4 / 9
4. もう一度
しおりを挟む
「私が生贄になる必要はなかった……?」
呆然とする。
「私は……国のことを、民のことを思って……」
全てが無意味だった?
「わからない……どういう、こと……?」
拾い上げて必死にページをめくる。文字を拾う度に、私は絶望を覚えるしかない。
しかし、ある一文を見て手が止まった。
「『私は……陛下に詰め寄ったが……気がついたら牢獄の中……これが生贄を差し出した国王の力……私にできることは……』 詰め寄った……? もしかして……」
ハッとする。そこに書かれている文字は確かに見覚えがあった。細くて几帳面な、少し斜めった字。
「あなた、なの……?」
手の甲に冷たいものが落ちる。
私はそこでようやく自分が泣いていることに気づいた。
「私がいなくなったあと、必死に戦ってくれたのね……」
名前も思い出せない彼がこの本を書いたのだと、私はなぜか断言できた。
最愛の人。
かけがえのない人。
人が千年も生きれるわけはないから、会えるわけがないと諦めていた。
けれど……
「こんな、こんなことってっ……!」
『私は明日処刑され……やっと彼女の元に……彼女が守ろうした国を守れなかった……許してくれるだろうか……』
続きの一文は私をさらなる絶望に突き落とすのに十分だった。
「なんであなたがっ……!」
処刑されなければいけなかったの?
その言葉が出ることはなかった。
なぜなら、誰かが入ってきたからだ。
コツン。
「あっ……」
慌てて本を戻そうとして音がなる。入ってきた男が足を止めた雰囲気がした。
「おいっ、誰かいるのか!?」
大きな怒鳴り声に必死に息をひそめる。いくら姿が見えないからって音は聞こえてしまうから、静かに本棚の間で固まっているしかない。
見つかったら一巻の終わり。心臓がバクバク言っていてその音が聞こえないか心配になるほど。
「陛下? どうされましたか?」
最初の声とは別の男の声がした。陛下……最初の声は父である国王のものだったようだ。私は国王に会ったことはない。初めて聞く声だった。
低い声。なぜか私の肌を泡立たせた。
「誰かいた気がするのだが……気のせいか」
「お疲れなのでは?」
「いや、大丈夫だ」
少し安心する。とりあえず彼らがここから出るまで私は出るわけにいかないから、少しでもリスクを減らすために彼らから離れようとした、その時だった。
「儀式の件、どうなっている?」
「はい、着々と進んでおります」
儀式、という言葉に私はピタリと足を止めた。
「あやつには知らせたのか?」
「まだ、知らせていません。数日以内には知らせる予定ですが、事実をそのまま伝えれば抵抗されるかと……」
「ふむ……」
儀式。あの本が本当なら災いを治めるのに儀式は意味がないということだ。儀式……それは国王が力を手に入れるためのもの。
力を手に入れるためだけに、また誰かを生贄に捧げようとしている……?
「嘘を言えばいい。あやつに王女として王宮で暮らすためには儀式を行わなければならないと伝えろ。どうせあやつは聖水のことを知らない。しかも一人で寂しく過ごしていただろうから、こっちで暮らせるとなれば喜んで儀式をするだろう」
王女……そんな……。
「なるほど。さすがでございます」
「私が力を手に入れるためには王族の誰かを生贄にしなければならないからな。せっかく厄介な存在がいるのだ。ちょうどいいだろう」
儀式には王族の血が必要……。そして厄介者といえば私しかいない……。
顔から血の気がサーっと引いていく。
今世もまた生贄にされるのだろうか。
「名目はどうされますか?」
「近々災いが訪れる予兆があり、それを防ぐため、で良いだろう。民は災いを恐れる。戦争や大雨、干ばつは飢えにつながるからな。誰もが納得するだろう」
「さすがでございます。その名目で準備を進めます」
「あぁ、頼んだぞ」
男が出ていく。一人になった国王が呟いた。
「あやつの存在はずっと疎ましかったからな。せめて最後くらい役に立ってもらわねば……」
私の目の前は真っ暗になった。
呆然とする。
「私は……国のことを、民のことを思って……」
全てが無意味だった?
「わからない……どういう、こと……?」
拾い上げて必死にページをめくる。文字を拾う度に、私は絶望を覚えるしかない。
しかし、ある一文を見て手が止まった。
「『私は……陛下に詰め寄ったが……気がついたら牢獄の中……これが生贄を差し出した国王の力……私にできることは……』 詰め寄った……? もしかして……」
ハッとする。そこに書かれている文字は確かに見覚えがあった。細くて几帳面な、少し斜めった字。
「あなた、なの……?」
手の甲に冷たいものが落ちる。
私はそこでようやく自分が泣いていることに気づいた。
「私がいなくなったあと、必死に戦ってくれたのね……」
名前も思い出せない彼がこの本を書いたのだと、私はなぜか断言できた。
最愛の人。
かけがえのない人。
人が千年も生きれるわけはないから、会えるわけがないと諦めていた。
けれど……
「こんな、こんなことってっ……!」
『私は明日処刑され……やっと彼女の元に……彼女が守ろうした国を守れなかった……許してくれるだろうか……』
続きの一文は私をさらなる絶望に突き落とすのに十分だった。
「なんであなたがっ……!」
処刑されなければいけなかったの?
