6 / 9
6. まさかの提案
しおりを挟む
「これで大丈夫か?」
完全に魔力暴走が治まった時、真っ先に視界に入ったのはさっきから聞こえていた声の主であろう、金髪の青年だった。
「あ、あなたは……?」
「その前に、体は大丈夫か? 相当な量の魔力が暴走していたが……」
「だ、大丈夫です。あなたが暴走を抑えてくれたのですか?」
「あぁ。あのままだったら死んでいただろうからな」
さらっと言われて背筋が凍る。危ないところだった。
慌てて着ていたドレスの裾を持って頭を下げる。
「助けてくださりありがとうございます。お名前を伺っても……?」
「あぁ、俺の名はヴァール。君はティアラ王女であっているかい?」
「は、はい」
名前を知られていることに驚く。同時に私は警戒する。助けてくれたわけだし良い人なのだろうが、名前を知られていること、それにそもそもこんな時間に訪ねてくるーー窓が開いているし窓から入ってきたのだろうーーことを不審に思わないわけがない。
そのことに気づいてか、ヴァールは苦笑した。
「そんなに警戒しないでくれ。俺はただ、君を助けに来ただけだ」
「助けに?」
「さっきの様子だと、儀式の生贄になること、知ってしまったんだろう?」
思わず黙る。私の魔力が暴走したのは彼の人生を壊してしまったことを知って絶望したから。だが、生贄になることを知ったのも間違いではない。
しかし、そもそもなぜヴァールがそのことを知っているのか。
「俺は、隣国クワロン王国の者だ。我が国の間者から報告が上がってな。近々儀式が行われ、それの生贄にティアラ王女がなる、と」
「……そんなこと、私に言ってもよろしいのですか?」
「問題ないだろう? 知ったところで君にどうこうできるものではないのだから」
睨むが、ヴァールは飄々とした態度を崩さない。悔しいことに図星だった。
これ以上その件を追求してもしょうがない。私は気になっていることを聞くことにした。
「それで、助けにとは具体的にどういうことですか?」
「災いを治めるため、と言ってこの国は数十年に一回、ひどい時は数年に一回、儀式を行ってきた。そして今回、君を生贄として行おうとしている」
「……はい」
「だが、災いを治めるために儀式は必要ない。これは国王が力を手に入れるために行なっているということを我が国は突き止めた」
「っ!」
驚くことしかできない。そこまで突き止めているとは、クワロン王国は相当諜報に長けているということだ。
「だから、君に一個提案があるんだ」
「……なんでしょう?」
にこりと笑みを浮かべるヴァールに悪い予感がする。だが、私が助かるためにはその提案を聞くしかない。儀式に連れて行かれる前に逃げ出すことは可能だが、一生逃亡生活だろう。そうなるわけにはいかない。
「我が国はすでにこの国に攻め入る準備ができている」
「っ!?」
「国王を始め王宮が儀式に気を取られている間に我が国はこの国に攻め入り儀式を阻止、同時に儀式の本当の意味を民衆に知らしめ、二度とこのような儀式が起きないようにする」
ーー手伝ってくれないか?
