上 下
4 / 30
1章 迷宮攻略はじめます

3. 元執事、誘われる

しおりを挟む
「あなた、私とパーティーを組まない?」
「「「「「はっ!?!?!?!?」」」」」

 思いもよらぬ言葉に俺は叫んでしまった。周りで聞き耳を立てていた人間も驚愕の表情を浮かべている。

「ちょっ、リリアナ様、正気ですか!? いくらフェール様がジークさんを倒したからって……」

 今の今まで黙っていたフィルナが声を焦ったようにストップをかける。が……

「いいの。この男は絶対普通じゃない。私は興味持ったものは興味が失せるまで徹底的に調べないと気が済まないタチなの。知ってるでしょ?」
「リリアナ様の悪い癖が……」

 フィルナが天井を仰ぐ。
 彼女——リリアナはフィルナに話している時も俺から一切目を離さない。その様子は、捕えた獲物は決して逃がさない魔物のよう。

 な、なんか怖いんだが!?

 背筋が凍るとはこういうことを言うのだろうか。あまり恐怖心を抱かない俺が怖いと思うだなんて、絶対こいつ只者じゃない!

 そんな俺の思考を察知したのか、リリアナはさらに笑みを深める。

「で、私とパーティーを組まない?」
「お断りします」

「「「「「へっ!?」」」」」

 俺の即答に俺以外が皆素っ頓狂な声をあげる。

「え、こ、断るの!?」
「えぇ。俺に利はないですし」
「私はこう見えてSランクなのよ!?」
「それが何か?」

 俺の返しにリリアナの目が点になる。

「そ、それが何かって……」
「確かにSランクは強いのでしょう。いや、ランクに限らずあなたが強いことは見ればわかります。ですが、俺は自由気ままに迷宮攻略がしたいだけで仲間という存在に縛られることは望んでいないのです。なので仲間探しなら他を当たってください」

 笑みを浮かべて丁寧に言う。
 さっき丁寧な口調の時の俺は怒っていると言ったが補足しよう。

 丁寧な口調で、しかも笑みを浮かべている時はもっと怒っている時だ。

 周りがざわめく。

「登録したばかりの初心者がリリアナさんに大口叩きやがって……」
「ああいう慢心しているタイプがすぐ死ぬのよね」
「すっごい奴が来たなぁ……」

 聞いている限り俺に対して肯定的なやつはいないようだ。

 まあ当たり前だろうな。リリアナは常時を使っているみたいだし。五感に作用する系統の魔法は魔法式が見えないのがよくない。
 強い効果ではないが、ここにいるやつらは基本的にリリアナの味方だと考えた方がいいだろうな。

 俺がそれに気づいたのは恐怖を感じたからだ。初めて会った相手に好意を持つ、しかも好意を持つ状況ですらないのに。それは意識をそいつに支配されているのと変わらない。
 普段あまり恐怖を感じない俺が恐怖を感じたのは、支配されることを嫌う俺の体質が拒絶反応を起こしたからだった。

 弱い魔法は意識さえすれば弾ける、もう俺がリリアナの魅了魔法にかかることはないだろう。

 リリアナは俺に魔法が効かないことに驚いているようだ。

「あなた、本当に何者……?」
「ただの駆け出しの冒険者ですよ。それではそろそろ失礼します」
「ちょ、ちょっと! 初心者のあなたが組めるなんて幸運なことのはずなのに……!」

 出て行こうとするとリリアナはなおも食い下がる。俺はめんどくさくなって彼女に一瞬で近づくと、耳元に囁く。

「魔法で信頼は得られませんよ?」
「っ!?」

 固まった彼女からすっと離れると、俺はやっとギルドから出れたのだった。



 ***



「今日は色々あるなー、王宮から逃走して、ギルド登録いったら酔っ払いに絡まれて魅了魔法かけられそうになって。色々ありすぎだろ。今日は本当は休日のはずだったのに……」

 ぼやきながら街を歩く。大都市なだけあって街はたくさんの人で賑わっていた。

「久々に来たな」

 思わず笑みが浮かぶ。
 以前ここに来た時は緊急の手紙を届けろと言われて魔法をフル活用して王都から三日三晩走ったのだった。正直もうしたくない経験だ。

「そういえば、迷宮攻略に必要なものが書かれているパンフレットもらってたな」

 フィルナから受け取ったパンフレットを確認する。

「保存食、水、テント、ロープ……保存食はあるし、水もテントもロープも魔法で代用できるな……あーでも魔力切れを気にしたほうがいいのか……?」

 自分のアイテムボックスに入ってるものを思い出しながら確認する。

 アイテムボックスとは収納魔法の一種で、開くと中が異空間になっていて物を収納できる魔法だ。収納できる量は魔力量に比例するらしいが、俺はとりあえず限界を迎えたことはないから気にしていない。

「魔力回復薬を買っておくか……」

 基本的に薬系統を使うことがないから持っていない。
 とりあえず買いに行こうと俺は職人街の方に足を向けた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行
ファンタジー
 ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。

処理中です...