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6. まさかの提案

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「これで大丈夫か?」

 完全に魔力暴走が治まった時、真っ先に視界に入ったのはさっきから聞こえていた声の主であろう、金髪の青年だった。

「あ、あなたは……?」
「その前に、体は大丈夫か? 相当な量の魔力が暴走していたが……」
「だ、大丈夫です。あなたが暴走を抑えてくれたのですか?」
「あぁ。あのままだったら死んでいただろうからな」

 さらっと言われて背筋が凍る。危ないところだった。
 慌てて着ていたドレスの裾を持って頭を下げる。

「助けてくださりありがとうございます。お名前を伺っても……?」
「あぁ、俺の名はヴァール。君はティアラ王女であっているかい?」
「は、はい」

 名前を知られていることに驚く。同時に私は警戒する。助けてくれたわけだし良い人なのだろうが、名前を知られていること、それにそもそもこんな時間に訪ねてくるーー窓が開いているし窓から入ってきたのだろうーーことを不審に思わないわけがない。

 そのことに気づいてか、ヴァールは苦笑した。

「そんなに警戒しないでくれ。俺はただ、君を助けに来ただけだ」
「助けに?」
「さっきの様子だと、儀式の生贄になること、知ってしまったんだろう?」

 思わず黙る。私の魔力が暴走したのは彼の人生を壊してしまったことを知って絶望したから。だが、生贄になることを知ったのも間違いではない。

 しかし、そもそもなぜヴァールがそのことを知っているのか。

「俺は、隣国クワロン王国の者だ。我が国の間者から報告が上がってな。近々儀式が行われ、それの生贄にティアラ王女がなる、と」
「……そんなこと、私に言ってもよろしいのですか?」
「問題ないだろう? 知ったところで君にどうこうできるものではないのだから」

 睨むが、ヴァールは飄々とした態度を崩さない。悔しいことに図星だった。
 これ以上その件を追求してもしょうがない。私は気になっていることを聞くことにした。

「それで、助けにとは具体的にどういうことですか?」
「災いを治めるため、と言ってこの国は数十年に一回、ひどい時は数年に一回、儀式を行ってきた。そして今回、君を生贄として行おうとしている」
「……はい」
「だが、災いを治めるために儀式は必要ない。これは国王が力を手に入れるために行なっているということを我が国は突き止めた」
「っ!」

 驚くことしかできない。そこまで突き止めているとは、クワロン王国は相当諜報に長けているということだ。

「だから、君に一個提案があるんだ」
「……なんでしょう?」

 にこりと笑みを浮かべるヴァールに悪い予感がする。だが、私が助かるためにはその提案を聞くしかない。儀式に連れて行かれる前に逃げ出すことは可能だが、一生逃亡生活だろう。そうなるわけにはいかない。

「我が国はすでにこの国に攻め入る準備ができている」
「っ!?」
「国王を始め王宮が儀式に気を取られている間に我が国はこの国に攻め入り儀式を阻止、同時に儀式の本当の意味を民衆に知らしめ、二度とこのような儀式が起きないようにする」

 ーー手伝ってくれないか?

 思わずその力強い瞳に見入る。星空を背景に立つ彼は神秘的な美しさをまとっていた。なぜだろう、一瞬、ヴァールが彼に見えた、愛しいあの人に。

 だからだろうか、私が頷いてしまったのは。この、無謀な計画に同意してしまったのは。
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