思わずその力強い瞳に見入る。星空を背景に立つ彼は神秘的な美しさをまとっていた。なぜだろう、一瞬、ヴァールが彼に見えた、愛しいあの人に。
だからだろうか、私が頷いてしまったのは。この、無謀な計画に同意してしまったのは。
完全に魔力暴走が治まった時、真っ先に視界に入ったのはさっきから聞こえていた声の主であろう、金髪の青年だった。
「あ、あなたは……?」
「その前に、体は大丈夫か? 相当な量の魔力が暴走していたが……」
「だ、大丈夫です。あなたが暴走を抑えてくれたのですか?」
「あぁ。あのままだったら死んでいただろうからな」
さらっと言われて背筋が凍る。危ないところだった。
慌てて着ていたドレスの裾を持って頭を下げる。
「助けてくださりありがとうございます。お名前を伺っても……?」
「あぁ、俺の名はヴァール。君はティアラ王女であっているかい?」
「は、はい」
名前を知られていることに驚く。同時に私は警戒する。助けてくれたわけだし良い人なのだろうが、名前を知られていること、それにそもそもこんな時間に訪ねてくるーー窓が開いているし窓から入ってきたのだろうーーことを不審に思わないわけがない。
そのことに気づいてか、ヴァールは苦笑した。
「そんなに警戒しないでくれ。俺はただ、君を助けに来ただけだ」
「助けに?」
「さっきの様子だと、儀式の生贄になること、知ってしまったんだろう?」
思わず黙る。私の魔力が暴走したのは彼の人生を壊してしまったことを知って絶望したから。だが、生贄になることを知ったのも間違いではない。
しかし、そもそもなぜヴァールがそのことを知っているのか。
「俺は、隣国クワロン王国の者だ。我が国の間者から報告が上がってな。近々儀式が行われ、それの生贄にティアラ王女がなる、と」
「……そんなこと、私に言ってもよろしいのですか?」
「問題ないだろう? 知ったところで君にどうこうできるものではないのだから」
睨むが、ヴァールは飄々とした態度を崩さない。悔しいことに図星だった。
これ以上その件を追求してもしょうがない。私は気になっていることを聞くことにした。
「それで、助けにとは具体的にどういうことですか?」
「災いを治めるため、と言ってこの国は数十年に一回、ひどい時は数年に一回、儀式を行ってきた。そして今回、君を生贄として行おうとしている」
「……はい」
「だが、災いを治めるために儀式は必要ない。これは国王が力を手に入れるために行なっているということを我が国は突き止めた」
「っ!」
驚くことしかできない。そこまで突き止めているとは、クワロン王国は相当諜報に長けているということだ。
「だから、君に一個提案があるんだ」
「……なんでしょう?」
にこりと笑みを浮かべるヴァールに悪い予感がする。だが、私が助かるためにはその提案を聞くしかない。儀式に連れて行かれる前に逃げ出すことは可能だが、一生逃亡生活だろう。そうなるわけにはいかない。
「我が国はすでにこの国に攻め入る準備ができている」
「っ!?」
「国王を始め王宮が儀式に気を取られている間に我が国はこの国に攻め入り儀式を阻止、同時に儀式の本当の意味を民衆に知らしめ、二度とこのような儀式が起きないようにする」
ーー手伝ってくれないか?
思わずその力強い瞳に見入る。星空を背景に立つ彼は神秘的な美しさをまとっていた。なぜだろう、一瞬、ヴァールが彼に見えた、愛しいあの人に。
だからだろうか、私が頷いてしまったのは。この、無謀な計画に同意してしまったのは。
11
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
その断罪、三ヶ月後じゃダメですか?
荒瀬ヤヒロ
恋愛
ダメですか。
突然覚えのない罪をなすりつけられたアレクサンドルは兄と弟ともに深い溜め息を吐く。
「あと、三ヶ月だったのに…」
*「小説家になろう」にも掲載しています。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
攻略対象の王子様は放置されました
白生荼汰
恋愛
……前回と違う。
お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。
今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。
小説家になろうにも投稿してます。
悪役令嬢っぽい子に転生しました。潔く死のうとしたらなんかみんな優しくなりました。
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したので自殺したら未遂になって、みんながごめんなさいしてきたお話。
ご都合主義のハッピーエンドのSS。
…ハッピーエンド???
小説家になろう様でも投稿しています。
救われてるのか地獄に突き進んでるのかわからない方向に行くので、読後感は保証できません。
死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話
みっしー
恋愛
病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。
*番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!
悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい
みゅー
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生していたルビーは、このままだとずっと好きだった王太子殿下に自分が捨てられ、乙女ゲームの主人公に“ざまぁ”されることに気づき、深い悲しみに襲われながらもなんとかそれを乗り越えようとするお話。
切ない話が書きたくて書きました。
転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈りますのスピンオフです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる