4 / 8
4. 手紙
しおりを挟む
翌朝。
「んっ……眩しい……」
陽の光を感じて目を開くと、自分の部屋の天井が目に映る。
「いつベッドに入ったのかしら……っ!?」
昨夜のことを思い出して体が熱くなる。
「私ったらなんてみっともないことをっ……!」
思わず顔を伏せる。恥ずかしすぎて足をジタバタさせたい。さすがにそんなことはしないが。
少しの間悶えて落ち着くと、昨日のことを丁寧に思い出す。のだが……。
「ヴァン様……温かかった……」
自分の体を抱きしめるようにしてぼんやりとする。彼の温もりが、匂いが、眼差しが、忘れられない。
「もう一度、お会いできるかしら……」
彼の笑顔を思い出すと途端に体温が上がる。
「この気持ちってなんていうのかしらね……」
初めて感じる気持ち。戸惑うが暖かくて心地よい。
「ここにはヴァン様が運んでくださったのかしら……」
泣き疲れて眠ってしまったのだろう。彼に縋り付いて泣いた後の記憶がない。だが、ちゃんとネグリジェを着てベッドに入っていた。
「も、もしかしてヴァン様が着替えさせてくださったのっ……!?」
コンコン。
恐ろしい想像をした瞬間、ノックの音が響く。
「誰か来る予定なんてないはずなのだけど……」
侍女1人ついていない自分に来客というのを不思議に思いながら返事をすると、侍女服を着た少女が入って来た。
「おはようございます、ティアフレア様。今日からお世話させていただくことになりました、侍女のエリカと申します。よろしくお願い致します」
お辞儀する様子を呆然と見つめる。な、なんでいきなり侍女がつくの……?
「ど、どういうことですか? な、なぜ急に……」
今回の使節団の中で、私の存在は一応公爵令嬢となっている。侍女を連れてくるのが当たり前で、帝国側がわざわざ侍女を用意しているはずがなかった。
もちろん、誰かに頼むことは可能だし、言えば用意してくれる可能性が高かったが、私は誰にも頼まなかった。忌み子の世話係なんて嫌がらせ以外の何物でもない。
それなのに一体なぜ……? 戸惑った表情で見ると、エリカさんが笑みを浮かべる。
「宰相閣下から直接ご指示があったのですよ。ティアフレア様も侍女を連れてきていないのでしたら言ってくださればいいのに」
「い、いなくても平気ですので……」
「あら、宰相閣下からのご厚意を無駄にするおつもりですか?」
エリカさんの笑顔が怖い……。
「い、いえ、そういうわけでは……」
「わかっていただけて良かったです。では、早速お着替えしましょう!」
「は、はい……」
顔を引きつらせて頷くと、手早くドレスを着せてくれる。髪をまとめながら、思い出したようにエリカさんが口を開いた。
「昨日はぐっすりお休みになっていらっしゃったのでお召し替えは勝手にさせていただいたのですけど、大丈夫でしたか?」
「あ、エリカさんがしてくださったのですね。ありがとうございます」
「いえいえ。ヴァン様から頼まれて来て見ればドレス姿で寝ていらっしゃったので」
ヴァン様が着替えさせてくれたわけじゃないことにホッとするが、そんな状態を見られたことに頬が熱くなる。
エリカさんがにニヤッと笑う。
「あのお方のあんな表情初めて見ました」
「そ、そうなんですね……」
面白がられているような気がするがなぜだろう……?
「そういえば、ヴァン様って何者なのですか?」
私の問いにエリカさんは申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「申し訳ございません、それについては言わないように言われておりまして。ただ手紙は受け取っておりますよ」
エリカさんから白地に金の模様が入ってるおしゃれな封筒を受け取る。微かに震える指でそっと開くと一枚の便箋が出てきた。
『また会おう』
それだけが書かれて、手紙というにはあんまりな物。だが、ヴァン様の温もりを感じて自然と心が温かくなる。
その様子を微笑ましげに見られていたことに私は気づかなかった。
「んっ……眩しい……」
陽の光を感じて目を開くと、自分の部屋の天井が目に映る。
「いつベッドに入ったのかしら……っ!?」
昨夜のことを思い出して体が熱くなる。
「私ったらなんてみっともないことをっ……!」
思わず顔を伏せる。恥ずかしすぎて足をジタバタさせたい。さすがにそんなことはしないが。
少しの間悶えて落ち着くと、昨日のことを丁寧に思い出す。のだが……。
「ヴァン様……温かかった……」
自分の体を抱きしめるようにしてぼんやりとする。彼の温もりが、匂いが、眼差しが、忘れられない。
「もう一度、お会いできるかしら……」
彼の笑顔を思い出すと途端に体温が上がる。
「この気持ちってなんていうのかしらね……」
初めて感じる気持ち。戸惑うが暖かくて心地よい。
「ここにはヴァン様が運んでくださったのかしら……」
泣き疲れて眠ってしまったのだろう。彼に縋り付いて泣いた後の記憶がない。だが、ちゃんとネグリジェを着てベッドに入っていた。
「も、もしかしてヴァン様が着替えさせてくださったのっ……!?」
コンコン。
恐ろしい想像をした瞬間、ノックの音が響く。
「誰か来る予定なんてないはずなのだけど……」
侍女1人ついていない自分に来客というのを不思議に思いながら返事をすると、侍女服を着た少女が入って来た。
「おはようございます、ティアフレア様。今日からお世話させていただくことになりました、侍女のエリカと申します。よろしくお願い致します」
お辞儀する様子を呆然と見つめる。な、なんでいきなり侍女がつくの……?