その言葉が出ることはなかった。
なぜなら、誰かが入ってきたからだ。
コツン。
「あっ……」
慌てて本を戻そうとして音がなる。入ってきた男が足を止めた雰囲気がした。
「おいっ、誰かいるのか!?」
大きな怒鳴り声に必死に息をひそめる。いくら姿が見えないからって音は聞こえてしまうから、静かに本棚の間で固まっているしかない。
見つかったら一巻の終わり。心臓がバクバク言っていてその音が聞こえないか心配になるほど。
「陛下? どうされましたか?」
最初の声とは別の男の声がした。陛下……最初の声は父である国王のものだったようだ。私は国王に会ったことはない。初めて聞く声だった。
低い声。なぜか私の肌を泡立たせた。
「誰かいた気がするのだが……気のせいか」
「お疲れなのでは?」
「いや、大丈夫だ」
少し安心する。とりあえず彼らがここから出るまで私は出るわけにいかないから、少しでもリスクを減らすために彼らから離れようとした、その時だった。
「儀式の件、どうなっている?」
「はい、着々と進んでおります」
儀式、という言葉に私はピタリと足を止めた。
「あやつには知らせたのか?」
「まだ、知らせていません。数日以内には知らせる予定ですが、事実をそのまま伝えれば抵抗されるかと……」
「ふむ……」
儀式。あの本が本当なら災いを治めるのに儀式は意味がないということだ。儀式……それは国王が力を手に入れるためのもの。
力を手に入れるためだけに、また誰かを生贄に捧げようとしている……?
「嘘を言えばいい。あやつに王女として王宮で暮らすためには儀式を行わなければならないと伝えろ。どうせあやつは聖水のことを知らない。しかも一人で寂しく過ごしていただろうから、こっちで暮らせるとなれば喜んで儀式をするだろう」
王女……そんな……。
「なるほど。さすがでございます」
「私が力を手に入れるためには王族の誰かを生贄にしなければならないからな。せっかく厄介な存在がいるのだ。ちょうどいいだろう」
儀式には王族の血が必要……。そして厄介者といえば私しかいない……。
顔から血の気がサーっと引いていく。
今世もまた生贄にされるのだろうか。
「名目はどうされますか?」
「近々災いが訪れる予兆があり、それを防ぐため、で良いだろう。民は災いを恐れる。戦争や大雨、干ばつは飢えにつながるからな。誰もが納得するだろう」
「さすがでございます。その名目で準備を進めます」
「あぁ、頼んだぞ」
男が出ていく。一人になった国王が呟いた。
「あやつの存在はずっと疎ましかったからな。せめて最後くらい役に立ってもらわねば……」
私の目の前は真っ暗になった。
11
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説
家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。
その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。
そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。
なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。
私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。
しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。
それなのに、私の扱いだけはまったく違う。
どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。
当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。
貴方の子どもじゃありません
初瀬 叶
恋愛
あぁ……どうしてこんなことになってしまったんだろう。
私は眠っている男性を起こさない様に、そっと寝台を降りた。
私が着ていたお仕着せは、乱暴に脱がされたせいでボタンは千切れ、エプロンも破れていた。
私は仕方なくそのお仕着せに袖を通すと、止められなくなったシャツの前を握りしめる様にした。
そして、部屋の扉にそっと手を掛ける。
ドアノブは回る。いつの間にか
鍵は開いていたみたいだ。
私は最後に後ろを振り返った。そこには裸で眠っている男性の胸が上下している事が確認出来る。深い眠りについている様だ。
外はまだ夜中。月明かりだけが差し込むこの部屋は薄暗い。男性の顔ははっきりとは確認出来なかった。
※ 私の頭の中の異世界のお話です
※相変わらずのゆるゆるふわふわ設定です。ご了承下さい
※直接的な性描写等はありませんが、その行為を匂わせる言葉を使う場合があります。苦手な方はそっと閉じて下さると、自衛になるかと思います
※誤字脱字がちりばめられている可能性を否定出来ません。広い心で読んでいただけるとありがたいです
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
10日後に婚約破棄される公爵令嬢
雨野六月(旧アカウント)
恋愛
公爵令嬢ミシェル・ローレンは、婚約者である第三王子が「卒業パーティでミシェルとの婚約を破棄するつもりだ」と話しているのを聞いてしまう。
「そんな目に遭わされてたまるもんですか。なんとかパーティまでに手を打って、婚約破棄を阻止してみせるわ!」「まあ頑張れよ。それはそれとして、課題はちゃんとやってきたんだろうな? ミシェル・ローレン」「先生ったら、今それどころじゃないって分からないの? どうしても提出してほしいなら先生も協力してちょうだい」
これは公爵令嬢ミシェル・ローレンが婚約破棄を阻止するために(なぜか学院教師エドガーを巻き込みながら)奮闘した10日間の備忘録である。
【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
散財系悪役令嬢に転生したので、パーッとお金を使って断罪されるつもりだったのに、周囲の様子がおかしい
西園寺理央
恋愛
公爵令嬢であるスカーレットは、ある日、前世の記憶を思い出し、散財し過ぎて、ルーカス王子と婚約破棄の上、断罪される悪役令嬢に転生したことに気が付いた。未来を受け入れ、散財を続けるスカーレットだが、『あれ、何だか周囲の様子がおかしい…?』となる話。
◆全三話。全方位から愛情を受ける平和な感じのコメディです!
◆11月半ばに非公開にします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる