み、ため息をついた。

そこへ、メッセージアプリの通知音が鳴った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました

せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜 神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。 舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。 専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。 そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。 さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。 その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。 海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。 会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。 一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。 再会の日は……。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

【完結】堕ちた令嬢

マー子
恋愛
・R18・無理矢理?・監禁×孕ませ ・ハピエン ※レイプや陵辱などの表現があります!苦手な方は御遠慮下さい。 〜ストーリー〜 裕福ではないが、父と母と私の三人平凡で幸せな日々を過ごしていた。 素敵な婚約者もいて、学園を卒業したらすぐに結婚するはずだった。 それなのに、どうしてこんな事になってしまったんだろう⋯? ◇人物の表現が『彼』『彼女』『ヤツ』などで、殆ど名前が出てきません。なるべく表現する人は統一してますが、途中分からなくても多分コイツだろう?と温かい目で見守って下さい。 ◇後半やっと彼の目的が分かります。 ◇切ないけれど、ハッピーエンドを目指しました。 ◇全8話+その後で完結

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

旦那様が不倫をしていますので

杉本凪咲
恋愛
隣の部屋から音がした。 男女がベッドの上で乱れるような音。 耳を澄ますと、愉し気な声まで聞こえてくる。 私は咄嗟に両手を耳に当てた。 この世界の全ての音を拒否するように。 しかし音は一向に消えない。 私の体を蝕むように、脳裏に永遠と響いていた。

処理中です...