「ど、どういうことですか? な、なぜ急に……」
今回の使節団の中で、私の存在は一応公爵令嬢となっている。侍女を連れてくるのが当たり前で、帝国側がわざわざ侍女を用意しているはずがなかった。
もちろん、誰かに頼むことは可能だし、言えば用意してくれる可能性が高かったが、私は誰にも頼まなかった。忌み子の世話係なんて嫌がらせ以外の何物でもない。
それなのに一体なぜ……? 戸惑った表情で見ると、エリカさんが笑みを浮かべる。
「宰相閣下から直接ご指示があったのですよ。ティアフレア様も侍女を連れてきていないのでしたら言ってくださればいいのに」
「い、いなくても平気ですので……」
「あら、宰相閣下からのご厚意を無駄にするおつもりですか?」
エリカさんの笑顔が怖い……。
「い、いえ、そういうわけでは……」
「わかっていただけて良かったです。では、早速お着替えしましょう!」
「は、はい……」
顔を引きつらせて頷くと、手早くドレスを着せてくれる。髪をまとめながら、思い出したようにエリカさんが口を開いた。
「昨日はぐっすりお休みになっていらっしゃったのでお召し替えは勝手にさせていただいたのですけど、大丈夫でしたか?」
「あ、エリカさんがしてくださったのですね。ありがとうございます」
「いえいえ。ヴァン様から頼まれて来て見ればドレス姿で寝ていらっしゃったので」
ヴァン様が着替えさせてくれたわけじゃないことにホッとするが、そんな状態を見られたことに頬が熱くなる。
エリカさんがにニヤッと笑う。
「あのお方のあんな表情初めて見ました」
「そ、そうなんですね……」
面白がられているような気がするがなぜだろう……?
「そういえば、ヴァン様って何者なのですか?」
私の問いにエリカさんは申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「申し訳ございません、それについては言わないように言われておりまして。ただ手紙は受け取っておりますよ」
エリカさんから白地に金の模様が入ってるおしゃれな封筒を受け取る。微かに震える指でそっと開くと一枚の便箋が出てきた。
『また会おう』
それだけが書かれて、手紙というにはあんまりな物。だが、ヴァン様の温もりを感じて自然と心が温かくなる。
その様子を微笑ましげに見られていたことに私は気づかなかった。
35
お気に入りに追加
565
あなたにおすすめの小説
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。
木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。
彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。
しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
【完結】婚約破棄にて奴隷生活から解放されたので、もう貴方の面倒は見ませんよ?
かのん
恋愛
ℌot ランキング乗ることができました! ありがとうございます!
婚約相手から奴隷のような扱いを受けていた伯爵令嬢のミリー。第二王子の婚約破棄の流れで、大嫌いな婚約者のエレンから婚約破棄を言い渡される。
婚約者という奴隷生活からの解放に、ミリーは歓喜した。その上、憧れの存在であるトーマス公爵に助けられて~。
婚約破棄によって奴隷生活から解放されたミリーはもう、元婚約者の面倒はみません!
4月1日より毎日更新していきます。およそ、十何話で完結予定。内容はないので、それでも良い方は読んでいただけたら嬉しいです。
作者 かのん
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
村八分にしておいて、私が公爵令嬢だったからと手の平を返すなんて許せません。
木山楽斗
恋愛
父親がいないことによって、エルーシャは村の人達から迫害を受けていた。
彼らは、エルーシャが取ってきた食べ物を奪ったり、村で起こった事件の犯人を彼女だと決めつけてくる。そんな彼らに、エルーシャは辟易としていた。
ある日いつものように責められていた彼女は、村にやって来た一人の人間に助けられた。
その人物とは、公爵令息であるアルディス・アルカルドである。彼はエルーシャの状態から彼女が迫害されていることに気付き、手を差し伸べてくれたのだ。
そんなアルディスは、とある目的のために村にやって来ていた。
彼は亡き父の隠し子を探しに来ていたのである。
紆余曲折あって、その隠し子はエルーシャであることが判明した。
すると村の人達は、その態度を一変させた。エルーシャに、媚を売るような態度になったのである。
しかし、今更手の平を返されても遅かった。様々な迫害を受けてきたエルーシャにとって、既に村の人達は許せない存在になっていたのだ。
(完結)王家の血筋の令嬢は路上で孤児のように倒れる
青空一夏
恋愛
父親が亡くなってから実の母と妹に虐げられてきた主人公。冬の雪が舞い落ちる日に、仕事を探してこいと言われて当てもなく歩き回るうちに路上に倒れてしまう。そこから、はじめる意外な展開。
ハッピーエンド。ショートショートなので、あまり入り組んでいない設定です。ご都合主義。
Hotランキング21位(10/28 60,362pt 12:18時点)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる